JKに告られたんだが全くときめけなかった件
タニシ
第1話
「あなたの事が好きです。私と付き合って下さい」
俺こと男、小山庄助(こやましょうすけ)は遂に念願のJKからの告白を受けた。
年は後少しで魔法使いに差し掛かる26。
現在は一端のサラリーマンとして細々と生きている。
高校時代、それまでの非モテ生活から脱退すべくテニス部に入部したものの、何の成果もあげられないまま華の3年間を終える。
卒業式の日、直近で連絡が取れる女子が誰もおらず、自分にモテる才能が一切無いのだという現実を思い知った。
高校生活を無駄にして逆に吹っ切れた俺は、大学に入ってからは気の合う奴らとひたすらアニメやゲームの会合に参加して一端のオタクとして恥ずかしくない状態まで成長した。
そうしている内に女性との会話は徐々に減っていき、そのまま今に至る。
このまま女っ気一つないまま老後を迎え、そのまま迎え独り身で死んでいくのだろうなという予感と共に細々と生きていた。
そんな俺がどういう訳か今この瞬間JKに告白を受けたのだ。
相手はつい先月辺りに知り合ったJK。
名前は香澄彩歌(かすみあやか)。
年齢は17才。俺の九つも下だ。
れっきとした女子高生であり、J(自宅)K(警備員)でしたなんてオチはない。
彼女の通う高校は、都内有数の進学校では無いが、落ちこぼれの受け皿となる底辺高校という訳でも無い。良くも悪くも平均的な高校だ。
体型に関しては普通だと思う。細かい事は知らん。というか逆にわかったらやばいだろ。
容姿はそこそこ。決してミスコンだとか学内のマドンナだとか、そういう事柄には縁は無いと思うが、会話の中で自然に笑った顔は結構可愛いと思う。
そんな願っても無いJKからの告白。一体どれ程の男達が心待ちにしていた事だろうか。
だが俺は、その告白に心を踊らせる事が全く出来なかった。
俺は、気持ちの整理を付ける為に一度上を仰ぎ、深呼吸をして彼女の言葉に視線を戻す。
ーーあなたの事が好きです。私と付き合って下さい。
LINEの通知欄、その1番上に彼女からの告白が載っていた。
学生時代、自分からにしろ相手からにしろ、告白というものは面と向かってするというものだったしそれ以外は無いと思っていた。
流石に放課後、校舎裏での告白という創作ばりのシュチュエーションとまではいかないが、それでもそれなりの雰囲気の中、神妙な面持ちでするものだという認識が今でも俺の中にはある。
だが最近になって知った事だが、今時の高校生の中には告白はLINE会話の中で行うもので、面と向かって気持ちを伝えるのはダサいとされている風潮が一部ではあるようだ。
それが今目の前で実践されている。正直本気度が見えない分、実感も湧かない。
これが喜ぶに喜べない理由の一つ。
だが俺の気持ちが昂らない理由はそれだけでは無い。
「ふぅ」
俺はその端末を持つ手を下ろし、視線を更に下へ。
そこあるのは俺と長年付れ添ってきた大事な
そう。俺は今、風呂上がりの一糸纏わぬ生まれたままの姿をしている。
いつもと同じように風呂に入って、身体を拭いていた時に、横に置いてあったスマホからLINEの通知音。
この時間帯は大体上司や同僚から仕事に関する補足事項等が届くので、すぐに確認したら、そこに表示されていたのは告白文だったという訳だ。
真っ裸のまま受け取る女子からの告白。
世の男子達は同じ状態でこれを目にした時、一体どういう反応を取るのだろうか。
というか絶対同じ様な状況でLINEの告白を目にする男子はいる筈だ。
お前達はどんな気持ちで告白を受け取ってどんな風に返事を出したのか。
どっかの書店にでも置いて無いかな。裸でLINEの告白を見たときの対象方法が書いてある恋愛の指南書とか。
とまあこんな感じでテンションを上げるのも精神的に難しい状況なのだ。
仕方ないので無理矢理気持ちを奮い立たせようと、実際に彼女と面と向かっていた場合だという想定で考えてみる。
この時間だから私服だろうか。彼女の私服姿は何度か見た事があるのでその中の一つをチョイス。
そして彼女に呼び出される俺。告白シーンに向けてそつがない格好をしている自分を組み立てようと、想像力を働かせる。
だが俺の私服センスはお世辞にもいいとは言えない。それでも数少ない手持ちの中から最良のものを導き出そうと脳をフル回転させる。
あれでもない、これでもないと取捨選択を繰り返す内にすぐにネタが尽きた。
何か他に候補になるヒントは無いものかと、周囲をぐるりと見渡したのだが、それが間違いだった。
