ミアの不思議VR体験

犬時保志

第1話 これって夢だよね

 私、今川心愛(いまがわみあ)18才。

 偶然の事故ですが、世界で初めてVRゲーム体験しちゃいました。



 今私、大家さんの案内で、大学に近いアパート見せてもらってます。

(うーっ······ボロい)

 外壁は薄汚れ、寿アパートの看板は、アの字が剥がれ落ち、寿 パートになってる。

 今時アパートって普通ボロくてもコーポでしょ、いつ建てたの昭和初期?でも、バストイレ付きで月3万の家賃は魅力です、贅沢言えない。


 二階の202号室、ドアを開けると、50㎝四方位の玄関、左には小さな流し台、台所って事?狭い!!3畳無い、2畳半位?現代風に無理なリフォームの結果でしょう。

 右側はバス、トイレが並び、引き戸を開けると4畳半の板の間。

 フローリングじゃ無いよ、板の間!


 吐き出しタイプの不必要に重厚なサッシ戸を開けると、自動車がどうにかすれ違える道路の向こうに電車の線路が見えます。

 見晴らしは良いのですが、ゴツいサッシ戸は防音の為みたい、電車が通りましたが其ほど音は気にならない、結構良いかも。



 でも、隣の壁から

「あれーっ懐かしい!初めてプレイした、ファミコン[ミネルバロード]こんな所にあった。久し振りにプレイしてみるか!」

(私も[ミネルバロード]好き!!)

 大声じゃなく普通の話し声が、クリアーに聞こえて来ます。


 反対側からは、

「くっそう、俺のVR理論は完璧!バカにした奴ら、見返してやる!!」

「完成したぞー!!!」

 大きな声、ガンガン聞こえて来ます。


「大家さん、壁薄くないですか?これじゃ生活まる聞こえじゃないですか!!」

「いやーそのぅー」(ダメだ!この物件)

 ドアに手を掛け、出ようとした瞬間、感電して気を失ったようです。


 救急車で搬送中意識は戻ったのですが、頭痛がひどく検査入院する事になりました。


 見舞いに来た大家さんの話では、右隣203号室の住人が、壁全体に天井にまで何層にも巡らした回路基板、自称VR装置の誤動作で202号室に通電してしまったようです。


「壁の基板をゴキブリが走ったので失敗した。」

 って言ってたそうで、201号室の住人も、203号室のせいでファミコンが爆発し顔に怪我をおったそうです。

 203号の住人は、迷惑防止条例違反並びに、私と201号室の人に対する傷害罪で、逮捕されたそうです。


 大家さんは、平謝りで「壁に防音材を張ります、家賃は2万にさせてもらいます」


 月2万の魅力に負け、引っ越ししましたよ、ええ即!!

 引っ越ししたその夜、意外に音が気にならない。

 結構気持ちよく眠りに落ちました。

 幸か不幸かその時は、満ち足りて、本当に気持ち良く眠りました。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 気が付くと薄暗い室内、土壁は所々剥げ落ちて居て。

 ランプの油のためか、少し刺激臭が漂っていて目がシバシバします。

 私はと言うと、具合の悪そうな老人の手を握っています。


 節くれだった痩せた手、少しざらついて居て、でも暖かい手です。


 これは夢だね!


[ミネルバロード]のオープニングだよ、これって。

 台詞が来るよ!

「ミアよ、私はお前の父ではない、国王様より幼いお前を託された、只の騎士」

「お前は、憎きマゴンに滅ぼされた、ミネルバ国のミア王女」


(何か声かけた方が良いかな?)

「お父さん、しっかりして!!」

 棒読みっぽくなるのしょうがないよね、私女優じゃ無いもん。

「今まで良い娘で居てくれて····あ·り·が·と·う·····ガクッ」

 ほらね

(本当は王子のはずが、私に合わせて王女か)


 近所の人が集まって、葬式してくれています。

 埋葬が終わり、お墓の前でボーッとしてる私に、男の人が声を掛けて来ました。


「ミアちゃん、元気出して!」

 たれ目の気の良さそうな兄ちゃんが、目尻にシワを寄せて、フワッとした笑顔で私を見ています。

「渡したい物が在るから店に来て」

 と言ってスタスタ歩いて行きます。

 後ろ姿を見ると、頭の上に吹き出しが·······。


 武器屋トム  LV10 HP100


「ミアちゃん、困ったら何でも相談に乗るよ!」

 声を掛けてくれた、おばちゃんにも

 宿屋サラ  LV5 HP50と頭上に。


 目を上に向けると、私にも吹き出しが。

 ミア LV1 HP10

 はぁゲームの夢っぽいね。


 どうでも良いけど、話が進まないので、トムさんの後を追いかけました。

 綺麗に整地された石畳の路を早歩きしてます。

 始まりの町は、古いギリシャ風で、結構綺麗な街並みです。

 肉屋に薬屋、雑貨屋に酒場それに食糧品店、トムさんの店は鍛冶屋兼武器屋で、町外れにありました。


(こんなイベントあったっけ?私がミネルバロードで最初にしたのは、全財産で銅の剣を買い、防具は無しで、ひたすらLV上げ)

(町を一歩出た所でワーム狩り、攻撃受けたら町に入り、自室で体力回復の繰り返し、気長にやってLV30位上げた)


 考え事してたら、トムさんの店に着いたみたい。

 店内はナイフやナタ、斧や弓矢、銅の剣や鉄の剣が整然と飾られています。

 鋼のロングソードは、ギラリと恐ろしいくらいの迫力があり、圧倒され眺めて居ました。


「ゼムさんに、頼まれてたんだ·····」

「わしにもしもの事があれば、ミアに武器を渡し鍛えてくれ」って。


 声に振り向くと、目の前の台に様々な剣が並べられ、冷たく輝いていました。

(うわっ!!こんなの触って指でも切ったら、包丁で切った処の傷じゃ済まない!恐いよ!!!)


