青汁&タバスコを水道水で割る

頭野 融

第1話(完結)

「酔いがさめるような話をしてほしいって?しかも、怪談とかじゃなくて、人も死なない話?分かったよ。高校時代の話をするよ。青春のな。」


宮野さんが一年の一学期のおわりくらいに、文川に告白しようとしてた。


「何?登場人物はまとめてくれ?分かったよ。」


宮野さん、宮野 早奈さな1-2 A中学校出身

この話の主人公かな。陰キャ寄りの女子。明るくて少し天然で実は真面目。

背は高い、おとなしさもある。ロングヘア。


如田さん、如田ごとくだ 音羽おとは1-3 C中学校出身

この話では宮野さんのライバル的な存在。クラスを仕切っていくようなキャラ。

背は小さいけど、強気。さばさばしているような。ショートヘア。


井本さん、井本 真弥 1-3 B中学校出身

中性的な女子。陰キャでも陽キャでもない。不思議ちゃんかな。

背は普通。ほんとに中性的な見た目。髪はボブ。


水戸くん、水戸 考樹 1-7 D中学校出身

クラスの中堅的な男子。背は普通。


稲葉、稲葉 すぐる1-5 D中学校出身

次に言う文川の仲良し。高校で知り合ったらしい。背はちょっと高め。


文川、文川 遥人 1-5 A中学校出身

クラスの代表的な男子。発言力がある。背は高い。でかい。


長門、長門 陸 1-5 B中学校出身

文川の仲良し。背は小さい。


「特徴が分かりづらい?分かったよ。」


もし、道端に1000円が落ちてて、どうするかで言うなら。


宮野さんは拾って交番に届けて、その何割かをもらえるとなって、ためらいながら、もらっていくタイプ。

如田さんは、さっと拾って全部自分のために使うタイプ。

井本さんは、募金したいと思っても、1000円全部はちょっとなって思って、普通に買い物に使って、店を出る時に、おつりだけでも募金すればよかったって気づいて、しないタイプ。

水戸くんは500円ぐらい買い物しておつりをさっと募金できるタイプ。

稲葉は拾わずに素通りするタイプ。

文川はみんなのために使うタイプ。

長門は拾うけど、もう一度同じ場所に戻すタイプ。


放課後、文川に告白しようとしているとき、宮野さんは躊躇していた。

1-5の教室の後ろの入り口の傍に立っている少女は、影を潜めたがっているのだろうが、その秘めた気持ちがそんなことを許してはいなかった。外の赤く染まりかける前の空は少女の心を表しているかのようだった。廊下に人はおらず、各教室に人がまばらにいるぐらいだった。どの教室も放課後の独特の雰囲気だった。


そのとき、迷ってる宮野さんを水戸くんが見ていた。

少年は廊下にたまたま出たところだった。少しトイレにでも行こうかと思って。何気なく、ただ出て来ただけだったが、少年は非常に察しがよかった。そういう男の子だったのだ。


それで宮野さんに話しかけた。

何気ない世間話を装って。装っているのがばれないように頑張って装って。あくまで警戒心を抱かせないように、わざと足音を立てて、斜め後ろから近づいていった。


二人は高校で知り合って仲良くなったらしく、話していた。

二人で斜めに向かい合って。距離は近かった。


宮野さんは水戸くんに、恋愛相談をし始めた。いま、文川くんに告白しようとしていた、と。

少年は予想通りというそぶりを一切見せないようにしながら、話を聞いた。落ち着かないのが本当のところだが、そんなそぶりも見せなかった。後ろで手を組むぐらいだった。


文川は稲葉と一緒に教室にいて、楽しそうに話す、宮野さんと水戸くんを見ていた。

偶然、開いていた教室の窓から、廊下の様子が見えたのだ。二人で話していて、ふと目をやった先に二人がいたようだった。


文川は稲葉に、宮野と水戸ってなんか仲いいよな。付き合ったりしないのかな、なんて言っていた。

話題が二人に移った。稲葉が文川の席の前の席に勝手に座って、後ろを向いて話していた。


結局、宮野さんはその日は告白はやめたらしい。

少女は自分のクラスへと踵を返した。少年は当初の予定通り、トイレへと向かった。もう、そんな場合ではないと思いながら。


けど、水戸くんが同じ中学の稲葉にその顛末を話した。

文川と話し終えて教室を出て来たところの稲葉に、戻って来た水戸が話しかけた。階段の踊り場だった。


宮野さんは放課後の一件で少しいつもより帰るのが遅くなった。

ホームルームが担任のせいで長引いたときと同じくらいになった。担任の長い話を訊かされた時の気分とは違うが同じ系統の気分と、言えなくもなかった。


階段で井本さんにすれ違った。

二人とも知り合いで、だけれど、立ち止まって話し込むほどでもない、だけれど、無視するわけでもない、だけれど、ということで、二人とも目線を上げるだけにとどめて、結果として、目が合った。


バス停に向かう途中、二人で歩く、長門と如田さんを見た。長門は同じ中学でさらに言えば同じ小学校の真弥と仲が良かったんじゃなかったかしらなんて、宮野さんは思った。二人は楽しそうにスマホの画面を見せ合ったりしてた。宮野さんに気づいてて気づいていないようなふりをしていた。

