18話 我ら、誇らしく凱旋。そして唖然。


 実のところ、ドラゴンの里で過ごした時間はものすごく楽しかった。


 見たこともない料理に様々なショップ。特に、ドラゴン達は手先が器用らしく、精巧に作られたアクセサリーが「これでこんな値段!?」ってくらいの価格で売られていた。


 ある屋台の前で、ノイルと俺が話していると、スイが、そこで売られていた水色の水晶で作られたネックレスをジッと見つめていた。


 俺が「スイ、それ気に入ったの?」と聞くと、首をブンブンと振って否定した。


 否定するものの、顔に欲しい欲しいという欲望が出ていたので、買っておいた。といっても、日本円で600円くらいのものだ。



「君たちに気に入ってもらえて良かったよ、またいつでもおいでなさいな!」



 別れの際、ノイルはこれでもかと満面の笑みを咲かせ、尻尾をブンブンと振っていた。



「トカゲの里などニ度と来ませんよ。当たり前じゃないですか」



 そう返すスイも、屋台で買ったアクセサリーの袋をギュッと抱きしめていた。



「おう、また来るよ。今度はメリル達も連れてくる」


「約束だね! 楽しみにしておくから!」



 そう言って、俺たちのドラゴン討伐は無事(?)終了したのであった。



 〜 〜 〜



「よし、んじゃ、スイ、家に帰るか」


「わかりました、タクト様」



 渓谷の入り口で、スイと俺はダンジョンの前までワープした。


 ーーシュワンッ。


 たどり着いたダンジョンの入り口で、俺はなんとなく懐かしい気分になった。


 ドラゴンの里に居たのは1日足らずだったが、どうやら過ごした時間は非常に濃かったらしい。



「いやぁ、にしてもこんな呆気なくドラゴン討伐を達成するとは……」


「タクト様なので当然でしょう」


「い、いやいやぁ……」



 ーーあんたが全部やった気がするんですけどねっ!?



「さすがタクト様、常人ならば即死していたところを、わずかな時間で制圧してしまうとは」


「いやだから全部あんたが殺りましたよねっ!?」



 ピタッと、コクコクと頷いていた首を止め、こちらに顔を向けるスイ。



「…………」


「………なんですかね」



 

スイはそのまま、首をコテンと傾げた。


「どういうことでしょうか」


「わからないわけないだろコンチクショウめっ!!」



 尚も訳がわからないをするスイと、ゴチャゴチャとやり取りしながら、俺たちはダンジョンの入り口までたどり着いた。



「うわぁ〜、なんかすげぇ懐かしいんだけどなんなのこの感覚」


「それはタクト様がこのダンジョンをお気に召すからではないでしょうか」


「あ……」



 ふと呟いた言葉を、スイにサラッと返され、なるほどと得心した。


 俺はなんだかんだいってこの世界を楽しんでいるのだ。新しい出会いに、新しい経験、この世界に転生してから新しい物ばかり溢れていることに全く気づけていなかった。



「……神に、感謝しなければいけないのかもしーー」


『あっれれ〜? タクトきゅん嬉しい事言ってくれる「ーーするわけねぇか、俺を殺した張本人だし。クソだし」


『ねぇ、ひどくない!? あまりにも酷くない!?』



 ああ、やっちまった。神話題など出さないと決めていたのに。


 ーーぎゃあぎゃあと脳内で騒ぐ神をほっぽって、俺とスイはセーフハウスへと歩みを進めた。



「この世界、めちゃくちゃな事ばっかだが、なんだかんだ俺は気に入っている。あの騒がしいメリルの顔すら懐かしい気がするよ」


「タクト様にお気に召されて、さぞかしこの世界も喜んでいることでしょう」



 うん、それはないよ。うん。


 そして、俺たちは玄関ドアへとたどり着いた。


 さてさて、メリルとスラは大人しく待っていたかな……?



 ーーガチャ。



「このやろーーー! ばかばかばか! このおまんじゅうは妾のものだぞ! スライムがたべちゃだめなんだぞ!」


「いやいや、スライムとて甘味は好物なのです! いいじゃないですかちょっとくらい!」


「嗚呼、メリル、メリルメリルメリルメリル」



 阿鼻叫喚であった。俺はそっとドアを閉め、スイと目を合わせた。


 何かを察したスイは、目をそっと閉じて、つんと尖らせた唇を俺に向けた。



「スイ、部屋の中を見たな。あそこには行っちゃいけない。なぜか今日はここに居てはいけない存在(クリス)すら見えた気がするんだ」


「……」


「スイ、聞け。俺らは巻き込まれてはいけないんだ。このままスライムの里へ向かおう」


「……」



 スイは目を瞑った顔をこちらに向けたまま、硬直していた。



「……す、スイ?」


「なんでもありません」



 瞬時に硬直を解いたスイが、顔を下に向け早口に言った。


 ーーなんかマジでカオスになってねぇか? ここの空間ダンジョン



 ーーガチャ。



「タクトぉ、スラが妾のおまんじゅうたべたぁ〜!!」


「た、たふとはん! こへにはふかひじひょうが! (た、タクトさん! これには深い事情が!)」


「メリルメリルメリルメリルメリルメリルメリル」



 メリルが泣きながらスラを指差して訴えてきた。



「ーーいや、おめぇら何でわかったの!?」


「「たんちまほう(たんひまほふ)」」



 2人は真顔でそう言った。



「メリルメリルメリルメリル」


「なんで索敵はしっかりできてんだよ……」


「「とうぜん(とふぜんでふ)」」


「あのなぁ、「メリルメリルメリルメリ」ああもううるせぇ黙れそこの金髪!!」



 ーーああ、もう、家に帰れば喧嘩してる奴がいるし、スイはなんか使い物になんなくなってるし、それになんでクリスがここに……。



「………があああああああ! 寝る! 起こすな! じゃあな!」



 遂に俺は思考停止し、自室にて寝ることにした。


 いや、普通に処理できんだろ。許せ。



 ーーん? 続き? それも後だ。後!!!

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