その6

 翌日の朝食後、ルコは自信に満ちた顔をしていた。というより、起きてみんなと顔を合わせた瞬間から他の三人はルコに怪しさを感じていた。三人は朝食中、ルコに聞こえないようにずっとヒソヒソ話していたくらいルコの様子が怪しかった。しかし、ルコの方はそんなヒソヒソ話は気にも留めなかった。

「それでは、皆様、今後の方針について会議を始めたいと思います」

 ルコは大げさに、そして、丁寧語で、しかも堂々とそう宣言した。それ故に怪しさ全開だった。

 そんなルコを見て、遙華は嫌そうにドン引きだったが、瑠璃と恵那はルコが遙華の説得に何やら思い付いたと察してワクワクしていた。

「ずばり我々は北に進まなくてはなりません」

 ルコはまた大げさにそう宣言した。これでは議論ではなく、一方的な通告だった。

 しかし、瑠璃と恵那は拍手をして歓迎した。

「ルコ、主、なんか変じゃぞ」

 遙華はルコを何か嫌なものを見るような目で見た。

「何を仰っしゃいますか、遙華様!」

 ルコは勝ち誇ったように高笑いをした。

「どうなっとるんじゃ?」

 遙華は説得を諦めようとしないルコに呆れていた。しかも今度は人格を変えての説得だったと感じた。そして、

「何度も言う通り、吾のために北に赴くのなら不要じゃ。もし、そうなら吾は絶対に行かんのじゃ!」

とこれまで一番強い口調でそう言った。

「何を仰っているのですか、遙華様。本件はその事とは全く関係ございません」

 ルコはそう言うと、目がキラリと光った。実際は光ってはいないのだが。

 遙華はその言葉を聞いて唖然として黙ってしまった。どういう事?という顔をしていた。

 瑠璃と恵那は二人のやり取りを見て明らかにルコを応援していて、これから何が飛び出してくるのかを期待していた。

「皆様、これを見て下さい」

 ルコは更に得意げになって三人の前に昨夜のSNSの書き込みを表示した。

 三人は表示された文章を読んで、一様にびっくりしていた。

「これはなんじゃ?」

「ご覧のとおり、昨夜届いた都市仲区ちゅくからの招待状ですわ」

 ルコは完全に頭に乗っていた。

「成る程、これは行かないといけませんわね」

 恵那はルコの口調を真似て上品ぶった。

「そのとおりでございます。行かないと大変失礼に当たりますものね」

 瑠璃はいつものおっとり口調だった。いつも優雅で上品な瑠璃はルコたちの真似をする必要はなかった。

「じゃが……」

 遙華は言葉に詰まった。

「あらあら、何か仰りたい事がおありなのでしょうか?遙華様は」

 ルコは勝ち誇ったように言った。

「分かったのじゃ。じゃから、ルコ、主のその口調はやめるのじゃ」

 遙華は忌々しそうにそう言った。

「え、あ、はい。やめます、じゃなくて、やめるから遙華も賛成してくれるわよね」

 ルコはいつもの口調に戻った。

「じゃが、大丈夫なのじゃろうか?その心情的にというのじゃろうか……」

 遙華は恵那をちらっと見て口籠った。

「ああ、あたしなら大丈夫よ。今回は前回と違って、ちゃんと招待状も貰ったし、とても丁寧な言葉使いだし、信用できると思うわ」

 恵那は前回の失敗に懲りて今回は慎重に判断したようだった。しかし、決断は早すぎるかもしれない。

「それなら、吾も賛成する事にするのじゃ」

 遙華は憑き物が取れたようにホッとした笑顔でそう言った。

「うあ、やった!さすが、ルコ!」

「そうですね、ルコ様、ついにやりましたね」

 恵那と瑠璃は口々にそう言うと、ルコと三人で喜びあった。

「主ら……」

 遙華は呆れてはいたが、笑ってもいた。

 一通り、三人は喜びあうと、

「それでは早速準備に取り掛かりましょう!」

と恵那が号令を掛けた。だが、

「皆様、盛り上がっているところ、申し訳ございませんが、明日からまた当分の間吹雪になる模様です」

とマリー・ベルは無常にも出発が困難な事を知らせてきた。

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