128話〜危機一髪と口論{★}

 ここは、名もなき城の中庭にある、中央の祭壇から南東に位置する場所。


 現在この場所では、アリスティアとゲネスの配下の者たちが戦っており、テリオスとゲネスの睨み合いが続いていた。


 アリスティアは、テリオスの方を気にしながら、配下の者たちの攻撃を軽々とかわしている。


 そしてすかさずアリスティアは、魔法を放っていき1人2人と倒していった。


(フッ、ざっとあと10人と言ったところか。これなら、さほど強力な魔法を使わずとも倒せそうだ。だが、テリオス王子は大丈夫なのか?

 先程からみていると、ゲネスとかいう者を睨みつけたまま、何か考えているようだが)


 そう思いながらアリスティアは、ゲネスの配下の者たちの動きを警戒しながら、テリオスのことを心配し横目でチラッとみていた。




 一方テリオスは、何時になく鋭い眼光でゲネスを睨みつけながら考え込んでいた。


 テリオスに睨みつけられゲネスは、蛇に睨まれた蛙のように動けずにいる。


(うむ。このままここで、ゲネスをどう処分するか考えていても埒が明かない。仕方ない、早急にかたをつけるしかないようだな)


 そう思いテリオスは杖を構え、ゲネスの方へと翳した。


 それをみたゲネスは、身の危険を感じ後退りする。


 そしてゲネスは、どうこの場から逃げたらいいか思考を巡らせた。


(どうする?まともにやりあっても、まちがいなく俺に勝ちめはねぇ。

 だが、逃げるにしても、この状況じゃ流石にムリだ)


 ゲネスはそう思い、怯えながら考えていた。


「ゲネス。お前が何故、シェルズ城の者に手を貸すのかを問いただすつもりはない。だいたい、その理由は察しがつくからな」


「クッ、テリオス王子。相変わらず、人の話を聞く気はないってことか」


「ああ、そういう事だ。お前が、本当のことを言うのであれば別だが。確かお前は、俺の能力を知っていたはずだよな?」


 そう言いながらテリオスは、魔法陣をサッと描くと詠唱を唱え始める。


 《漆黒の闇に 紅に染まりし月満ちて 鋭き牙を持つ獣 闇の彼方より出よ……》


「有無を言わさず攻撃、って。テリオス王子、あんたは相変わらずみたいだな」


 ゲネスは、テリオスに攻撃しても勝てないことが分かっていたが、逃げても無駄だという事も知っていた。


 ゲネスは、どうしたらいいかと思考を巡らせる。


 だがゲネスは、どっちを選んでも同じならと覚悟を決め身構えた。


 《……ダークウルフ!!》


 そう唱え召喚するとテリオスは、ゲネス目掛けダークウルフを放った。


 するとダークウルフは、姿を漆黒の霧へと変化させ、周囲の目を惑わせながら、電光石火の如くスピードでゲネスの方に向かっている。


 それをみたゲネスは、このままでは攻撃が間に合わないと思い、硬化スキルを使い防御することにした。


 そしてダークウルフは、ゲネスの目の前までくると姿を現しそれと同時に巨大化した。


 そしてダークウルフは、大きな口を開けると牙を剥き出し、頭上からゲネスを見おろす。


 するとゲネスは、ダークウルフをみてもう駄目だと悟り、頭を抱えうずくまり泣きそうになっていた。


 そしてダークウルフは、大きな口を開けゲネスを丸のみしようとした。


 だがその瞬間、どこからともなく光の斬魔の刃が現れた。


 そしてその光の斬魔の刃は、電光石火の如き速さでダークウルフにあたる。


 するとダークウルフは、その光の斬魔の刃をまともにくらいその場から少し後退した。


 それと同時に闇のベールが、ゲネスを丸く覆いつくした。


 だがゲネスは、あまりの恐怖にその場に倒れ気絶してしまった。


 それをみたテリオスは、ムッとした表情になり、闇の魔法と光の斬魔が放たれた方を順にみる。


 すると、闇の魔法が放たれた方には、アリスティアがいてテリオスとハウベルトの方をみていた。


 そしてそのまわりには、ゲネスの配下の者たちが倒され転がっている。


 片や光の斬魔が放たれた方には、ハウベルトがいてテリオスの方へと向かっていた。


 するとハウベルトをみるなり、テリオスは不機嫌になり怒鳴り散らし始める。


「おい、ハウベルト!?お前、なんのつもりだっ!なぜ、邪魔をするのだ」


 ハウベルトは、テリオスの側までくると一礼し片膝をついた。


「テリオス王子、申し訳ありません」


 ハウベルトはそう言い、テリオスに視線を向ける。


「しかしながら、このゲネスを殺してしまっては、あのことがうやむやになり。さらに今回の件を、聞き出すこともできなくなってしまいます」


「そうかもしれん。だがゲネスが、本当のことを言うと思うか?いや、否だろうな」


「確かにゲネスは、嘘をつき騙すでしょう。ですがそれを見抜き、吐かせることもできるのではないでしょうか。テリオス王子であれば」


 そうハウベルトに言われ、テリオスは考えた。


「それは、どうだろうな。俺が見抜いたとしても、他の者が騙されるだろう。そして、前の時のように城をぬけ逃げだす可能性は高い」


「そうだとしても、話を聞いてからでも遅くないのでは?」


 ハウベルトがそう意見を述べるも、テリオスは一向に引く気配はない。


 するとアリスティアは、2人が言い争いを始めたため声を掛ける。


「お待ち下さい」


 そう言いアリスティアは、テリオスの側まできた。


「テリオス様。差し出がましいことをしてしまい、申し訳ありません。ですが、私もハウベルトと同じ意見です」


「うむ。アリスティア、そうかも知れぬ。だがこれは、我が国の問題ゆえ。すまないが、口を挟まないでもらいたいのだが」


 そう言いテリオスは、ダークウルフをひとまず消し、再びハウベルトと言い争いを始める。


 そしてアリスティアは、どうこの2人の言い争いを止めることができるかと、頭をかかえ悩み始めた。


(どうしたらいい?私では、この2人を止めることができない。

 そもそも、こんなことをしている場合ではないというのにな)

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