その6
「話を続けるけど、結論としてはここの城壁にこだわるより今まで通り機動性を活かせる場所にいる方がいいという事になるわよね」
ルコは今までの話をまとめた。
「はい、そのとおりですわ」
瑠璃はルコの方をじっと見ながらそう肯定した。
「そうね。雪が溶けるまでは移動するのは無理だけど、雪が溶けたらここを離れるのもいいんじゃないかしら」
恵那は脱衣場で体を拭きながら結構大胆な案を示してきた。
「そうじゃな、それもいいかもしれないのじゃ」
遙華は何か考えながら意外にもあっさりと恵那の案に理解を示した。
それにはルコと瑠璃が驚いていた。そして、じっと遙華を見た。
遙華はその視線に気付くと、
「吾だけこんな体験をしてずるいのかもしれないのじゃが、故郷によく似たここの風景を見て、やっぱり吾は帰りたいと思ったのじゃ。と同時に元の世界に帰らなくてはならないとも思ったのじゃ。じゃから、吾は前にルコが言っていたとおり、研究所とやらに向かうべきじゃないかと思うのじゃ。その方法を見付けるためにも行くべきじゃと思うのじゃ」
とその理由を説明した。
「見つからないかもしれませんわ」
瑠璃はつぶやくようにぼそっと言った。ちょっと寂しげだった。
「多分それは問題じゃないかも。ルコがこの前言っていたとおり、戦いのみを考えて消耗していくより、何かを支えに行動すべきだと思うわ」
恵那は脱衣場からそう言った。すでに体を拭き終わり下着を付け始めていた。
「でも、帰る方法が見つからなかったら心の支えがなくなってしまいますわ」
瑠璃はそう反論した。ちょっとナーバスになっているようだった。
「そうなったら、別のものを探せばいいだけよ。それに支えになるものは別に一つだけに限定する必要はないんじゃない?」
恵那は風呂場からは見えないがとびっきりの笑顔でそう言った。
「恵那、主、たまに凄い事を言うのじゃな。びっくりしたのじゃ」
遙華はいつものようにからかうように恵那に言った。
「たまにって何よ!」
恵那はいつものように遙華に反論した。
ルコはそんな二人をよそに、湯船を出て瑠璃の方に歩み寄った。そして、
「一緒に探しましょ」
とルコは瑠璃にそっと言った。
瑠璃は感激でちょっと泣きそうになりながらこっくりと頷いた。
ルコはそれを見ると黙って瑠璃の髪をお湯で濡らし始めた。
「瑠璃、何か悩んでいるようだけど、帰る方法を見つけるのと帰る事を決める事は全く別物よ。あたしは方法が見つかった後にその事を考えるわ」
遙華はきっぱりとそう言って、服を着終えたので脱衣場から出ていった。
「そうです……ごぁごぁ……」
瑠璃は急に我が意を得たような感じで言葉を発しようとして顔を上げたので、髪を濡らしているシャワーのお湯がまともに口に入ってしまった。今までおっとりとして優雅な振る舞いしかしてこなかった瑠璃にとっては大変な失態だった。
ルコは慌ててシャワーヘッドを瑠璃から離して、
「ちょっと、瑠璃、大丈夫?」
とびっくりしながら笑いをこらえていた。
「だ、大……」
瑠璃は咳き込んで言葉がうまくつながらなかった。
「ああ、喋らなくていいわよ」
ルコはそう言いながら背中を擦った。
「しっかし、恵那はたまに凄い事を言うのじゃな。あの瑠璃を咳き込ませるんじゃから大したものじゃ」
遙華はそう微笑みながらそう言うと、湯船を出た。
そして、
「吾もルコも恵那も、瑠璃、主に何かを強要するつもりはないんじゃよ」
と瑠璃の肩を軽くぽんと叩くと脱衣場へと向かっていった。
「皆様、お優しい方ばかりでとても感激いたしましたわ」
よくやく咳き込まなくなった瑠璃はそう呟くように言った。
それを聞いたルコも確かにと同意していた。
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