体にくっつける系ペットさま

ちびまるフォイ

体と一緒にいつまでも

「ペットなんて飼うと、それこそ婚期逃すよ」

「ほっといてよーー」


友人の反対を押し切って最初に飼ったのはハムスターだった。

そこからどんどん部屋に生き物がいる嬉しさに目覚めて

気がついたときには犬猫ハムスターイグアナなどなど……。


「それじゃ、行ってくるね」


ペットみんなにおはようの挨拶といってきますを言うと、

どの子も寂しそうな顔をするのが本当に辛かった。


「ずっと一緒だったらいいのに……」


家で悲しくお留守番をしているみんなのことを思うと心が傷んだ。

そこで、私は合体病院へと足を運んだ。


「なるほど。それで飼っている猫を胴体にくっつけてほしいと」


「はい。この病院は合体研究で有名だと聞いたもので。できますか?」


「もちろんですよ。ただし、先に言っておきますが

 そんなことを施した人間は未だかつていません。

 あなたにどんなことがあったとしても責任は――」


「かまいません」


私は言葉を遮り前のめりになって告げた。

手術が終わる頃には私の胴体と猫の背がくっつけられていた。


「ああ、嬉しい。これでずっと、どこへ行くときも一緒なんだね」


「にゃあ」


猫を身体に癒着させてからとにかくお腹が減るようになった。

前までは肉中心の食生活だったのに、お魚ばかり口にするようになっている。


「ニャーちゃん、嬉しい?」

「ごろごろごろ」


私が食べたものは消化器官を分岐させた猫へと流れていく。

私の元気がこの子に流れるのかと思うと本当に愛おしくなる。


「いままでずっと一緒にいられなくてごめんね。

 でももう、どこへ旅行へいくときも一緒。

 これから同じものを食べて、同じものを見て、一緒に生きていこうね」


「にゃ!」


猫との生活も慣れてくると、だんだんと猫の気持ちもわかるようになってきた。


「あ、なでてほしいんだね」

「にゃあ」


つながっている私の胸と猫の背中を通じて気持ちがシンクロする。

猫が喜ぶと私まで嬉しくなるし、私が嬉しいと猫も喜ぶ。


「なんて幸せなんだろう。もっとみんなを近くで感じたいなぁ」


今度はすべてのペットをケージに入れて病院へと運んできた。


「……本気ですか?」


「はい、先生がやってくれた合体手術のおかげで

 私は毎日ハッピーなんです。もう最高。

 他の子にもこの幸せを分かち合いたいと思うんです。

 ニャーちゃんだけこんなに幸せなんてもったいないじゃないですか」


「……わかりました」


手術が終わると私の身体はペットだらけになった。


手の甲をハムスターのお腹とつなげ、背中に犬のお腹をつなげる。

二の腕にイグアナをはりつけ、腰にはうさぎをくっつける。


まだ結合が馴染んでいないときは怖がったり嫌がったりしていたが

私の気持ちがつないだ身体を通して伝わるとみんなおとなしくなった。


「みんな、これからはずっと一緒だね」


みんなの分の食事を一人でまかなわなくちゃいけないので

大食いファイターばりの食欲にはなったけれど気にならない。

私の周りからはだんだんと人が避けるようになっても気にならない。


私は私が好きなものに囲まれた生活を手に入れたのだから。



「あ、危ない!!」



どこからか声が聞こえたときにはもう遅かった。

車のヘッドライトがすぐそばまで近づいていた。


跳ね飛ばされた衝撃と痛みはあったが、それを伝えまいと必死にガマンした。


身体の家族たちを傷つけないようにとペットのいない身体を地面に向けて倒れた。

のちに私は病院に運ばれたが、たいした怪我にはならなかった。


私自身は。


「車に引かれて手の甲が傷つくだけに終わったのは奇跡ですよ」


搬送先の医者はニコニコと笑っていた。


「あの、聞いてますか? どうしたんですか?」


「ああ、ああああ……!!」


手の甲だけ。それが最も辛いことだった。

跳ね飛ばされ着地した衝撃で手の甲のハムスター下敷きになり死んでしまった。


身体をつないでいるから、もう死んでしまっているのがわかる。

どうしようもない辛さが身体を満たしていく。


「ごめんね、ごめんね……私が不注意だったから、ごめんね……!」


「無事だったからよかったじゃないですか」


「私なんか無事じゃなくてもいいんですよ!!」


私が最初に飼ったペットは、身体の中で一番最初に死んでしまった。

次の日も、その次の日も私はひとりで泣き崩れ、食事も失せてしまった。


私にかかる悲しみのストレスはやがて動物たちへと伝染し、

やがて、家族は1つずつ命の火を消していった。


すべての身体ペットが死んでしまってから、私は合体病院を訪れた。


「そうですか……全部死んでしまったんですね……」


「もう悲しみを止めることができなくって。

 ストレスで死んでしまうから、またそれで辛くなって……」


「わかりました。死んでしまったペットたちを切り離しましょう。

 安心してください。私はその手の手術も専門なんですよ」


「切り離す!? 正気ですか!?」


「え?」


「私はこの子達がつながったままで問題がないかどうかを確認しに来たんです。

 切り離してどうするつもりですか!!」


「それは、火葬とか……お墓にいれるとか」


「そんなことしたら、またひとりぼっちになるでしょ!?」


私は医者の助言をつっぱねた。

このままでも悪影響はないとのことでペットたちの死体をつなげたまま生活を続けた。


「……あれ?」


ふと、鏡を見たときに気がついた。

身体にくっついていたペットたちが目立たなくなっている。

服をきたときもこれまでのように盛り上がることも少なくなった。


「私、もしかしてペットたちを吸収してる?」


くっつけていた皮膚と皮膚は徐々に私がペットの身体を侵食し、

身体の内側へとペットたちの身体を吸収していく。


時間をかけてゆっくりと私の身体に溶け込んでいくペットたちは

死んでも私の身体の中で生き続けていると思うと幸せだった。


「みんなこと、ぜったいに忘れないからね」


ついに私の身体にくっつけられていたペットたちは体内へと姿を消した。




ペットを失ってからしばらくしてのことだった。


「君のことが好きだ!!」


「うれしい、私もう人との恋愛なんてできないと思ってた」


「この気持ちに答えてくれるかい」

「もちろん」


ペットを飼うと婚期を逃す。

ペットがいなくなると婚期が近寄るのかなと、

そんなことを言っていた友人言葉を思い出して笑った。


「ううん、きっとみんながいたから今の私がいるのよね」


「なにか言ったかい?」


「気にしないで。私、あなたともつながりたいわ」


男はその言葉を聞くと息が荒くなり早口になった。



合体病院へ案内したころに、伸びていた鼻の下が引っ込んだ。


いまでは彼とも離れられない関係になっている。

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