その2

 ルコが目を覚ましたのは、四人で一番遅かった。一番遅く就寝したのが原因だったが、誰もルコを起こしてはくれなかった。別に意地悪でそうした訳ではなく、他の三人は一番の功労者を寝かせておこうという配慮だった。

 ルコが寝ている間、車は発進していて、都市知羽しりぱから直線で南南西120kmにある都市折卦おれけに向かっていた。瑠璃と遙華が先に起きていて、周りに敵がいない事を確認してからの措置だった。

 ルコはベットから起き出して着替えると、シャッターを開けてベットの外に出た時に初めて車が動いているのに気が付いた。寝る前に決意したのに、寝過ごしていたなんてと思うととても情けなく思った。

「ルコ、起きたのじゃな。どうしたのじゃ、その髪は!」

 療養中で自分のベットに寝ている遙華はにこやかな挨拶の表情から驚愕の表情へと変わった。そして、あまりの驚きにベットから反射的に起きだそうとして、

「イタタタ!」

と傷口を押さえながらベットの中でうずくまった。

「大丈夫!?」

 ルコも急に起き上がろうとしてうずくまった遙華にびっくりして駆け寄った。

「大丈夫なのじゃ」

 遙華は顔をしかめながら手でルコを制すると、

「それよりじゃ。どうしたんじゃ、その髪は」

と改めてルコに聞いてきた。

「え?変かな?」

 ルコは短くした毛先を触りながらちょっと照れたように聞いた。女の子らしく可愛く聞けたので、相当レベルが上っていると思われた。忘れているかもしれないが、彼女(?)は前の世界では女の子ではなかったはずなのだ、たぶん。

「そんな事はないのじゃが、吾の世界ではそんなに短くする女性はいないもんじゃからびっくりしたのじゃ」

 遙華はまじまじとルコの髪型を観察した。

 ルコの髪はそれまでも他の三人と比べて長いという訳ではなかった。それでも肩まであったゆるふわストレートの黒髪をバッサリ切りショートボブにして更に短くなっていた。ただくせっ毛で元々ウェーブが少し掛かっていたので、短くしてもそのウェーブが残っており、ヘルシーショートと呼ばれる髪型の方が近いかも知れない。

「私の世界では、このくらい短い娘は結構いるけど」

 ルコは一応褒められたみたいなのでちょっと嬉しかった。

「そうなのじゃな。なんて斬新なのじゃ!」

 遙華は基本的に新しもの好きなので、目をランランと輝かせてそう言ってから、

「うんうん、なんか大人っぽく見えてよく似合っているのじゃ」

とニッコリと笑った。

「ありがとう」

 今度は直線的に褒められたのでルコはもの凄く照れてしまったが、同時にとても嬉しかった。こんな感情になるとは前世界にいた時には想像もつかなかった事だった。

 いやいや喜んでいる場合じゃないとルコは首を大きく横に振った。遙華にまず言うべき事があったからだ。

「遙華、怪我させて、ごめんなさい」

 ルコはそう言うと、頭を下げた。

「なんじゃ、そういう事なんじゃな」

 遙華は頭を下げ続けているルコの頭を優しく撫でてから、

「吾の方こそ、ありがとうなのじゃ。あの時、吾は完全に諦めようとしていたのじゃ。それを助けてくれたのじゃから謝る必要は全く無いのじゃ。ましてや、髪を切る必要なんて全く無かったのじゃ」

と言って、逆に済まない気持ちになっていた。

「え、あ、髪を切ったのはお詫びの印という訳じゃなく、決意表明というもので……」

 ルコは誤解している遙華に済まなそうにそう言って、頭を下げ続けながらちらりと上目遣いで遙華を見た。

「決意表明!?」

 遙華はルコの想定外の言葉に素直に驚いていた。

「うん、そう。どういう状況に陥ろうと、みんなで生き残るんだという決意表明を忘れないようにするための行為なの」

 ルコは頭を上げながらそう言った。

「あっぱれなのじゃ!流石なのじゃ!凄いのじゃ、ルコ」

 遙華はルコの言葉に興奮していた。

 ルコが遙華の想定外の興奮ぶりにちょっと驚いている所に、前方区画からやってきた瑠璃と恵那が寝室区画に入ってきた。

「あ、ルコ、やっと……」

 恵那がルコに挨拶をしようと声を掛けた時、ルコの髪型が変わっているのに気付き、

「どうしたの!その髪!」

と遙華がルコの髪を始めてみた時と同じく驚愕の表情をしていた。

 瑠璃もルコの髪型の変化にいち早く気付いていたが、こちらは驚きのあまり声も出ずに両手で口元を抑え、目をカッと見開いたままて固まってしまっていた。遙華と恵那とは驚愕の度合いが違っていた。

 ルコは自分のせいで固まっている瑠璃を見て、釣られて瑠璃の方を振り向いたまま固まってしまった。

「いやなに、驚く事はないのじゃ。ルコの世界ではこういう髪型の娘は結構いるそうなのじゃ」

 遙華はにこやかに瑠璃と恵那にそう言った。

「はぁ、そうなんですか。ルコ様が出家なさったのかと思いましたわ」

 瑠璃はヘナヘナと力が抜けたように入り口の壁を掴んで自分の体を支えた。

「ああ、あたしもそう思ったよ。びっくりしたな、もう」

 恵那はそう言うと安心したように胸を撫で降ろした。

「吾も最初見た時はびっくりしたのじゃが、これはこれで、とても似合っていると思うのじゃ」

 遙華は何故か自慢げにそう言った。

「そうですね、とっても大人っぽく見えますわ」

 瑠璃はルコを見つめて今度はポーッとなっていた。

「うん、よく似合っていてかっこいいわね」

 恵那は目を輝かせて褒めていた。

「ありがとう」

 ルコは嬉しいのやら恥かしいのやらの気持ちでお礼を言った。

「それにじゃ。ルコがこの髪型にしたのは、どんな事があっても諦めずみんなで生き残ろうという決意表明のためなのじゃ」

 遙華は更に鼻高々という感じで自慢(?)していた。

「ルコ!」

 恵那は遙華の言葉に感動してルコの抱き着いてきた。

「あ、恵那様、ずるいです」

 瑠璃は恵那がルコに抱き着いたのを見て、自分も負けじとルコに抱き着いた。

 ルコは予想もしなかった二人のアタックに耐え切れず、押し倒されるように後ろに倒れてしまった。

「ルコ、頑張って生き残ろうね」

 恵那は押し倒したルコの上で嬉しそうに言った。

「ルコ様!妾もがんまります」

 瑠璃も恵那に負けじと決意表明をしていた。

「三人共、楽しそうじゃな」

 倒れた三人を遙華はちょっとした嫉妬の目で見ていた。

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