幕間・ある少年と双子の過去、そして現在2
俺はレミー・バリーゾール。
ナオミ様に呼ばれて森の中の屋敷を訪ねると、元気いっぱいだったはずのディアナが死んで、寝込んでいたレーンは皇太子として王都に行ったというとんでも展開が俺を待ち受けていた。
理解が追いつかなくて、でもレーンと話がしたくて、俺は王都まで飛んで行った。
あの時の俺は、レーンのことを思いやっていると自分に言い聞かせていたが、思い返してみればノーデン次期領主、オーランド様から逃げていたのかもしれない。
ぶっちゃけ、オーランド様が、白い蛾のペンダントを探していると知って、俺がディアナにペンダントを送ったことがバレたら縛り首になりそうだとぞっとしたのは良く覚えている。
だがレーンがあんなに喜んでくれたのに今さらアレは他の人の持ち物だから返せ、とは俺には言えなかった。
路地裏では自分の物から目を離して奪われたら、奪われた方が悪い。
そう言い訳するうちに、ディアナが死んでレーンが連れ去られた。
それに、ペンダントはこの世界から失われている。おそらくは。
ディアナは、死んだ。
病弱なレーンではなく、女らしくないほど元気いっぱいのディアナにも死は平等なんだな、とかいう感想より、ディアナが死んだなら虫嫌いの二人の母親、ナオミ様がディアナのものを全て処分している可能性が高い。
俺が屋敷を訪ねた時、庭に火を燃やしたあとがあった。
それの片付けを手伝うことになって炭をどかしていると、燃え残った虫の標本の残骸が見つかった。
この様子だと、白い虫のペンダントはとっくの昔に捨てられているか、この焚き火で灰になっている可能性が高い。
まるで俺が全部悪いみたいじゃないか。
と思って、俺は王都、ゼントラムへと移動した。親方には広い世界を知りたいと言ったら辞めるのを許してくれた。
飛脚時代に王城にも出入りしていたから、顔見知りのツテを使って王城の下働きの仕事をもらえることになった。
王城はだだっ広くて、仕事は飛脚に比べれば楽で、ぶっちゃけサボり放題だ。
そんなわけで、俺は遠目にレーンを観察していた。
王城のレーンは無口で、人形みたいで、その割には森にいた時よりも顔色はよかった。
だが、なんというか……そのレーンは、おかしかった。
レーンは天使だったのに、ただの人になってしまったように俺には思える。
貴族がレーンと話そうとしたとき、ブレナン先生が「皇太子殿下は体調がすぐれない」とか言って断るのは予想通りだが、好奇心旺盛なレーンが、最新のノーデンの知識を持ってきたというノーデンからの使者さえも拒否しているのは、なんかおかしい。
しかもその理由が「使者の身分が低いから」だった。
平民の俺を助けたレーンが、騎士サマに対して身分が低いと言うなんて、何かがおかしいとしか思えない。
盗賊時代に身に付けた技術も使って、俺がレーンを付け回していると、レーンは王城の地下にふらりとやってきた。
悪魔が封印されているという、黒い三つの
しばらく待っていると、やけに力強い足取りでレーンが出てきた。
それを見て、俺の背筋を寒気が駆け上がった。
レーンじゃない。
悪魔がレーンに成り代わってる。
あの扉から出てきた、アレは絶対レーンじゃない、悪魔かなにかがレーンのフリをしてるに違いない。
俺は怖くなって、その場から逃げ出した。
だが、それでもレーンの事がが気になる。もしかしたら悪魔に取り憑かれたと思ったのは、俺の勘違いかもしれない。そう自分に言い聞かせて、俺はレーンを付け回した。
レーンは俺に全く気付いていないようで、
それでも、レーンではないという確証にも至らない、という具合だった。
ちょっとしたしぐさや言葉づかいはレーンらしくないが、総合して考えると皇太子としての教育で変わるものでもある。
我慢できなくなって、俺はレーンの前に姿を現すことにした。
庭師の下働きとちょっと盗賊流の話し合いをして、病欠した彼に代わって、皇太子殿下が作った桑畑の周りをうろうろする。
情報通り、レーンと娼婦たちが、桑畑の近くで俺とすれ違う。
レーンと、目があった。
「レミー?」
その声は、レーンに似ていた。
でも、レーンではなかった。
「皇太子様? どうかしましたか?」
「知り合い……だと思う」
「知り合い? 挨拶なさいますの?」
「ううん……すれ違っちゃったし、身分の差もあるから、今はほっとく」
「そうですの」
ありえない。
レーンは身分の差など気にしない天使だ。
やはり、悪魔に取りつかれて女に入れあげているんだ。不美人な女ばっかりだし、悪魔のしわざにちがいない。
俺の推測を裏付けるように、高貴な身分で、顔に火傷を持つ人間を皇太子が囲っているという噂も流れてきた。
きっとそいつが悪魔だ。
直接俺がレーンに会って、引きはがしてやる。
そう考えて、俺は二年待った。
「レーン、今助けてやるからな」
侯爵の馬車が出た後、質素な、レーンの乗った馬車が出発した。
人目を避けるように走るその馬車を追跡するのは、俺だけではないようだ。
ぱっと見はただのごろつきだが、装備から判断して、教会の人間だろう。
教会が協力してくれるなら、レーンをきっと悪魔から救い出せるだろう。
心強い。俺は夕暮れの石畳を強く蹴り、レーンの馬車を追いかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます