復活祭のミサ
王城の地下に行ったことを特にとがめられることも無く、何事もなかったかのように王城での
『世界を変える下準備をするわ。まずは土地を用意するのよ』
ディアナはセリカに指示された通り、マルベリー畑を買い取り、マルベリーの葉が出たらすぐに
それでもやりきれない思いは消えなかった。ディアナは毎晩セリカに
『しんどかったわよね。はあ、こんな時に体があれば、あなたを抱きしめられるのに』
「セリカには体があったの?」
『昔は人間だったから当然です! 体から引き離されて色々あって悪魔になって、さらに色々あって封印されたんです!』
「セリカ、体が欲しいの?」
『ええ。でもただの体じゃダメ。黒髪で肌が黄色っぽい女の体じゃないとダメ。それ以外の体はお断りよ』
昼間レーンとして扱われることを我慢していても、夜になればそんなものとは無縁だ。自分でいられる時間を持て、ディアナは気が楽になった。冬はいつしか過ぎ、春になって復活祭の時期が近づいてきた。体の弱さを口実に公式行事には出来るだけ出ないようにしていたディアナだったが、貴族同士の
「そう言えば大丈夫なの?」
『何が?』
セリカは気づいていないようだった。ディアナは不安が膨らんだ。
「私たち、神父様に見破られない? セリカは聖書の文句とか聖水で退治されたりしない?」
『ああ、大丈夫よ。私のことはどうやったってあなた以外には見えない。聖書とかもへっちゃら。聖水は……まあ、頑張っていっぱいかけたら、あなたは風邪ひくくらいするかもしれないけど』
「それ頑張る方向が違うし、聖水である必要ないよね?」
ディアナは吹き出さずにはいられなかった。聖水が効かないなんて、セリカはすごく強い悪魔なのかな。ディアナが表情を緩めたのとは裏腹に、セリカの表情は真剣を通り越して深刻だった。
『でも、本当に体には気をつけなさいね。あなた体壊しても、うっかり人前で服脱げないでしょう?』
「……うん」
密やかな話をしているうちに馬車は教会に着き、扉が開けられるとともに
『女の子が教会に立ち入ると最悪
「うん……」
『……私の知ってる女の子で、やっぱり訳あって男装してて、教会に立ち入った子がいるけど、その子は本当に
「縛り首になったの?」
『それより酷いわ。女だって言えないことをいいことに、教会の神父やら
「えっ……」
『なんとか逃げ出したけど、結局、出産で死んじゃったわ』
ディアナは言葉を失った。セリカはディアナをじっと見つめていた。悪魔には不似合いなほどの思いやりに満ちた表情だった。
『教会なんて基本クソだと思ったほうがいいわよ。私が悪魔だからこんなこと言うんじゃないわ、わかるわよね?』
「……わかる」
『まだまだ道は遠いわ。世界を変えるその日まで、自分のことちゃんと守って、お願いよ? 私は物理的干渉はできないし、あなたが乱暴されても助けられないんだからね?』
「……うん」
そうだ。私は世界を変えるのだ。ディアナは決意を新たにした。マルベリーの葉が出れば、世界が変わる第一歩になる。馬車はのろのろと王城へ向かう道を進んでいた。
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