悪意と救いの手
※注意※この話にだけ暴力・未遂とはいえ性的描写があります
苦手な方は飛ばして次の話に行ってください!
レミーがディアナの馬車を追跡する少し前まで、時間はさかのぼる。
ディアナはパルタスをにらみつける。
こいつは、皇太子という立場にまつりあげた私すらも、金儲けの道具だと思っている。
「あなたはお金のことしか見ていない。そんな人には、権利はあげられない」
半分透けていても分かるほど、セリカが強くうなずいた。
『そうよ! 本当はやりたくないのに、体を売らないと生きていけなくなってしまった女の子を助けるためにやってるのよ! 女の子が自分らしく生きられる世の中にするための養蚕よ!』
こいつらを倒すための養蚕だ。ディアナの視線に、パルタスは明らかな不快感を示した。
「……我々に対し感謝しないのであれば、あなたが皇太子でないことを証明することになるが?」
「望むところよ」
ディアナは吐き捨てた。
「皇太子なんてなりたくてなったものじゃない。レーンの替え玉なんてうんざりよ。パルタス侯爵、あなたが私のことをディアナだと言いふらすなら、私はさっさと位を返上してノーデンに引っ込むわよ。そしてそこで女の子たちと商売をするの。ディアナとして」
ディアナは肩をすくめる。
そもそも【ディアナ】として誰も扱ってくれないから、私はセリカと契約した。
セリカがくれた世界を変えるための、絹を作る知識で、私は私に戻る。
「さようですか。ところで皇太子殿、あなたが売っている布が絹だという、うわさがある。絹は教会しか持てない布のはずだから、ありえないとわたくしめは考えておりますがね」
「うわさは……噂でしょ」
パルタスに心を読まれたのか? ディアナはぎくりとしたが、ばれないよう無愛想に対応した。
「夜道にはお気をつけを、皇太子殿。神のしもべはどこにでもいる」
捨てゼリフとともに、パルタスは去っていった。
彼と入れ替わりに、教科書の見本が出来上がった、と工房から使者がやってきた。
ディアナはお忍びで工房まで馬車を走らせた。
工房は貧民街に近い、入り組んだ路地の中にあるので、ディアナは大通りに馬車を止め、工房へと足を進めようとした。
路地の角を曲がった、その時。
「皇太子様よう、護衛も連れずに1人かい?」
ニヤニヤと下品な顔をした男が、ディアナの前に立ちはだかった。
『ならず者よ! たくさんいるわ! 逃げて!』
「わかった」
ディアナはすぐに方向展開し、馬車の方向へ走り出した。
「逃げようったってそうは行かねえよ! 俺たちは教会のモンだ。大人しく捕まってくれれば悪いようにはしねえよ」
「お布施はどっさりしてもらうがな!」
品のない笑い声から、とにかく遠ざかるようにディアナは逃げ惑った。
「セリカ、どうしよう、セリカ?」
息を切らしてセリカを呼び、いつもセリカが浮かんでいた空中を見上げても、セリカの姿が、見えない。
「セリカ、セリカ、どこ行ったの!?」
心細くて大声をあげると、耳元で蚊のなくようなかすかな声が聞こえた。
『……ごめんなさい、どうもずっとあなたのそばにはいられないみたい……』
「えっ!? もしかしてこのならず者、教会が雇ってるから悪魔払いの道具とか持ってたりするの?」
『ごめんね、全部ウソなの、私が悪魔だなんて、あなたが魂を売って地獄落ちだなんて、全部嘘なの。くだらない損得以外で、男尊女卑以外で、教会があなたを狙う理由なんてない、戦って』
「どういう事!? ウソってなんで!?」
『あなたが押そうとしたボタン……あれは運が悪ければ王城全部ふっとばして、毒すらも撒き散らす爆弾だった可能性があるの、押させちゃだめだって思って、でも説得する材料が見当たらなくて、悪魔だって言い張れば聞いてくれるかと思って嘘ついたの』
ディアナは、頭が真っ白になった。
セリカは悪魔じゃない。
だったらどうしてあんなに知識があるんだろう。ディアナはもう訳がわからなかった。
「じゃ、じゃあセリカは何なの……?」
『幽霊みたいなもの……天国に行けず地獄にも行けなかった、旧世界の時代に死んだバカな女。知識だけはあったから、いろいろ知ってたし、あなたにも教えられたけど……』
そのうちに、声すらも聞こえなくなってしまった。
「セリカ!」
ついにセリカは消えてしまう。
「ねえ! どこなの! ねえ!」
「恐怖で頭がおかしくなってやがるぜ、このお坊ちゃん!」
「大人しくするんだな!」
大混乱に陥ったディアナは、ならず者どもに追いつかれてしまった。
「誰があんたらに捕まるか!」
ディアナは掴みかかってきたならず者にめちゃくちゃに殴りかかった。どこに当たったのか分からないが、自分の拳も痛い。
「何しやがるてめえ!」
ならず者はディアナの胸元を掴んだ。
「嫌! 離して!」
ディアナは服破けて女バレするディアナ
「……こりゃ驚いた、王子様とおもったら女かよ」
「美形だとは思ってたが」
「きっとこれは替え玉だ。だから護衛もいなかったんだ」
「金目のものいただく前にさらに楽しめるな」
ならず者たちは改めてディアナにつかみかかった。
「いや! いや! セリカ助けて、セリカ!」
ディアナはさんざん暴れたが、結局服をさらに破られ、冷たい石畳に押し倒されただけだった。
「じゃあどうする? 誰からいく?」
「俺がこいつを最初に見つけたんだ! 俺が一番だ!」
「いやおれこそ最初だろう! 俺が服を破ったんだぞ!」
言い合いを始めたならずもの達にディアナが絶望していると、突然、ならず者の一人の首に、後ろから手が周った。
ぱっ、と白刃がきらめき、ぶしゅ、と音を立て、ならず者の首から飛び出た血の赤い筋が空間を切り裂いた。
喉をかき切られて死んだ男に続いて、他のならず者も、刃がきらめいた次の瞬間、血の華を咲かせて倒れていく。
文字通りの瞬殺。
ならず者のしかばねの山の向こう側に、立っている人間がいた。
返り血を浴びたその姿に、わたしもころされるのかな、とディアナは疲れ果てた頭で考えた。
ところがその人物は、血に濡れたナイフをしまい、倒れたままのディアナへと、恐る恐る近づいてきた。
「……ディアナ?」
その声は、森の中でレーンと話しているのを聞いたことがあった。
「レミー?」
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