第110話

週の終わりに近づき混濁した活力と疲弊は分節されず、負の現象として周囲を留意する、躯幹はまだ頑丈に働きを示せる柔らかささえ残るとしても、至妙に目は粗を探そうとする、悪辣な発生は心根から伸びるのか。


髪をひっつかんで内在する根幹を引っこ抜く、手から肉に伝わる名伏し難い思いは、色彩を憂悶に変えた人物の感官を発揮させる、教えの繰り返しは成長の青さを暗流させるとしても、横目に見る笑いに眉が釣られる。


毎日何かに出会っているから明敏な頭を保持しているように錯覚して、朝から夜へと心を積陰に移す、芸術に坐臥して至上を掲げようと、単なる喧然は空虚を威張るだけ、塵事を濁して避けながら、本人の悪性に気がつけない。


音楽に贅言はないらしい、感想は統覚できずにばらまかれる、モザイクは実体を顕現させず、本人はいたって自明性を誇らしくする、心的な拍動を言葉に伝えているように思えても、結語にいたらない。


ユーモアの欠けたシリアスな心が正直に告白する、自信よりも偏見に取り付いた立ち位置は、ようやく文章を拠り所として人付き合いを肯定する、たしかに昔はそれらしい社会地位を占めて関わったこともある、その取り戻しのような実感を得るのに、どれほどかかったことだろう。


まだまだ続くように思われた執筆期間は、突如として終わりの影がさしかかる、独りよがりの長い物との工程は、ぬぐい去れない個人の思惑がついて離れない、開始して半年で一段落か、さらに削る作業は残っているとしても、遅いペースではないはず。


浮かれののちに我に戻る、評価そのものよりも発言される信用に左右される、学歴とキャリアだけでない実力を知るからこそ、目にかけてもらえる非現実に僭越な気分が空騒ぎする、しかしそんな体験を重ねてこそ、自信の真価は定まるのかもしれない。


あみだにたどって知恵をひねる、そんな頭脳を欲した事もあった、ところが今は希有な純情が輝いて見える、加齢による汚穢がこびりついたから、処世は一歩落ち込めばたやすくかなう、同調と表面を磨けば、なんて思いつつ手がつかない、若さの残りかすか。


小説とルポに文体の差異が見られない、片方しか目にしていないもののソースを耳にして信用する、描き分けられる者もいればそうでない者もいる、そして前者でも歴史的な作品を生み出している事実は、安易な励ましとなる、限界を知ることで表現の幅は広くなると聞いたが、また適応できる話だ。


読み返して勘違いする、いつも正しい読解は得られず、思いたい通りに字面から情感を現出させている、いくら目に通しても正解に届くことはなく、成長しながら衰えていく、見分けられる眼力が欲しかったのに。


腰は持ち上げる、軽いタッチの素描を、湿り気に重く沈んで返事は疎ましく、謂れのない憂さを見せつけて、関心の欠如を物として扱う、商売道具でもないのに、想念も盲従して涙を失わせる。


風のおしろいなんて言葉が発注されれば、何を気取って青さを染めているのやら、梅雨の告知は信用に値しないとはいえ、予報が外れて蒸し暑さに快晴が広がれば、腰に手をあてて偉そうに空と向かいあってしまう、一時の気分が、破廉恥に過ごさせるのだ。


腹立たしさは我慢しているようでところてん、毛穴から漏れ出す、鬱憤は八つ頭に当たり一人悄気る、言い方を重要視しないと、朝の寝坊から理性の不整脈は開始している、とはいえ反省があるからこそ労りを取り戻せる。


チェックを損なって無辜の社内は疑われる、仕事デスクから余分に借景した声のうるささだ、言われた方はやっていられない、ねちっこさは凌がれることはない、醇化のつもりがねじ曲げにかかっている、無稽のないミスを指摘して。


旧弊に取り巻かれた者者が紛淆して踊る、輪から弾き出されるか、裏地は漫罵に張られて、取り繕いなく無言は侮蔑を発揚させている、達識など常識だ、いつだって惆悵して誇示する、怯懦を隠して言葉で塗り、またやるせない。


貧乏揺すりと独り言だけでどれほどの精神を損壊させることができるのか、引っ越した先は自分以外のほぼ全員がだだ漏れしている、音量も大小に心の声はつぶやかれている、すこしは黙っていてくれ、と思う自分の頭がもっとうるさい。


余計な一言を口にしてしまったと後悔を繰り返す、夕食の弁当の合間に二十回を越えて、昨日は退勤前の苛立ちを考えた、そして暇におけるうろうろが目障りになっている、どんどん嫌な男になっていく、勤勉で素直な態度が表れるにつれて、自分の本性が曝される。


毎日続くのだろう、いなければ考える事もないのに、しかし自分自身を鑑みるのに最適な者として、働きについて再考させてもらう、それも刺激に違いないと取り入れて、悩み反省していくべきだろう、そう思う他に有効できないように、下手をすれば互いが悪になる。


カウンター前に立つ女性を横目に見て、二日間の休日をほとんど味わっていない気分になる、すでに日曜日の昼なのに、どうして喪失したような実感でとりこぼした面持ちになっているのか、映画に笑い映画に人生を覚えたばかりなのに、どんなに満ちても飽きる流れの穴がある。


ジーンズに柄のシャツは首元までボタンされる、裾はベルトの内側にしまいこまれ、数年前にそれをダサいと評価された事を思い出す、マスクが全員を綺麗にして、シルエットが細い線で豊満にさせる、素顔は肌同様に隠れて見えないが、誰もがおそらく魅力的だ、衣服の効果を好んでいる。

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