6.大惨事
その1
これは17日前のこの世界に転移した日の夜の話よ。
あたし達四人は夕食後、湯浴みをする事となったの。
まず、一番はあたしだったの。
あたしは喜び勇んで湯浴み室に入っていったの。
お湯で体を洗うなんて楽しみ!
「それでは、恵那様、使い方の説明をさせて頂きます」
まりぃは恵那が湯浴み室に入るとそう言ったの。
「お願いねぇ」
あたしはウキウキが止まらなかったの。
「はい、承りました」
まりぃはそう言って一呼吸置いてから説明を始めてくれたの。
「まず、お湯ですが、上に伸びている管の上から出てきます。お湯は管の根本の右側のつまみを手前に回していただくと出ます。お湯の量は回す量で調整できます。お湯の温度はちょうどよく調整しておりますが、もし、熱かった場合は左のつまみを奥側に回して下さい。また、冷たい場合は左のつまみを手前に回して下さい。次に、カラダを洗うための石鹸等ですが、左側の棚にあります。手前から体を洗うための石鹸、次が髪を洗うための石鹸、最後の三つ目が髪の仕上げ材となっております。それではごゆっくりご堪能下さいませ」
まりぃはいつもの事務的な口調で一気にそう説明してくれたの。
でも、あたしはその説明でアワアワと狼狽えたのよ。
正直何を言っているのか、分からなかったの。
いや、全部分からないって訳ではなかったの。
でも、後で知ったのだけど、あたしが質問しないせいでまりぃは分かって聞いていると解釈して長々と説明したらしかったの。
なんて融通が効かないの!
「ええっと、それじゃあ、まずお湯を出して……」
あたしは確認するようにそう言うと勢いよく右側のつまみを回してお湯を出したの。
そしたら、お湯がシャワーヘッドから一気にドバっと出て頭からまともに被ってしまったのよ。
「もう、何これ?」
あたしはびっくりして更に慌てたけど、お湯の勢いが凄すぎて目が開けてられなかったの。そのため、手探りでつまみを探すのだが、中々見つからなかったのよ。そうこうしているうちにお湯は益々降り注いでくるのよ。しばらくそんな状態が続いた後、やっと手がつまみを探り当ててお湯を止める事に成功したの。やれやれよ。
ただもう、全身びしょびしょ。髪の毛が顔にひっついてきたの。
なんか、全然気持ちよくない!
あたしは少し泣きそうになっていたのよ。
「もうしょうがないから髪から洗おう」
あたしは決意したようにそう言うと、顔にひっついた髪で視界を奪われながら髪の石鹸を頭の上から塗りたくったの。
「これ、どのくらいの量、必要なのかな?まだかな?」
あたしはそう言いながら更に石鹸を塗りたくっていたら、ヌベーッとしたものが頭の上から垂れてきて目に入ってしまったのよ。
「痛い!何これ!」
あたしは思わず叫んでしまったの。しかし、ヌベーッとしたものは次から次へと上から垂れてきたのよ。
「痛いよぉ!全然気持ちよくないよう!」
もうそうなったらあたしは泣くしかできなかったの。そして、ついに
「ルコ、助けてよ!」
と耳飾りを通してルコに助けを求めたの。
そう、あたし、泣きながら……。
とっても惨めな気分だったのよ。
「どうしたの?」
ルコはあたしの予期せぬ言葉に耳飾りを通して驚いて聞いてきたの。
「目が痛いし、色々ぐちゃぐちゃよ」
あたしは泣きながら現状を一生懸命説明したの。
「シャワー室、じゃなかった、湯浴み室にいるのよね?」
「そうよ、早く助けてよ」
あたしにそう言われるとルコは湯浴み室に駆けつけくれたの。
そして、その後に遙華と瑠璃も駆け付けていたの。
ルコが湯浴み室に入ると、あたしの無残な格好にびっくりしていたの。
全身ビショビショで所々が泡まみれで、自慢の髪がべっとりグニャリとしていたの。
「ルコ、目が痛いよ」
あたしは石鹸が目に入って目が滲みていて泣いていたのよ。
後で聞いたら遙華と瑠璃はルコの立っている隙間からあたしを見て恐れおののいたらしいのよ。
その時のあたしは二人の表情を見る余裕なんてなかったけどね。
「ちょっと待ってて」
ルコはそう言うとあたしを助けようとすぐに近付こうとしていたの。
「おい、ルコ、そのまま行くと主の服がずぶ濡れになるぞ」
遙華はルコにそう言ったの。
「目、痛いよぉ」
あたしは悲鳴に似た声を上げたの。
ルコ、一刻も早く助けてよぉ!
「目、ギュッと閉じてて」
ルコはちょっときつめな口調であたしにそう言ったの。
あたしはルコに言われたまま目をギュッと閉じてルコの助けを待ったの。
ルコは服を脱いでいたみたいだったの。
まあ、そのままだと、遙華の言ったとおり服が濡れちゃうしね。
ただこの時のあたしはそんな事を考えている余裕はなかったのよ、目が痛いし。
「ルコぉ」
「はいはい、そのまま目をギュッとしていて。まず、泡を全部流すから」
「分かった」
あたしが頼りない口調で答えると、ルコは何やらごそごそしていたの。目をつぶっているからあたしには分からなかったけど、あたしのためにルコが動いてくれているのはなんとなく分かったのよ。
すると、お湯が出る音がして、あたしの頭の泡をゆっくりと流し始めてくれたの。そして、一通り流し終わると、
「顔、行くわよ」
とルコが声を掛けると、あたしはうんと頷いたの。
ルコが何かをすると、お湯の出る音がすこし小さくなったの。そして、あたしの顔にゆっくりと掛けて周りの泡を流してくれたの。
「大丈夫?」
「まだ、目、痛い」
あたしがそう言ったので、ルコはあたしの右目の下に手を当ててくれて、掌を窪めてお湯を貯めていてくれていたの。
「はい、まず、右目を開けて、お湯の中で目をパチパチして」
あたしはルコにそう言われたとおりにして、
「はい、次は左目ね」
と言われて、逆の目からも石鹸を洗い流したの。
「どう?」
ルコは恵那の顔を覗き込みながら言った。
「うん、大丈夫になった」
あたしは感謝感激だったの!
ようやく地獄から生還したという気分だったの。
ルコはあたしの様子を確認してくれてからお湯をを止めて管を元に戻したの。
「えっとね、まりぃに説明されたんだけど、なんかうまく行かなくてね」
あたしは説明し始めたが、ルコにとってあたしの惨状を見れば一目瞭然の事だったようね。
「なんかね、蛇口を捻ったらお湯が飛ばっと出てちゃって、頭からびちょびちょになってね」
ルコはあたしの説明を黙って聞いてくれたの。
「お湯は止められたんだけど、しょうがないから髪の毛洗おうとしたらうまく行かなくて……目に染みるし、もう、大変だったわよ」
あたしそう説明を続けたけど、ルコにはあたしのさっきのなりを見て大体の予想は付いていたようね。
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