視界に入ったのは
誘導とは恐ろしいもので、一度指向性を示されるとそこから脱した思考をするというのは中々難しいものだ。
そうしてなだれ込んできた誘導弾に導かれるまま脳内に出来上がったのは、意を決した表情の彼女と、それに対峙する真っ裸の自分。
「犯罪だ」
生まれてしまった変態的なシーンによって更に萎える俺。
加えて蛍光灯がこれでもかという程に惨めな現状を突きつけてくる。
憎たらしい程に光を直接浴びせにくるだけでなく、鏡にの方にも光を飛ばし、うまい具合に反射させる事で、スポットライトの照射の如く俺の一物を際立たせている。
「お前如きの粗チンで彼女を満足させられんのか」とでも言わんばかりだ。
余計なお世話だ。というか論ずるポイントが先行き過ぎなんだよ。段階どんだけ飛ばしてんだ。
こいつら結託して俺の心を折りに来てるんじゃ無いのか。
誰だよこんな所に洗面台を置いた奴。俺か。
とりあえずこのまま未読スルーするわけにもいかないので、どういう返事をしようか考える。
「というか何で俺なんだ……?」
本腰を入れて考え始めた所でようやく原初の疑問に辿り着く。何故自分が選ばれたのかと。
自慢じゃないが、俺は二十歳を超えてからというものの、女性の気を
こんなオタク男に気を向ける人なんかいる筈も無いと割り切って好きな様に生きてきたつもりだ。
「もしや罰ゲームか何かでそういう事を言わされる羽目になったとか…?」
ふと可能性として思い浮かんだのは女子同士で偶にやると言われている罰ゲームで告白させられているのではというもの。
同年代に送るとなると本気で受け取られてしまう。かといって余りにも年の離れたおっさんに送っても緊張感が無い。
そういう点では20代後半かつ独身男である自分に送るのが丁度いい塩梅ではないのだろうか。
「そういえば少し前に彼女がいるのか聞かれてたりしたな」
だとしたら俺の元にこれが来たのも納得がいく。
そして同時に自分はそんな悪戯一つに必要以上に悩んでしまうアホな男だという悲しい事実を突きつけられてしまった。
嗚呼……悲しきかな。
所帯持ちとは違って、少しでも可能性を散らつかせられるとつい
だがそれに気づかないよりはずっといいだろう。もしそのまま浮かれて、うっかり手を伸ばした瞬間などを撮られようものならば、瞬く間に地獄行きだ。
今のご時世、女子校生側がその気は無かったと言えば、サラリーマンという社会的弱者は為すすべもなく社会的に
彼女に貶めるつもりが無くても、第三者はそれを許さないだろう。それほどに女子高生の価値は高く、独身男性に対する偏見の目は厳しい。
(貶める?)
そこでハッとなる。
最近不祥事を起こすサラリーマンのニュースが後を絶たない。画面の向こう側からこの手のニュースを見た時は馬鹿馬鹿しいと一蹴してきたが、いざそういう可能性のある場面に出くわした今、そういう風にして取り上げられるのも仕方がないのではないか。
詐欺や犯罪は、自分は絶対騙されない。それらは他所の出来事だと高を括っているからこそ巻き込まれるのだ。
(これが……現代に潜むハニートラップ)
こうしてまた一つ、世界の真理に辿り着いた。
「エクス、タシィ……」
同時に俺は、脳から溢れる快感に身を躍らせていた。
脳汁が出るというのはこの事をいうのだろう。
新たな気づきを得た事で感じる全能感。世界の全てを一望しているような気分だ。
それは正に賢者の叡智。今俺はその膨大な知識の一端を担っているのだ。
平時であれば気づけなかったあろう事象に目を向ける機会を得れた事に、感謝の念を送る他ない。
完全にトリップしていた頭を現実に引き戻したのは、全身が訴える震えだった。
「おっと、寒い寒い」
どうやらあれからだいぶ時間が経っていたようだ。このまま突っ立ていたら風邪を引くのは確実。
すっかり湯冷めしてしまった身体を急いで拭き、パジャマを着てそのままベッドにダイブ。
「おまむみ〜」
いつもに増して脳をフル回転させた分、降りかかる疲労が妙に心地良い。
そのままスッキリしたに感覚に包まれながら、俺はぐっすりと眠りについた。
彼女からの告白の返事を全くしていなかった事に気づいたのは、朝起きてからスマホで時間を確認してからだった。
ーーもう、寝てしまいましたか?まだこの時間起きていると以前聞いていたと思うのですけど。
ーー駄目なら駄目でいいんです。返事を聞かせて下さい。
ーー着信履歴
「あああああ!!」
