弾丸狂想曲
吉城チト
プロローグ
プロローグ
──SouthEnd STM・前線──
もし世界が滅びるなら、ちゃんと最後まで滅んで欲しいとボクは思う。
中途半端に生き残って化け物を退治しながら暮らしていく世界?
まっぴらごめんだ。
小説やマンガじゃない、現実に身を置けばキミもそう言うだろう。
「HOLY SHIT!!!」ってね。
立ち並ぶ廃高層ビル群には横穴が幾つも空き、通り過ぎる風に揺らされて不気味に音を鳴らしている。
不気味な音は建物内にいても聞こえる。
そりゃそうだ。だって屋根ないし、半分は崩壊して瓦礫の塊だし。
建物と言えるかどうかはさておき、ここらへんはみんなこんな感じだ。
乱立している随分高い廃ビル以外は大中小どれをとってもボロボロのボロ。
空は曇天で太陽の日差しが入ってこない。おかげでただでさえ泥水に濡れて寒いのに余計に寒い。
ああ、なんでこんなことになったんだろう……。
なんでとは問うてみるものの、答えは明白だ。
油断。
そう、最近だいぶ楽に倒せるようになったからといって調子に乗った。ロクに偵察もしないで奥地にグングンと進んだ。
それがマズかった。
気付けば四方八方化け物だらけ。
完全に自分の落ち度だ。
でも、自分以外の何かのせいにでもしないと、とても落ち着ける状況じゃない……。
リンゴは音をたてないようにそっと窓に近付く。ガラスに藍色のショートカットと端整な顔が薄く映るが、髪はボサボサ、顔には泥がついていて台無しだ。
気分が落ち込む。
目の前の大通りには化け物、化け物、化け物。計六体。
余計に気分が落ち込む。
辛うじて人間の大きさと形を保ってはいるけれど、頭のてっぺんからつま先まで土気色。一目で人間じゃないと分かる。
弱いっていうのが誰の基準かは分からないけれど、六体もいたらボクにとっては充分脅威だ。
〝普通の〟人間との
人間が五〇で化け物が一だ。人間が、たった一匹の化け物を五〇人で囲んで、殴って、リンチしてやっと倒せる。
それが六体。
どうしよう? いや、どうしようじゃない、突破するしかないじゃないか。
突破して逃げて、逃げて、逃げる。凄く簡単だ。
このままただ突っ立っていても状況は悪くなるかもしれない。化け物は待ってくれないのだ。それならば今、こちらから仕掛けた方が絶対に良い。
リンゴは手に持っている黒と茶色の自動小銃のアイアンサイトの上で固まりつつある泥を服の袖で拭う。
木製の
銃身を囲むように上下左右に無理矢理取り付けられた様々なオプションを付けられるレイルには何も装着されていない。
代わりにいってはなんだが、泥が至るところにこびりついている。
こんなに汚れていても動くはずだ。これを売った露天商の言うことが正しければ、だけど。
リンゴはAK47を左手に持ち代えて、右手を右太股にベルトで固定された長方形で、文庫一冊半くらいの厚さの箱、特殊ホルスターの上に持って行く。
少し腕をブラブラと動かすとホルスターの基部が動いて、それに追随する。
よし、あとは──、
ガラッ
突然、瓦礫の崩れる音がした。しかも、すぐ近く、後ろ。リンゴは振り返って正体を確認する。
黄泉醜女。
四つん這いの化け物と目が合う。心臓が飛び出そうになる。マズい。超至近距離。五メートル。いや、三メートル。狙わなくても当たる距離。でも相手は人間じゃない。狙わないと倒せない。
装備の確認に気を取られて気付かなかった。醜女が今にも飛びかかってきそうだ。
どうする?
違う、殺るしかない。
リンゴはAK47のセレクターを
醜女が飛びかかってくる前に、リンゴは頭に狙いを付けて、引き金を引き絞ってすぐに離した。遁甲式で強化された三発の徹甲弾が貫き、醜女の動きを止めた。
倒した! やった! だけど、一息ついている暇はなかった。
外にいる六体の化け物たちが発砲音に気付いてこっちに向かっているはずで、AK47を背中の特殊ホルスターに収めたボクは助走を付けて窓ガラスにダイブする。
突き破って外に出てみるとやっぱり、まるで四足で走る獣みたいに化け物たちが駆けていた。
一体でも減らして逃げる。多対一でやりあうのは最後の手段だ。
リンゴはスカートの裏に固定された柄付き手榴弾を取って、黄泉醜女めがけて投げた。
何度も危ない場面を一人で切り抜けてきたんだ。絶対に生き残ってやる。
最前線で、手榴弾の爆発音が巨大楽器のビルに反響した。
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