その3

 次の日、朝食が終わると四人は直ぐに行動を起こした。

 まずは村7が偵察できる急斜面の下に移動した。

 斜面を登るのはこの気候に慣れている遙華と、この世界の文明に親和性のあるルコの二人だった。

 実は遙華は最初恵那を連れて行こうとしたのだが、寒いのが苦手な恵那は頑なに拒否し、強引に連れて行こうとするとパニックで何をしでかすかわからないのでルコが同行する事となった。

 幹線道路から少し離れて荒れた道を少し行くとすぐにその斜面の下に着いた。

 ルコと恵那は車を降りると、その斜面を見上げた。

「ああ、スキー場だったのね。リフトもちゃんとあるわね」

 ルコはそう言いながら納得していた。

 そこはスキー場で左の方にリフトがあり、リフトの下には建物があった。建物はレストはうとリフトを動かすための設備だった。

「す?りふ?何を言っているんじゃ、ルコ」

 遙華は隣で怪訝そうな顔をした。

「ここは昔遊び場だったところね」

 ルコはそう言うと、リフトに向かって歩きだしていた。

「な?ちょっと待つのじゃ」

 遙華は置いてけぼりを食わないようにルコを慌てて追いかけた。

「マリー・ベル、リフトは動かせるのよね」

 ルコはリフトに近付きながらそうマリー・ベルにインカムを通して言った。

「はい、仰る通りです。すぐに動かしますか?」

「お願いするわ」

 ルコはリフトの前で立ち止まってそう言った。

「はい、承りました」

「おい、ルコ、主はたまに訳の分からない会話をするもんじゃな」

 遙華は状況がわからないのでちょっといじけそうになっていた。

 すると、タイミングよくリフトが二人の目の前で動き出した。

「なんじゃ!」

 遙華は驚いて飛び退いた。が、すぐに動くリフトを見て、

「凄いのじゃ!これなんじゃ!」

と近寄って興味深そうに見始めた。目がキラキラしていた。

「これに乗って、上に行くわよ」

「乗る?」

「うん。台に座って運んでもらうの」

 ルコはそう言うと恵那の手を取ってリフトの乗り場に連れて行った。下に乗り場を示す赤いラインがあった。また、幸いリフトは二人乗りだった。

「どうやるんじゃ?」

 遙華は不安とそれ以上の興味で聞いてきた。

「はい、後ろを見ます」

 ルコがそう言うと、二人で後ろを振り返った。ちょうどリフトが折り返し地点に差し掛かってこちらに来ていた。

「あの台車の上に座ります」

「大丈夫なのじゃな?」

 遙華は言葉ではそう言っていたが、ワクワクが止まらないという顔をしていた。

 そして、間もなくリフトがゆっくりと近付いてきた。

 ルコは焦れていて我慢できないといった遙華を腕を掴みながら制していた。

 リフトは尚もゆっくりと二人に近付いてきた。

「はい、座ります」

 ルコはリフトが赤いラインに差し掛かったところでそう言ってタイミングよく自分が座り、ちょっと遅れた遙華を引っ張って座らせた。

 二人が座ったリフトがゆっくりと赤いラインを超えていった。

「おお!」

 遙華は感動と興奮を声に出せないでいるようだった。

 リフトは離れると同時に受けから安全バーが降りてきた。

「これはなんじゃ?」

 遙華は目の前の安全バーを指差しながらそう聞いてきた。

「落ちないための安全装置よ」

 ルコはそう言いながら安全バーを握った。

「ほう、凄いのじゃ!」

 遙華は益々ご機嫌になっていった。

 リフトはどんどん上がっていき、遙華の興奮もどんどん上がっていった。

「凄いのじゃ!凄いのじゃ!すれ違っているのじゃ」

 遙華は上に上がるまでずうっとこんな感じだった。

「間もなく、降り場です。安全バーが上に上がりますのでご注意下さい」

 マリー・ベルトは違う機械の声でそう告げられると、安全バーがゆっくりと上っていった。

「もう終わりなのじゃな」

 遙華は一気にテンションが下がって冷静に言った。

 それを見てルコは力なく笑った。遙華はよっぽどリフトが気に入ったのだろう。

 リフトは上昇を止めて平らな面に入っていた。

「下に赤い線が見えたら立ち上がって歩くわよ」

 ルコは遙華にそう言った。

「分かったのじゃ」

 遙華はそう答えると、二人は下を見た。

 ルコは再び遙華の腕を取って、降りる準備をしていた。

 そして、直ぐに赤いラインが見えてきた。

「はい、お客様、降りますよ」

 ルコはそう言って遙華の腕を引っ張ると、二人はタイミングよくリフトを降りて出口へと歩いていった。

 二人の後ろをリフトがゆっくりと通過して折り返していった。

「ルコ、主はやっぱり凄いのじゃ!こんな乗り物も知っているとは」

 遙華は今度はルコに感動しているようだった。

「ええ、まあ……」

 ルコははにかみながら笑うしかなかった。

 遙華に言われて思ったのが、自分にはリフトに乗った事がある記憶がないような気がしてきたからだ。記憶が曖昧なせいなのかはっきりしない。

 すると、そこに風がピューと吹き抜けた。

「う、寒い」

 ルコは思わず震えた。恵那ほどではないが、寒いのは苦手らしい。というより、記憶の中の一番寒い部類に入るのではないかと感じた。

 いつもの茶色のセーラー服の上に茅色のカーディガン、万が一のために防刃ベスト、そして、セーラー服に合わせた茶色のファー付きのあったかコートを来て、上は、と言っても頭の上だが、万が一のためのヘルメットにコートのファー付きのフードを被り、手には手袋と防寒対策はしてきたが、下がスカートにニーソで、下着が防寒になっていなかったので寒かったようだ。

「寒いには寒いがまあこんなもんじゃろ」

 遙華の方はまだ大丈夫な寒さのようで平然としていた。何だかリフトの下と上ではルコと遙華の立場が入れ替わったような感じだった。

「どの辺に行けば、よく見えるようになるのかのぉ」

 遙華はそう言いながら東の方を見てリフトから離れ始めた。

 ルコは置いてからないように遙華の後に続いた。

 目の前には海が広がっていたが、二人が見たいのは東の海岸近くにある猪人間の村だった。

「高いところから見る海もなかなかのもんじゃな」

 遙華はそう言ってから、絶好の位置を探しながら上へと登っては振り返るを繰り返していた。

「村7を視認しました」

 しばらくすると、マリー・ベルがそう言ってきた。

「まりぃ、ここの位置でいいのかい?」

 遙華はそう聞いた。

「乗り物からあと1mほど離れて下さい」

 マリー・ベルが言ったとおりに遙華はカニ歩きで1mほど離れた。

「体をもう少し東に向けて下さい」

 今度は方角の指示があった。

 遙華はゆっくりと東の方に向き直った。

「はい、そこです」

 マリー・ベルにそう言われると、遙華はピタッと止まった。そして、遙華のスマードグラスに村7の文字とともに場所が表示された。

「おお、ここがそうなのじゃな」

 遙華は歓声を上げた。

 拡大してみると、猪人間が見えるようになり、これで村7の分析ができるようになった。

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