1/100の勇者候補生

カッパ永久寺

QUEST.0 百対壱

 救いの勇者ヒーローになりたいなんて――

 僕は一寸ちっぽけも思ったことはなかったのに。

 世界は不条理で不公平で。そんな僕の弱虫のツケを押しつけるように、厄災が訪れた。


 これは世界の終り。

 アーサー王もジークフリートも、ゲオルギウスも、そしてヴァルハラのワルキューレさえも……

 英霊の天命を受けた勇者たちが、なすすべなくコンクリートの瓦礫の上で伏していた。

「時は来たり」

 と――。

 狂勇者ベルセルクの棟梁――つまるところ、この日本を壊滅させようと現れた“大魔王”は宵闇よりも昏い剣を片手に、地に伏した勇者たちにトドメを刺そうとしている。

(くそぅ……)

 僕はどうすることもできなかった。

 なにせ、僕自身もその瓦礫の上に伏した満身創痍の勇者の一人だったからだ。

 あの大魔王の波動を受け、勇者たちは動けなくなっていた。立ち上がることすら、大魔王とその仲間の狂勇者を睨みつけることさえできなかった。

「瀕死状態――か。つまらん幕引きだ。もはやトドメを刺すのも煩わしい。カーリー、貴様が屠るがいい」

「カァ――ッ」

 女の子が歩いてきた。

 それはいつも“チビ”と揶揄されてきた僕――以上に小さな女の子だった。無垢に白いセーラーカラーの制服に包まれた、普通の女子高生。

 しかし、その子の顔はおどろおどろしい般若面を付けたみたいに彫りの深いトゲトゲとしたものになっていた。

 そして両手に二本の刀。

 その姿はさながら羅刹鬼のようだった。

 その羅刹鬼のような女の子が――見計らったように僕の前へと立ち止まった。獲物を見つけた獅子のように唸り声を上げる。

「ガゥ……ゥ……」

 理性を喪失したその子は、呪いにかけられたように激しく腕を動かした。

 右手の刀、左手の刀、それらを力任せに僕の身体へと叩き込む――


 キィイイイイイイイン――

「なに……」

 刀が止まっていた。カーリーと呼ばれた羅刹鬼の女の子の双刀が十字に交叉して止まっていた。

 その刀の下には――

 その女の子よりもっと小さな――勇者がいた。

「ボクが……助けにきたぁあああああああああああ!」

 その小さな勇者は、僕の誇りのトモダチだった。

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