74話〜黒龍の悪魔クロノア

 その頃クロノアは、ユリナ達と合流する為、中庭の方に向かい辿り着くと、一階の中庭付近の通路の物陰に隠れ様子を伺っていた。


(ん〜、何かこの空気、いかにも何か出て来そうで、ワクワクして来たんだけど。って、あ〜、こんな事考えてる場合じゃなかった。はぁ、ノエルやユウさんがピンチだって時に、私何を考えてるんだろう。)


 クロノアはそう考えながら、物陰から様子を伺い儀式が始まるのを待っていると、背後で誰かの気配を感じ振り返った。すると、そこには筋肉質の男が立っていた。そうそこに居たのはイワノフだった。


 クロノアは咄嗟に杖を両手で持ち身構え、イワノフを睨み付けた。


「ほお、なるほど。なかなか反応がいいみたいだな。お前も、勇者の1人なのか。」


「誰なの?いきなり、私の背後をつくなんて!?」


 イワノフはそう言われクロノアの顔をみた。


「本当に、お前が異世界の勇者なのか?」


「そうだけど。何なのよ、私が勇者じゃいけないの?」


「あーいや、気に障ったのなら悪かった。なるほど、気が強くて、見た目もなかなか……。」


「はあ?いったい何が言いたいの?それに貴方は誰?」


「ふっ、俺か。俺は、イワノフ・シアロだ。それで、お前の名前は何て言うんだ?」


「私は、クロノア。ねぇ、さっきから、私の事を見てるけど何か付いてるの?」


 そう言うとクロノアは服や頭や至る所を手で探ってみた。


「いや、何も付いてはいないが。ただ、俺好みだったのでつい見惚れていただけだ。」


「はぁ?この状況でですか?意味がわからないんですけど。」


「なるほど、クロノアか。ん?ちょっと待て!確か……いやまさかな?」


「いったい、さっきから何なのよ。」


「クロノア。いやな、名前が同じだったので気になっただけなんだが。まぁ、偶然だろうがな。」


「名前が同じって。誰と?」


「いや、多分聞けば気分を害すると思うから、やめておいた方がいいだろう。」


「ちょっと、言いかけて、それはないんじゃないかな。気になって仕方ないんだけど。」


 そう言いながら、クロノアはイワノフが攻撃して来る気配が無かったので杖を元に戻した。


「そんなに聞きたいか?」


 そう聞かれクロノアは頷くと、イワノフは頭を抱えながら仕方なく話し始めた。


「いやな。女のお前に言うのも何なのだが。これは昔、俺が読んだ書物に書いてあった。【ある国の召喚魔導師が、自分にも異世界の者を召喚する事が出来るのではと思い召喚してみた。召喚魔導師は成功して喜んだ。しかし、異世界の者は召喚されたが、自分が何故召喚されたか分からなかったので聞いた。召喚魔導師は、その異世界の者に言った。『ごめん、俺にも異世界の者を召喚出来るか、確かめただけなんだ。』と言われ、異世界の者は困惑した。そして、『元の世界に帰る方法はあるのか。』と、聞いた。しかし分からないと言われ、その異世界の者は自力で帰る方法を探し、神の力を借りれば元の世界に帰れる事が分かり、神々の神殿に向かった。神々は手を貸してくれ、力を手に入れた。そして、その異世界の者に浮かびあがった紋章は黒い龍だった。ある日、国がらみの大きな揉め事が起きた。その光景を見た異世界の者は、見ていられず皆を助ける為その力を使った。その異世界の者の力とは、黒龍を自在に操る能力だった。その威力は、街、いや、1つの国を楽々と破壊する程の力だった。その光景を目にした者達は、その異世界の者を異世界の悪魔と呼び、そして黒龍の悪魔クロノアと言われ、人々に恐れられたと言う ……。】と、こんな感じの話だったんだが。」


「ふぅ〜ん。なるほど悪魔ねぇ……。」


「おい、クロノア?悪魔と言われて、何とも思わないのか?」


「ん〜、何でかな?ははは……。良く仲間に言われているせいか、そんなには気にならないかなぁ。それに話の中に出てくるクロノアと私は別人だしね。」


「クロノア。お前、どんな世界にいたんだ?悪魔って……俺には、そうは見えないんだが。」


 クロノアはそう言われたが、これ以上話をしていても意味がないと思い言うのをやめ、中庭の方が気になり心配でまた物陰から様子を伺った。そして、イワノフもそろそろかと思い中庭を覗きみた。

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