そして俺が寝ている間に届いてきたこの反応。どう見ても遊びや悪戯のそれでは無い。
客観的に見れば、俺は告白の返答に迷った挙句、未読スルーをかますという最低な行為に走った男になる。
「俺、最低じゃん……」
何がぜんちだ。周りちっとも見えてなかったじゃねーか。
何がけんじゃのえいちだ。JKの気持ち全然わかってねーじゃねーか。
とりあえずなんと詫びを入れるべきか、そうだ、途中から寝てて気づかなかったのは事実だからそれを絡めて説明すればいいか。
「よし」
そんな後ろ向きな覚悟を決めた俺は画面を押す。
だがそこに表示されたのは縦に吹き出しが連なるトークルームではなく、発信中を示すマークと呼出中の3文字。
「あっ……」
どうやら誤って着信履歴の部分をタップしたせいで直接電話を発信してしまったらしい。
急いで取り消そうとするが既に遅し。1コール分にも満たない短さで回線が繋がるアイコンに切り替わった。
「……」
暫くの間硬直していたが、ここまできて流石に応対しない訳にもいかず、俺は恐る恐る電話を耳に当てる。
「小川さん?」
端末からはバッチリと彼女の声が届いてきていた。
「うん」
「よかった。嫌われて無くて」
俺の返事にすっかり安心しきった声。
そりゃあ告白の返信は来ず、電話が逆にかかって来たのに反応がなけりゃ誰だって不安になるわな。
「ところで、大丈夫でしたか?昨日反応が全く無かったので」
「ああうん、大丈夫だよ。うん大丈夫」
彼女の心配に対して俺の返答はしどろもどろ。
予想外の事態に、予め言おうと決めてた内容も完全に頭から吹っ飛んでしまった。
「……」
「……」
「あの……」
「ん?」
「……本当大丈夫だったんですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「本当に?迷惑では無いですか?」
こちらの反応が余りにも鈍いのを不思議に思ったのか、彼女の声の調子が少し変わる。
「そんな事はないよ!嬉しかったし!気持ちよかった!」
焦りで何時もの調子を戻し切れて無い俺は、内心を悟られないよう慌ててそれを取り繕う。
「気持ちよかったんですか?」
ここで言葉に詰まれば説得力が無くなると思ったので、矢継ぎ早に言葉を繰り出す。
「うんうん!賢者になった気分だったよ」
まくし立てるように言葉を並べていく。
少し盛りすぎた所もあったと思うが、概ね大丈夫だろう。
「……」
と思ったが、何故か彼女の方が黙ってしまった。
……あれ?
少しうるさすぎたかな?
「彩歌ちゃん?」
逆に不安になり、とりあえず名前で呼びかける。
「そそそそうでしたか、お、お役に立てて良かったです!」
かなりうわずった声が返ってきた。凄い慌て様だけど、どうしたのだろうか。
何か変な事を言っただろうか。俺は自分の言葉を思い返してみる。
……。
………。
…………。
あああああああああ!(二度目)
この言い方はどう考えてもアウトだろ俺!もうちょっとこう、オブラートに包んだ言い方あっただろ!
そりゃそうだよね!女子高生が男の性処理に関する知識に疎いだなんて小説の中の世界だけの話だよね!
それを好意を抱いてる男の口からそんな事を暴露されたら誰だって頭真っ白になるよなぁ⁉︎
「……」
「……」
無言の時間が暫し続く。
それを打ち切ったのは彼女の方だった。
「小山さんは」
「うん」
「昨日の夜」
「うん」
「お一人で」
「うん」
「全裸で」
「うん」
「気持ちよくなってたんですよね?」
「……………うん」
「私の告白で」
「……………………………うん」
何これ?
何で年下の女の子から尋問のような事をされてるの?
新手の罰ゲームか何かか?
一部の界隈ではご褒美として扱われるらしいが、生憎と俺にはさっぱりわからない。
というか全裸だなんて言ったっけ?まるで記憶に無いんだけど。
もう恥ずかしさで死にそう。
いや、正直に答えすぎた俺が悪いんだけどさ。
「そうですか……」
質問フェイズの時に比べややトーンの低い声。
これ絶対引かれてる……。
「……つまり」
そのまま無言で続く言葉を待つ。
気分は正に被告人。俺は全身に流れる冷や汗を感じながら彼女の判決の続きをを待っていた。
逃げる事は許されない。ここで通話を切ろうものなら以後絶対口を利いてもらえなくなるだろう。
「……つまり小川さんは、私とそういう関係になるのは満更でも無いという事ですね?」
「……うん?」
思わず間抜けな声が出る。
あれ、そういう事になるのか?