画面はどこかへの地図なのか分からないが、夕方の表情の空の下、二人は青春の象徴のようだった。話し声、時折笑い声が響いた。二人ともベンチには座っていなかった。


家に帰ると宮野さんに文川からLINEが来た。水戸は良いやつだと同じ中学の稲葉も言ってたという内容だった。

ふと送られてきたLINEだったが、未熟な用意周到さを感じさせた。


宮野さんは翌日同じバスに偶然乗り合わせた水戸くんとバス停から一緒に登校した。

バスに乗ってると気づいた少年が少女に降りた後に声をかけた。少女は嬉しそうに反応して世間話に興じた。


それを井本さんが見てた。

視界の隅に入ったぐらいだったが、それでも目は捉えた。二度見こそしなかったが、それはその必要がなかったからだ。


教室で如田さんにそのことを話した。

大した意味はなく、少し面白い話題ぐらいのつもりだった。はずだった。


如田さんは宮野さんのネガキャンを長門にした。

性格が少し悪い。それを他人にばれないようにしているのがより悪いというような。


二人は宮野さんが見ていたように仲がよかった。

別の空気をまとっているような二人は、実は仲が良かった。


長門は教室で仲良しの男子三人で宮野さんの良くないところを話そうとした。

それは、仕組まれた、ふとした他愛もない語り口だった。


長門は一つ目と言ってなにかを挙げようとした。

二つ目やその後の存在を匂わせる切り出し方だった。そこには隠そうとしても隠れないとげがあった。それは人工で、バラよりもたちが悪いようだった。


文川はそれを否定して、稲葉に同調を求めた。

彼としては、自分の仲間に同調を求めるのは当然で、その結果なんて、気にするほどのものでもないはずだった。答えは決まっているはずだから。


稲葉は同調することはなかった。

静かに、話題を変えようとするだけだった。仲間からの同調をあきらめた少年が、何事もなかったかのように、テレビの話を始める。


如田さんは長門とも仲が良かったが、付き合っていたのは稲葉だった。

仲がいいのと恋愛対象は別だという模範的な例のように。それが当たり前の人とそうでない人が世には居る。


稲葉は宮野さんのネガキャンは彼女から直接聞いていた。

それは少年にとっては不可抗力であった。彼女の機嫌を維持させるのには、あまりにも簡単なアクションだった。


稲葉と長門はもともと仲が良く、水戸くんと稲葉は同じ中学校だった。

大きくはない中学校であったため、知り合い以上の関係だった。


稲葉と長門が遠回しに宮野さんから離れるように告げ、水戸くんは従った。

あたかも、自分に非があった、君は悪くない、自分が悪いという彼の纏う空気を察した、彼女はそれ以上追わなかった。追うことは自分にとっても惨めなことだし、彼にも悪いと考えた。


彼は聡く、背後の如田さんを感じていた。

それは彼にとっては、当たり前かもしれない。息をすることと、走ったら息が上がることの間に位置するぐらいの当たり前な事象だ。特筆すべきでもないというささやきが聞こえてきそうだ。


文川は稲葉、長門、如田さんの動きと水戸くんの考えをすべて察した上で、宮野さんをなぐさめた。水戸は悪くないと、本当にいいやつだと。

彼女もそれを痛いほどわかっていた。ただ、ありがとう、としか言わなかった。


宮野さんは文川といい雰囲気になっているかもしれないと思っていたが、文川は井本さんと付き合っているようだった。

なりゆきという理由がもっぱらのうわさではあった。


それは、井本さんが見栄を張るための工作でそれに文川は付き合っていた。

見栄というのは大事だ。意外にも。プライドも大事だが少し違う。個人がより簡単に能動的に確保できる。


稲葉と井本さんが仲が良いが、稲葉は如田さんにとられているからだとか。

そんな内情を、内情の定義を疑いたくなるくらいみんなが知っていた。


この一連の流れを宮野さんは数日後に水戸くんから訊くが、その話をしている二人の姿を見た、文川がやはり、宮野には水戸だと言う。

それは彼にとっては至極まっとうな思考回路だった。あの女の子は、ソフトクリームが好きで、それが毎日営業している、あの公園も好きであろう、と同じくらいの。三段論法という仰々しい名前に申し訳ないくらいの。


水戸くんは抑えきれずに宮野さんはきみのことが好きなんだ、と言いそうになるが宮野さんが止める。

それは、条件反射のようでもあり、理性の最たるところであるようにも見えた。とりあえず少年の華奢な腕が勢いよく控えめに飛び出してきた。


その様子をたまたま、稲葉が見ていて、彼女の如田に、よくわからない出来事があったというと、彼女の方はすぐに閃き、稲葉に宮野は文川が好きなんだろうと教える。

少年は驚くが、少女は当たり前だろ、と少しあきれた顔をする。少年はそうか、当たり前か、と無理に留飲を下げようとする。


稲葉は純粋な親切心から文川にその事実を伝えようとするが、居合わせた井本さんがよからぬ雰囲気に気付いて止める。

女子の勘というのはすばらしい。誰もがそう、賞賛したくなるかもしれない。拍手喝采は約束されていて、スタンディングオベーションの有無が争点かもしれない。


稲葉は文川に言う代わりに井本さんに口走ってしまう。

本当に口走った。少女は階段横の柱にもたれかかって聞いていた。。


井本さんが驚きつつも、幼馴染の長門に早奈って文川が好きなんだってと話す。

誰かに言いたかった少年は、行き場を欲しがっていた。それが、横にいた少女だっただけだ。


長門は迷って、水戸くんにそのことを相談する。というか、盛り上がろうとする。

盛り上がる話題というのは現代には不可欠だ。潤滑油では役不足だろう。助燃材かもしれない。


日は沈んでゆく。廊下の窓枠のシルエットが落ちない汚れの目立つ、生成り色の廊下に映る。


そこに感情なんて無かった。少なくとも見受けられなかった。

水戸くんは知ってたよ。と言い放つ。

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青汁&タバスコを水道水で割る 頭野 融 @toru-kashirano

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