95話〜2年前の出来事‥後編

 そして数日後、グロウディスは秘境の祭壇があると思われる場所に辿り着いた。


 そこは辺境の地とは思えないほどにマナが満ちており、草花が生い茂り色々な種類の鳥や虫などが生息していた。


 その光景を見たグロウディスは、これほどに清く澄んだ場所は初めて見たと思った。そして、余りにも心地良くその場に佇んでいた。


 グロウディスは、いつの間にかボーっとしてしまい、鼻の上に虹色の蝶が止まるとハッと我にかえった。


 するとグロウディスは急ぎ異世界の者を召喚する為、1番マナが満ちている場所を探した。


 マナが満ちた場所を見つけると、青い宝石の腕輪を右手首にはめ書物を開き、剣の柄に仕込んである杖を引き出した。


 そして、剣の鞘を持ちながら結界があると思われる場所に魔法陣を描き詠唱した。


 すると、魔法陣と腕輪の青い宝石が共鳴し合い、眩い光りを放ち結界が解除された。


 結界が解けグロウディスは目の前に見たこともないような、華やかでお洒落な飾りが施された祭壇が現れ驚いた。


『……この祭壇は、この世界に存在しない素材の物が使われている。だとすると、ここに書かれている事は紛れもなく実在した事になる。いや、それだけではない。祭壇が存在していた事自体、この書物に記されていた通りだった』


 グロウディスは少し考えた後、


『そうだな。ここでどうしようかと考えていても埒が明かない。さて、成功するかどうか分からないが、召喚してみるとするか』


 そう言うと剣の柄に仕込まれた杖を使い、祭壇に魔法陣を描いた。そして、書物に書かれている通りに呪文を詠唱した。


 すると魔法陣が青く澄み切った宝石のような光りを、辺り一面に放つと1人の男を召喚した。


 その男は祭壇をキョロキョロと見渡した後、あからさまに驚いた。


 男の特徴は、身長は約190㎝ぐらいで、青く下の方が白いグラデーションカラーの肩まで長い軽くウエーブがかった髪、左前髪を銀色の龍の翼の髪飾りで止めていて、右目を覆い隠すほどに長い。左目が紫色で右目が金色のオッドアイだ。


『……ま、まさか!?ここはシェルズワールドなのか?それにこの祭壇は……』


『ああ、そうだが。その前に、異世界の者のお前が、何故この世界の名前を知っているんだ?』


『ん?そ、それは……まぁ後で理由を話す。だが、俺を召喚したという事は、この世界で何か起きたという事なのか?』


『いや、この世界で起きたというより、もしかしたらこれから起こるかもしれん』


『それはどういう事なんだ?』


 そう聞かれグロウディスは自分の周りで起きた事を話した。


『なるほどな。お前の許婚が拐われた可能性が高いと言う訳か。それも召喚魔導師とはな。そして、その許婚の妹も行方不明と。……過去に起きた事に似ているな』


『……過去に起きた事とはどういう事なんだ?』


『ん?あっ、いや今話した事は忘れてくれ。大した事じゃない。それはそうとこれからどうするつもりだ?』


『俺はセレスティナを探したい。ただ、何処にいるのか雲を掴むようで分からん』


『なるほどな。そうなるとまずは、怪しいその結界の城、いやシェルズ城を調べる方が早いかもしれないが、その前に俺はある場所に行き力を授けてもらって来ようと思う。ただ、その場所に行ったとしてもその力を神が授けてくれるとは限らないがな』


『お前はいったい何者なんだ?何故その事を知っている!』


『さあな。さっきも言ったが。後でこの件が落ち着いたら詳しく教える。それに、やな予感がするんでな』


『やな予感とは、いったいどういう事だ!この世界に何か起きようとしているという事なのか?』


『ああ、多分な。意外と俺の勘は当たる。いつになるか分からないが、正規の祭壇で三人は間違いなく召喚されるだろうな』


『……お前……いったいこの世界のどこまでが見えている?』


『いや、見えてはいない。あくまでも、勘だ!ただ、俺が分かるのはこの世界の地形とあの城って事だけだがな。……それで聞きたいんだが、この祭壇が出来た年から今何年経っているんだ?』


『……変な事を聞く奴だな。そうだな。この書物によると、約200年前にこの祭壇が作られたと書かれていたが』


『……なるほど。そうなると、もう既にアリーシア達はいないという事になるな』


『先程から気になっているんだが。お前はもしかして……それにアリーシアとは、先代王の母君の名ではないのか?』


『……先代王の母君って、あいつがか。……どう考えても似合わねぇな。だが、なるほどな。それで、聞きたいんだが、この祭壇で召喚したって事はお前もその200年前にこの祭壇を作った者の子孫て事になるな』


『ああ、そうなんだろうな。俺の名はグロウディス・アバロン。200年前にこの祭壇を作った者の1人、ダルナド・アバロンの子孫だ』


『なるほど、ダルナドの子孫か。俺はタツキ・ドラゴナイトだ。それでだが、ある程度で構わないんだが、現在のこの世界の事について聞きたいんだが』


『ああ、構わないが。タツキ、お前のその名前は本当の名前なのか?』


『グロウディス。さあ、どうだろうな。それよりも今なすべき事をする方が大事なんじゃねぇのか?』


『確かにそうだな。……』


 そう言うとグロウディスはこの大陸には、ホワイトガーデン、ブラックレギオン、グレイルーズと3つの国が存在し現在、リゼル・ホワイト、ルディル・ブラック、デスクラウン・グレイが王となっている事を話した。


『なるほど、アイツらの子孫が国を治めているって事か。でも、何故国を3つに分ける事になったんだ?』


『それは、約100年前に召喚した者達の決め事によりそうなったと俺は聞いているが』


『100年前にも召喚された奴らがいたって事か。でも何故召喚したんだ?』


 そう聞かれグロウディスはタツキに訳を話した。


『……なるほど、そしてこの世界に迷惑な決め事を残し元の世界に戻って行ったという事か』


『……迷惑か。確かに決め事のせいで自由に行動する事は難しい。だが、俺は慣れているせいか別に何とも思ってないがな』


 グロウディスはその後、タツキに自分が城で聖騎士長をしていた事とかを話した後、今後の事を話した。



 そして時は戻り、ここはユリーナの屋敷の近く。グロウディスと通信機で話をしていた男……いやタツキはセレスティナとリムティナに、この後何処に向かえばいいのかを聞いた。


「そうですね。運良くバイオレット家の屋敷の近くに来ることが出来ました。シャナは城勤めがあると思いますので今はいないと思いますが、ユリーナさんがいるはずですので、ここならば安全かと思います」


「セレスティナ。なるほど、確かにここなら安全かもしれない。そうなると、奴らに見つかる前に行かねぇとな」


 そう言うとタツキ達はユリーナの屋敷の方に向かった。

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