その2

 検索で503件まで絞り込む事ができたが、全てにプロテクトが掛かっていた。

「閲覧できないというのはどうゆう事なのじゃ?」

 遙華は折角絞り込んだ文献が読めない事を知るとそう聞いてきた。

「一般検閲禁止となっております」

 マリー・ベルはそう答えた。

「機密文書って事?」

 今度はルコが聞いた。

「はい、仰る通りです」

「解除は可能?」

「はい、可能です。いずれも50年非公開の文書ですが、既に過ぎておりますので解除後閲覧は可能です」

「そう、それじゃあ、解除をお願いするわ」

「承りました。全ての文献の解除まで約84分掛かりますので、お待ち下さい」

 マリー・ベルはそう言うと、文献の解除に取り掛かった。

「また時間が掛かるのじゃな。84分だと、日没時間になってしまうのじゃ」

 遙華は残念そうだった。

「ちょっと、それじゃあ、危険じゃない。一度戻って明日にした方がいいんじゃない?」

 インカムを通じて状況を把握していた恵那がやはりインカムを通じてルコと遙華に言ってきた。

 恵那は瑠璃と共に車でお留守番兼外敵の警戒中だった。

 ルコは恵那に言われて一瞬迷った。戻るべきか留まるべきかを。

「どうするのじゃ?ルコ」

 遙華はルコに決断を促してきた。

 ルコは、安全第一と考え、立ち上がって戻る事を告げようとした瞬間に、

「この映像は本ファイルのプロテクトが外れた時に流れるようにセットされたものだ」

という声がしてメインコンピューターの前にホログラムとして映像が流れ始めた。

 ルコと遙華はびっくりして反射的に座っていた椅子から離れた。

「5件目の文献の鍵が解除された時に発動するように仕掛けられたものです」

 マリー・ベルはいつもの無機質な口調でそう言ってきた。

「私の名前は金杉丈かなすぎじょう。オークと呼ばれている猪と人間が合体したような生物を研究しているものだ」

 金杉と名乗った男はそう話していた。

「おうく?猪人間の事かのぉ?」

 遙華が怪訝そうな顔をした。

「ええ、猪人間の事だと思うわ」

 ルコは遙華の疑問にそう答えた。

「私はこの研究を行って気付いた事を後世に残そうと思って今こうして話をしている。今、我々はオークの急激な増殖によって滅亡の危機を迎えているのは周知の事実だが、どうしてこのような事態に陥ったのかのを知っている人間は少ない。その事をまとめたファイルを私の研究室のコンピューターに残していく。場所は12階で一番南の西側の部屋だ。部屋のロックの解除キーとコンピューターのログインは下に示しているとおりだ」

 金杉がそう言い終わると、映像が終わり、解除キーとログインのためのIDとパスワードが表示されたままになった。

「こやつは何を言っていたのじゃ?何だかよく分からん言葉を話していたようじゃが」

 遙華は遙華にとって謎の文字が出ている画面を見つめながら怪訝そうな顔をした。

「猪人間の情報を自分が使っていた研究室に残していったという事よ」

 ルコは端的に遙華に説明した。

「それは凄い事じゃな。今すぐ取りに行くのじゃ。12階とか言っていたのじゃ」

 遙華はちょっと興奮していた。

 ルコも遙華と同じ気持ちだった。ただ二人ともちょっと舞い上がってしまっていた感があった。それも無理もない事だったかもしれない。有力な情報を得られると思ったのだから。

「マリー・ベル、ここは任せられる?」

 ルコはマリー・ベルに確認した。

「はい、承りました。解除後はドローンを経由して文献を保存しておきます」

「そう。それじゃあ、よろしく」

 ルコはそう言うと部屋を出ていこうとしていた。

「何だかよく分からないのじゃが、12階へ行けるのじゃな?」

 遙華は嬉しそうに言った。

「そうよ」

 ルコはそう言うと、遙華と二人で部屋を出ていった。

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