73話〜ハウベルトの想い

 ここは名もなき城の中庭の儀式場。日が落ち月が登り始め、辺りには邪悪な空気が漂い、魔方陣が微かに反応し始めていた。



 場所は移り、ここは結界の城の地下にある、特別に作られた部屋。そこにアルフレッドとニックがいた。


 部屋には大きな鏡があり、月明かりが刺すように天井の一部が吹き抜けになっている。


 アルフレッドは天井を見つめながら、


「いよいよだな。こちらの準備も整ってはいるが。やはり、クレイをあの時逃してしまったのは痛い。まさか話を聞かれてしまうとは思わなかったからな。」


「アルフレッド様。今はクレイ・マルス無しでやるしかありません。確かに、居た方が此方の儀式がスムーズに行う事が出来たのでしょうが。」


「ああ。そうだな……。」


 そう言うとアルフレッドとニックは椅子に座り儀式が始まるのを待った。



 場所は移り、ここは名もなき城。ハクリュウ達は、二階の廊下の吹き抜けの中庭がよく見える場所をみつけそこで待機する事にした。


 ハクリュウは隠れながら下を覗き込み、ラシェルは後ろで中庭の様子を見ていた。


 ハウベルトは辺りに邪悪な空気が漂い始めると急に落ち着きがなくなりソワソワし始めた。


「ハクリュウ様。そろそろか、この邪悪な空気が漂いだし。いや、なんなんだ。こ、これは……。」


 ハウベルトはそう言いながら身体を震わせていた。


「ハウベルト。もしかして、怖いのか?幾ら何でも、この位で腰を抜かすわけないよな。」


 ハクリュウはそう言いハウベルトを見ると、何か怖い者でも見たかのように震え怯えていた。


 それを見たラシェルは心配になり、


「ハウベルト。顔色が青いようですが、大丈夫ですか?」


「ラ、ラシェル様。あ、いえ私は、このぐらい、へ、平気でふの、で。し、心配なさらぬ、よう……。」


 そう言うと、ハウベルトの顔色は一層青白くなって、体の震えが酷くなっていた。


「ハウベルト。まさかお前って、見た目と違ってかなり臆病なのか?」


「そ、それは……。ははは……お化けの類は、かなり、苦手ではあるが、これは流石に、それ以上、かと……。」


「んー、ハウベルト。無理ならここで待機していたのがいいんじゃないのか?それに、ラシェルもここに一緒にいた方がいいと思うんだけど?」


「しかし、ハクリュウ様、は、ど、どうするんだ?そうして、くれると、私は、有難いが。」


「ハクリュウ様。お一人で行かれるつもりですか?」


「そうだな。出来る事なら、ここにクロノアやユリナ達が来る前にかたをつけたいと思ってはいる。」


「ば、馬鹿な!ハクリュウ様。そ、そんな事は、幾ら何でも、無謀すぎる!」


「ハウベルトの言う通りだと思います。クロノア様達が来るのを待たれたのが。」


「そうかもしれないけど。魔神が封印されている水晶さえ奪ってしまえば、後は何とかなると思うし。」


「そうかもしれませんが。私はこのまま、簡単に水晶が奪えるとは思えないのです。まだ何かが潜んでいるような、そんな感じがしてならないのです。」


「ラシェル。何かが潜んでいる?俺たちの他にって事か?」


「ええ。ゲラン、いえ恐らくは私の弟のレオンは、何らかの目的で名前を変えここにいる。そう考えると、このまますんなり行くとは思えないのです。」


 ハクリュウはラシェルに言われ少し考えたが、


「もしそうだとしても。やっぱり、クロノア達が間に合わなかったら、俺1人でも行く。いや、たとえ間に合ったとしても……。」


 ハウベルトは、さっきまで震えていたが急に立ちあがり、ハクリュウの襟元をつかみ殴り飛ばした。


 ハクリュウはいきなり殴られ少し飛ばされ、唇を切り少し血が出た。


「ハ、ハクリュウ様。な、何を考えている!?死ぬつもりか?貴方が死んだら、これから何が起きるかも分からないというのに……。」


「つぅ。はぁ、だけどな。俺はこのまま誰も傷つけずに事を終わらせたいと思っているんだ。」


 そう言うとハウベルトは更に頭に血がのぼりハクリュウの襟元をまたつかんだ。


「いい加減にしろ!?そんな理想的な事が、この世界で通用すると思っているのか?あっちの世界では通用していたのかもしれない。だがな、幾らハクリュウ様が強いと言っても、ラシェル様が言うようにクロノア様達を待った方がいい。いや、もし間に合わなかった場合は、私も戦う覚悟はついている。」


 そう言うとハウベルトは掴んでいたハクリュウの襟元を離した。


 そう言われハクリュウは少し考えた後、ハウベルトとラシェルの顔を見ると、


「……ごめん。分かった。でも、無理はしないでくれないか。本当ならば、俺1人で出来る事なら、どうにかしたいと思っていたけど。仲間は信じないといけないよな。」


 そう言うとハウベルトとラシェルは頷いた。


 ハウベルトはこの邪悪な空気は苦手だったが、これ以上ハクリュウに心配されて、また1人で戦うと言われても困ると思い、怖いのを我慢し自分に気合を入れた。


 ラシェルはハクリュウの思いを知り、少し申し訳ないと思い、自分も何かの役に立てないかと考えた。


 そして、ハクリュウはハウベルトとラシェルを見た後、中庭の様子を伺っていた。

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