 トムさんは平気でロングソードを持ち

「これ持てそう?」

「無理!!」即答です。

「うん、だろうね···じゃ、これは?」

 銅の剣かな?ゲームでは、LV1でも振り回せたけど·····。

「うーーん無理!重いよ!!」

 両手で剣を握り、持てた様でしたが、剣先が台から離れません。


 結局細いレイピア?6~70センチの片手剣を、両手でやっと扱えました。

 情けない、夢ならもうちょっとカッコ良く行きたいよ!!


 防具は胴当てとブーツが良いな!

 出された防具は、防弾チョッキのような物で、頭から被ると、肩の部分は柔らかい革で、胸胴と背中の部分は、膠(にかわ)か何かで固められた固い革で出来ていて、両脇を革のベルトで締め付け、フィットさせると身動きの邪魔にならない良品質でした。

 ブーツは柔らかい革で履き心地最高です。

 このブーツはうれしい!!


 はっと気付きました。

 ディスプレイされた値札から推測し全部で50万100万ゴールドはしそう·····。


「トムさん、こんな高価な買い物出来ないよ!お金が無い··········」

「ああ、安心して、ゼムさんにお金はもらってる!」

「それから、これも」「何?」

「アダンの実50個入ったカートリッジ」

「99個入れたら、重くて持てないだろうから、50個」

 33個収納が3層になったカートリッジ、持ってみると、片手剣よりも重い

「ベルト右側に装着して」

(これがアダンの実か、黒く丸いウズラ卵位?)


「それじゃ、今日はゆっくり休んで、明日からワーム狩りでLV上げだよ!!」

 そうそう、ミネルバロードはスライムは出ないで、ワームだったHP5の雑魚モンスター


 えーーと、大変です!私の家はどこ?

 石畳の路をフラフラ迷っています。

 もう嫌!!!

 まだ目が覚めないの?



「ミアちゃん大丈夫?」

 帰りの遅い私を心配して、宿屋のサラさんが迎えに来てくれて助かりました。

 夕食までご馳走になって、家に連れて帰ってくれました、本当に助かりました。

 サラさんは「お父さんを亡くして、よっぽどショックだったのね」涙ぐんで言いました

 凄く心配掛けてしまったようです。

 私の家は、サラさんの宿屋の隣でした。

(間抜けな話ですが、しょうがない!初めての町だもの)


 夢の中で寝ても、現実に戻る事は、出来ませんでした。


 と、言う訳で、トムさんに引っ張られ、朝も早くから完全装備で町を出ます。

 振り返って見ても、町はそのままありました。

 ゲームみたいに、くしゃっと町のマークに変わる事はありません。

 に、しても長い夢だね!いつ覚めるのかな··········。


 朝日に照されて、朝露に濡れた草原がキラキラ光っています。

 早朝の爽やかな風が、心地好く私の髪をなぜて行きました。

 リアルな夢だね!!


 ふうっ完全装備での行軍つかれたよぅ

 1時間位歩いたころ、やっと景色が変わりました。

 目の前一面の砂丘です!

 トムさんが言います「気を付けて!!」

「此処からワームが出る!」

 ゲームでは、町から一歩出たらモンスターが出たけど、そんな危ない所に、町は造らないよね。


「アダンの実を準備して、周りを注意する!」

「えっ?はい!!」

 アダンの実を握り、いつでも投げれるようにして、辺りを見回します。


「出た!!」

 太さ30センチ長さ1メートルの化けミミズが、ウネウネ向かって来ます。

 動きはトロイけど、キショイ!!

「まだアダン投げない!」「あわてないで、落ち着いて!」

(慌てるよ!動きが気持ち悪いぃ)

 うわぁ足が震えてる·····

 まだぁ·····まだ投げないの?

「よし!良く狙ってアダン投げて!!」

「えいっ!」

 力み過ぎ、ワームの頭上遥かを通り過ぎて行きました。

 私が失敗したのを見たトムさんが、空かさずアダンの実を投げました。


 ボンッ!!!

 意外に大きな音にびびって、頭が真っ白に成った所に

「剣を抜いて、ワームを刺して!!」

 トムさんのタイミング良い指示に、体が自然に動きました。

 私の一刺しでワームは消えて、宝箱が残りました。


「フンスッ!!」私って、やる時にはやる娘!剣道2級の実力見たかワームめ!!

 震えは治まてて、気分がハイになってました。


 次に出たワームは、余裕でアダンの実をぶっつけて、HP2に削って剣の攻撃!

 あっさり宝箱に変わりました。

 また1ゴールドだったけど、今はLV上げ!


 頭上を見ると、LV2 HP20に上がっていました。

 その勢いでワームを更に5匹倒し、LV3 HP30になった所で

「今日はここ迄にして、町に帰ろう!」

「明日は休み、ゆっくり休養して、明後日はグラスドッグ狩り」

 疲れてて、うなずくだけの私に、トムさんは爽やかな笑顔で帰って行きました。


 疲れた!夢なのに、こんなに疲れる?

 ベッドに倒れ込みました。

 セーブこれで出来てるのかな··········

 折角LVアップしたんだもん·····消えちゃうの悔しいから··········

 ·····こんなに疲れる夢·····早く覚め··········



 意識が戻りました、長い疲れる夢の為か、頭が重い!!

 時計を見ると、もう8時

 寝た気が全然しないよ、体がだるい·····

 今日は昼からコンビニのバイトか·····

 だるぅー


 この時の私は、急激なLVアップに、リアルの体が馴染んでいない事に、気付くはずもありませんでした。

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