死予約2

こんにゃく王子

第1話

白い棒に火をつけて満足そうに吸っている人間が集まるエリアの横を通り、俺は役所に向かった。「よく見かけるけど、あれはどういう集まりなんだろう」20年間働いた会社は、呆気なく倒産してしまい、再就職しようにも中卒という学歴と30半ばという年齢が邪魔をして、なかなか職につけないでいた。どうにか生活保護をと思ってきたのだが、聞いたこともない言葉を並べられた。要は受給できないということらしい。今はその死刑宣告とも言える言葉を受け、落胆のままに座っているところだ。


ふと、「死」予約承っていますの文字が目に入る。確か50年前に政府が認めた制度だ。それからは国営化されている。当時はデモがすごかったようだが、人間というのは慣れるもので、今は駅で反対運動の署名活動を時々見かける程度である。その時とほとんど同じ時期にあるのものが全世界で禁止になり、それに関しても当初は反対運動がすさまじかったらしい。その結果ある条件下でのみそれを得られるようにして、また使用するときは駅前等のエリアでのみとした。


気がつくと俺は「死」予約の窓口に向かっていた。

「死予約の窓口になっております。書類に記入してお待ちください」

窓口の女性が慣れた口調でそう言う。言われるがままに記入し、窓口に戻る。

「はい、受理いたしました」

「あの、料金は」

不安げに俺が訊くと

「あ、国営化された際に料金等は頂かないことになっております」

半ば呆れ顔でそう答えられた。「あぁ、俺ってダメだな」そう思い

「ありがとうございます」

とだけ答えた。女性はパソコンを操作するとこちらに向き直り

「申し訳ございません。ただ今予約が埋まっているので、こちらの品を毎日使ってください」

そう言って女性は箱を渡してきた。

「使用法なのですが、まず箱から中身を取り出して」

女性は箱から白い棒を取り出した。これはさっきも見かけたやつだ!

「この棒の先端に火をつけていただき、こちら側から吸ってください。火種がここまできたら火を消して、捨ててください」


それから2ヶ月ほど経った頃だった。いつものようにそれを使う。いつしか欠かせない、俺にとっては必需品となっていた。最初は無料と言っていたが、次に貰いに行くと500円取られた。アルバイト暮らしの自分にはきつかったが、食費を削るなどして何とかそれを得ていた。それを吸い、煙を吐きながら「これ、形といい特徴といいおじいちゃんが言っていたものと似てるな」しかし名前は思い出せなかった。


50年前、政府はついにあるものを廃止した。しかしそれを作っていた人間が大勢いたため、同時に「死」予約を国営化してそれを用いることにした。


俺は役所で渡されるそれを吸い始めてから、気分が落ち着き、就職もうまくいった。死ぬ気など全くなくなった俺は役所に向かった。

「あの、死予約なんですけど、もういいです。それにしてもなかなか順番まわってこなかったですね」

「はい、ですがお客様、もう手遅れでございます」

俺は何を言ってるんだと首を傾げながら、いつものようにワンカートンでそれを買った。



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