「あ、いやそれは」
思わず否定しそうになる。
「……違うんですか?」
「いや、何というか」
どうしよう。彼女の事は嫌いでは無い。寧ろ好きだ。
でも恋人としてとか、ましてや性的な目で見た事が無かったので、今更何と言うべきか全くわからない。
「でも、昨日に私で抜」
「わー!わー!わー!」
答えあぐねいでいると、彼女がとんでも無いことを口走りそうだったので慌ててそれを遮りにかかる。
流石に女の子の口からその先を言わせてしまうのは、男として色々駄目な気がするから。いやもう手遅れかも知れないけど。
「うん、そうだね!君の告白が嬉しかったから気持ちいい気分になってたよ!」
うん、ここはそいういう事にしておこう。いざという時身を引く事ができるのが大人というものだ。
単に自業自得なだけなのだがそれはそれ。物は言い様。
「うん、君の気持ちは嬉しいよ。でもごめん。付き合う事は出来ない。」
ヤケクソになった事で一周回って気持ちが落ち着いた俺はそのまま彼女に返事を出した。
「え?」
「まだ君は高校生だ。もっと多くの事に目を向けるべきだと思う」
本音を言えば、俺も彩歌ちゃんと付き合える様になりたい。今すぐ首を縦にバイブさせて承認したいレベルだ。
正式に付き合っていけば、いずれ本気で好きになっていける自信はある。そのくらい彼女はいい子だ。
だが社会人と女子高生の交際など、世間は決して認め無いのだ。それは純然たる事実としてわかって貰わねばなるまい。
「何ですか、それ」
声が震えているのがわかる。当然だろう。想いが通じたと思ったのにそれを断られたのだから。
俺も心苦しい。
「私が高校生だから付き合えないって事ですか!」
そして飛び出して来たのは彼女の怒号。
普段の彼女からは想像も付かない程、それは強烈なものだった。
「そうだ。君はまだ未来のある身分だ。自分をもっと大事にしなきゃ」
「わかりません!それが付き合え無い理由になるのが!」
彼女の怒りも尤もだ。
俺は今、気持ちの問題では無く、一般論を当て嵌める事で彼女の申し出を断ろうとしているのだから。
「いずれわかる」
「わかりません!わかりたくありません!」
そこから落ち着けようと何度か言葉を重ねるが、逆に火に油を注ぐ結果となるばかりだ。
そのままいい、ダメだと論争が続き、お互いにかなりヒートアップしていた。
そうして譲れ無い一線でせめぎあっている中、遂に彼女から極論が飛んできた。
「つまり私が高校生でなくなれば問題無いんですね!」
最早自暴自棄になりそうな勢いだ。だがそんな事はさせまいと俺は釘を刺す。
「だからって退学とかは絶対駄目だからね!」
男と付き合う為に高校中退だなんて親御さんが許す訳が無いし、俺だって認めない。
「じゃあ待ってて下さい!高校卒業したら私の事貰って頂きますから!」
「それまでに君の気持ちが変わって無かったらね!」
最早売り言葉に買い言葉だが。貴重な時期をふいにさせるよりはずっといいだろう。やれるもんならやってみろと言わんばかりに挑発的に返した。
「
「わかったから!待っててあげるから!」
「絶対ですからね!約束ですよ!」
そんな締め台詞と共にLINE電話の終了を告げる効果音が響いた。
「……ふぅ」
大きく息を吐く。
大人しいとばかり思っていたが、その実中々強情な娘だった様だ。
……
………あれ?
そこでふと我に帰る。
「冷静に考えたらこれは、所謂婚約という奴では?」
俺は唖然としながら、スマホの画面に視線を戻す。
そこには今し方終えた通話がいかに長電話だったかを示す無機質な表示だけが残っている。
だが乙女心に疎い俺ですら、今向こうで喜びに悶える彼女の姿が容易に想像できた。
俺は今まで、告白というものは面と向かって、心をときめかせながらするものだとばかpり思っていた。
だが今回のそれは、そんなものとは無縁とばかりに瞬く間に過ぎ去っていった。
そんな、想像とはかけ離れたとある日の告白騒動。
JKに告られたんだが全くときめけなかった件 タニシ @Tk35121
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