107話〜神と魔族王の思惑


 ここはキリア城の図書館の奥の部屋の前。クレイデイルは部屋の前で眠り意識の中で知識を司る神シグムラカンと話をしていた。


 “我の目的。その1つが、ブラット=フレイという者について詳しく知りたい。”


 “シグムラカン様は神なのですよね?神なのであればブラットの事を存じている筈なのでは?”


 “うむ、本来ならそうなのだろうが、何故か分からぬのだ。我は、ガルドを守護しているグランワルズに、今起きている事を聞きガルドの子供であるブラットの事を知った。”


 “それは、どういう事なのですか?”


 “分からぬ。ただ言えるのは、他の神の力だとは思うのだが……我ら上位の神々にブラットの存在を知られては都合の悪い者がいるようなのだ。”


 “ブラットの存在を……しかし、何故そんな事をする必要があったのですか?”


 “うむ。お前は知らぬようだな。ブラットがどんな運命を背負い産まれたかを。”


 “ブラットの運命……それはいったい?”


 “まぁ、お前にこの事を話しても問題ないだろう。我はグランワルズに聞きその事を始めて知った。そうブラットが産まれながらにして王の器を持ち、それも新しい国を作る王の器をな。”


 “新しい国の王……ブラットがそうだというのか。だが何故……そうか、なるほど。そういう事なのですね。ブラットが新たな国を作り王になる事に反対をしている神がいる。”


 “ああ、その通りだ。ただ、その神が何者かが未だに分からぬらしい。”


 “分からないとは、どういう事なのですか?”


 “グランワルズから聞いた話では、ブラットはまだ産まれて間もない頃に高熱を出したらしい。”


 “その話は前にカトレアから聞いていましたが。それと何の関係があると?”


 “うむ。何故そのような高熱を出したのかだ。ただ、これはこうなる前にグランワルズが早く我の元に来てさえいればと悔やまれるがな。この高熱の原因が何か……それは、ブラット自身に運命を変えるほどの強力な呪いをかけた為、そう我の知識の中で知りえるこの呪い、使える神は5人しかいない筈だが、それがグランワルズも我もその神が誰なのか分からぬのだ。”


 “分からないのでは、どうやってその神を探すというのですか?”


 “それなのだが。今の状況では探すにも探せん。それならば、直接ブラットを調べた方が早いと思い、どんな様子なのか、どんな者なのかを詳しく知ろうと思ったのだが。”


 “なるほど。私もそれほど詳しくはないのですが、現状のブラットは、戦いに関しては弱いが打たれ強く、人柄はお人好し……ただ、何故か今になりドルマノフ様がブラットの為に封印した筈の力が、徐々に解放されつつあるようなのです。”


 “なるほど、本来持っていた力がか……うむ。そういえば、クレイデイル。先程ブラットの力について調べる為に、この部屋に入りたいと言っていたな。”


 “この部屋にあるかは分かりませんが。何故スプリガンに守らせてまで、この部屋の中の書物などを守るのか……もしかすれば、この部屋の中にあるのかもしれないと思い、どうにかしてあの怪物に気づかれずに済む方法はないかと模索していました。”


 “うむ。ブラットがどういう者なのかも気になる。その力もな。クレイデイル、1つ提案があるのだが。お前はこの中の書物がみたい。我はブラットの力が知りたい。”


 “シグムラカン様。いったい何をお考えなのですか?”


 “我は最初、お前に知恵を与えスプリガンを倒す事を考えていたが。ブラットがどれほどの者なのか知りたくなった。”


 “まさかブラットに、この中のスプリガンを倒させるおつもりなのですか?”


 “ああ、そうなるな。ただし、この中で暴れられては、クレイデイル、お前が困るだろう。それならば、広い舞台にブラットとスプリガンを放ち、その力を見ようと思うのだが。”


 “ですが、もしブラットの力が暴走してしまった場合、どうするおつもりなのですか?”


 “フッ、我もそこまで馬鹿ではない。その時の事は考えておる。ただ、何処でそれをするかなのだがな。”


 クレイデイルは考えた後、


 “その場所に直ぐに行けるのであれば、シェイナルズの遥か東南東に広い荒れ果てた土地があった筈ですが。”


 “なるほど。では、そこで行うのがいいだろう。後はそこにブラットとスプリガンを引き合わせる。だが、それをするにはある神の力が必要になるがな。”


 “その神とは?”


 “うむ。その神とは空間を管理する女神ブルーノア。それと今人間になっているフェリアにも手伝ってもらわねばならないだろう。数人の見届け人も必要になるだろうからな。”


 “そうなると魔族側にも見届ける者がいた方がいいのでは?”


 “クレイデイル。行くつもりなのか?城はどうなる?”


 “それは、確かに王である私が城を開けるとなると……ですが、ブラットの力を私も見て確認したい。”


 “うむ。そうなるとだ。この魔族の者でお前に化けられる者はいるか?”


 “私に化ける事が出来る者……。”


 クレイデイルが考えていると、意識の外側で何か暖かい感じがし、ふと耳をすませてみた。


 ……「クレイデイル様。よほどお疲れなのですね。仕方ありません、私はここで見張っているとしましょう。」……


 “ん?デルカ。そうか、シグムラカン様。1人いました。唯一信用できる者で、私に化ける事が出来る者が。”


 “なるほど。それならば、大丈夫そうだな。まぁ、何もなければ、さほど時間もかかるまい。では、早速準備に取り掛かるとしよう。”


 “シグムラカン様。ブルーノア様とフェリア様の居場所はお分かりなのですか?”


 “ああ、問題ない。後は話を付けるだけなのでな。クレイデイル、我が戻って来るまで待機し準備をしていてくれ。”


 “はい。分かりました。”


 シグムラカンはそれを確認すると、クレイデイルの意識から姿を消した。


 クレイデイルは徐々に目を覚まし、辺りを見渡すとそこにデルカが心配そうに見ていた。


 そしてクレイデイルは、デルカに今起きた事とこれからしようとしている事を話したのだった…。

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