死予約

こんにゃく王子

第1話

はい。以上の条件で大丈夫です。予約お願いします」

「お一人様確かに承りました。申し訳ありません、こちら予約が混み合っていまして、お時間を頂いております。」

保険会社は1つに合併され、その中で「死」予約というものができたのは最近の話である。生きることに絶望して、またはただ生きていることに飽きて、理由は様々だが死ぬことを選んだは良いけど、自分では死ぬ勇気がない人間が使うものである。


ネットでは有名であるが、どういうわけか政府はこれに関与しようとはしなかった。見て見ぬ振り、という訳だろうか?その方が政府も都合がいいのかもしれない。


「死ぬまで後半年もかかるのか、勘弁してほしいな」

僕は飽きて死ぬことを選んだ人間だ。池袋の裏路地を歩いていると、怪しい占い師が話しかけてきた。

「そこのお兄さん、ただで占ってあげるからおいで」

拒否しようとしたが、半ば強引に手を引かれ椅子に座らされた。

「じゃ、占っていくからね〜」

別に頼んじゃいないが、前にいるうさんくさいおばさんは水晶を手でなでるかのような動作をし始めた。

「ふむふむ、分かってきたぞ、あなた今人生つまらないと思ってるでしょ」

当たってはいるが、つまらなそうに歩いてるやつ捕まえてそう言ってるだけだろう。お金が発生する前に適当に切り上げて帰ろう。

「ほーう。最近の死にたいと思っているな、これは!死予約したのね」

そこまで当てられると少し信じたい気持ちもしてくる。信じられないことにこの後、このうさんくさいおばさんは次々と僕のことを当てていった。果ては住所までも当てた。

「凄いですね……どうやって当てたんですか?」

流石に気になり、そう問いかけると

「いやいや、私は占い師だからね、そんくらいのこと朝飯前よ、アドバイスあげちゃうわ」

そう言うと頼んでもいないのにアドバイスを始めた

「そうねあなた今お兄さんが死んで、生きる希望失ってるわね、騙されたと思って部屋の掃除と、早寝早起きと、三食しっかりとってみなさい!」

別に半年後に死ぬ訳だし、やってみるかと思いそれを実行することにした。


半年が経った。僕には大切な人がたくさん増えた。彼女に友達に、バイトも始めてそこでお客さんや同僚にも必要とされていた。僕は最も恐れていたことが現実になったことに、震えた。死にたくない。あの占い師のせいで死にたくなくなったのだ。悪魔め!僕はいつきてもおかしくない「死」予約執行人に怯えていた。


ピーンポーン


チャイムがなった。恐る恐るドアの外を除くとそこには配達の人が立っていた。良かった。安堵しながらドアを開けるとその配達人はニヤァと笑い

「死予約を執行するために参りました」

そういうと刃物を取り出した。

「嫌だ、し、死にたくない」

「そうおっしゃるお客様が多くてですね、バレないようにこの格好をしております」

女はどんどんと距離を詰めてくる。かべに背中がドンと当たり、女を見上げると

「それでは、執行いたします」

「死にたくない!!ころさないでくれ!」

僕は精一杯叫んだ。

「そうですか」

女は帽子を外すと、今度はニッコリとこう言った。

「返金はございません。ですが、これからの命はお返しいたします」

僕は安堵とともに驚いた。その女はあの占い師だったのだ!


「総理、我が国の国内総生産は上昇傾向にあります。国民も幸せかと」

「そうか、あの制度のおかげだな、補助金を増やそう。くれぐれも国民には、特に予約した人間には、バレないようにな」

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死予約 こんにゃく王子 @nyakusan

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