森緒くんと愉快かビミョーな仲間たち

森緒 源

第1話 野間君恐怖の夜

 …野間君はもともと九州の博多の男で、中学2年生のときに父親の転勤により家族で千葉県松戸市に越して来たのでした。

 僕と野間君との出会いは高校1年生の時、たまたま同じ高校に入学してクラスメートとして教室で顔を合わせたのです。

 …最初に声をかけて来たのは彼の方からでした。

「…こっちに越してから中学では親しくする者もおらんかったけん、森緒君ちゃ友達になってくれんね?」

 真面目な顔で唐突にそう言う野間君にちょっと戸惑った僕でしたが、

「うん、わかった!いいよ」

 と答えて暫定的に彼とは友達ということになりました。


 …話はそれから少し飛びますが、僕たちの高校では一年生が学園生活に慣れてきた6月の時期に研修旅行という行事があり、東京奥多摩山中の民宿に一泊してディスカッションや討論会、レクリエーションなどをすることになっていました。

 …そしてその当日、一年生は全員で電車に乗って奥多摩の山中へと向かい、駅から山道を歩いてさらにケーブルカーで御嶽山の山上に登ると、僕達のクラスの泊まる民宿がありました。

 …そしてハイキングや討論会など、1日目のカリキュラムが終わると、夕食や入浴の後、女子は一階、男子は二階の部屋に布団を並べて就寝の時間になりました。

 …人里離れた山の上の民宿は、夜の消灯後は静寂と暗闇に埋もれ、クラスのみんなはあっさりと眠りに就きました。

 …事件は真夜中に起こりました。

 すでにぐっすり熟睡していた僕の身体を、隣の布団から野間君が揺さぶり、起こそうとしていたのです。

「…何?…どうしたの、いったい !? 」

 眠気にボヤけた意識のまま訊けば、何と野間君はトイレに行きたいけど真っ暗で怖いので一緒に来てくれと言うのです。

 僕はとにかくひたすら眠いのでイヤだと言うと、彼はもうかなり切迫してて漏れそうな状況なので何とか頼むと懇願するのでした。

「う~ん…」

 …困ったなと思ったその時、ふいに僕は暗がりの中、部屋の柱に非常用の懐中電灯がフックに掛かっているのを発見したのです。

「野間君!あれで足元を照らして行けば怖くないだろ?…トイレに着けば明かりもつくし ! 」

 僕がそう言うと、彼は懐中電灯を持ってしぶしぶ1人でトイレに行きました。

 トイレは部屋のふすま戸の外の廊下を左へまっすぐ行った突き当たりにあり、昔のことなのでその宿は古い造りの汲み取りトイレで、和便器の下は太い土管みたいなパイプが下階の便槽へと繋がっていました。

 …しかし彼がとりあえずトイレに行ったので僕は再び布団の中で眠りに落ちて行きました。


 ところがほとんど完全に意識が無くなりそうな寝落ちの段階で、僕はまたまたトイレから戻った野間君に起こされてしまったのです。

「森緒君!大変なことになった!どうしよう…」

 …僕は眠い目をこすりながら、

「何?…どしたの?」

 と訊くと、野間君は青ざめた顔で、

「懐中電灯をトイレの便器の中に落としちゃった !! …」

 と言ってうつむきました。

 …僕は正直なところ、もう面倒くさくなったので諭すように言いました。

「野間君、気持ちは分かるけど僕達が今さらそれを拾える訳でもないんだから今夜はもうスッとぼけて早く寝ようよ!」

 野間君は不安げな表情を消せないままでしたが、

「…うん、分かった… ! 」

 と言って布団に入ったのでした。


 しかしこの出来事が、翌朝新たなる恐怖をもたらす結果になろうとは、2人には全く予想もできぬことだったのです。…


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