第27話 だから彼と彼女は困っている
俺は授業中、何となく青空を見ている。
そしてそんな授業もいつの間にか終わり、クラスメートは帰宅の準備を着々と進めていっている。
「何か浮かない顔してんな?」
帰宅の準備が終わっている
「まあな。ちょっと心配事があって」
「雨音ちゃんのことか?」
俺の心配事をすぐに言い当てる守。
こいつ案外鋭いな。
俺は素直に首肯しておいた。
「本当に晴斗の脳は妹で埋め尽くされてるな。どうやったらそんなにシスコンになれるんやら」
そしてため息を一つ。
そんな守にも妹がいる。しかし、守はその妹のことがあまり好きじゃないらしい。何で妹がいながら妹の素晴らしさを守は分かっていないのか、本当に不思議に思ってしまう。
「ほんとにね」
そこで口を挟んできたのは
「まあ一応私も妹だけどさお兄ちゃんそんな晴斗みたいじゃないよ?」
――? ちょっと待て。今、こいつ何て言った?
「何信じられないみたいな顔してんの? もしかして私にお兄ちゃんがいること知らなかったの!?」
そんな驚いている俺の様子に玲香までもそれが移ったかのように驚いた。
知らなかったの、って言われても聞いた覚えすらない。俺、ずっと玲香は一人っ子だと思っていたんだけど。
「ということは玲香にはお兄ちゃんがいるんだな?」
「う、うん」
「じゃあお前はそのお兄ちゃんのこと何て呼んでる?」
「お兄ちゃんだけど?」
俺はこれを聞いて深く絶望した。
まあ、別に
雨音だけが「お兄ちゃん」って呼んでくれないのは何でだよ。ずっと「
俺は決めた。今夜、咲斗をきちんと振れたかを訊いた後、雨音にお兄ちゃんって言って貰う! 絶対言って貰う!
「まあまあそんな落ち込まないで。晴斗は雨音ちゃんからお兄ちゃんって言われたいんでしょ? ならそう言われるぐらいのいいお兄ちゃんになればいいじゃん」
玲香はそんなことを軽く言ってくるが、それは簡単なことじゃない。
まずもう俺、いいお兄ちゃんになれてるだろ。どうすればこの今の俺からもっといい俺になれるんだよ。
そんなことをただ心で呟いていた。
「じゃあさ玲香のお兄ちゃんってそんないいのか?」
そしたら玲香は自慢げに笑顔を浮かべ、
「晴斗よりも断然いいお兄ちゃんだよ!」
と、胸を張って言ってきた。
何かムカつく······。
そんな時、教卓に立っている先生が俺たちに呼び掛けた。
「帰りのホームルーム始めるぞ。席につけ」
それにぴくり、と玲香は反応して「じゃあ席に戻るから」と、言って俺たちの前を去って行った。
***
帰りのホームルームは先生が明日の時間割変更を生徒に教えただけで終わった。
その後、俺は帰路に
雨音は咲斗を無事に振ることが出来たのか、今でもそんなことを考えている。
そしたらいつの間にか家のすぐ側まで来ていた。俺はいつも通り「ただいま」と、言って家に入る。
リビングに顔を出すとソファーに険悪な表情をして座っている雨音がいた。
「あれ、雨音今日部活じゃないの?」
そう訊くと、
「休んだ」
と、返された。
声色から見るにあまりいい気分ではなさそう。
何か学校であったのか、咲斗に何か脅されたり罵倒されたりしたのか、俺の脳裏には急にそんな考えが浮かんだ。
「何かあったか?」
実際に口に出して訊いてみた。
そしたら雨音は弱々しく首肯した。
もうこれはお兄ちゃんとして心配しないわけがない。
「咲斗はちゃんと振った」
そんな暗い雰囲気に包まれている雨音がぽつり、と口に出したのはそんな言葉だ。
だけど、咲斗を振ることに成功したのならもっと喜んでいいはず。何でそんな自己嫌悪しているかのような表情を雨音はしているのだろう。
そんなことを俺が訊く前に、
「だけど、咲斗は私のことが好き。まだ諦めていないらしい。そこまで私に対して強い愛情を持ってくれているのは正直嬉しい。だからそんな咲斗の愛情を裏切った感じがして······。それにこんなことを
雨音が悲壮感漂う声色で、言ったのだ。今、持っている自分の想いを長々と深々と。
しかし、雨音が悪い訳では無い。だからといって咲斗が悪い訳でも無ければ愛花が悪い訳でもない。
今の問題に悪い奴はいない。だから問題に対して自己嫌悪すること自体間違っている。
「雨音······」
しかし、今の自分ではそんな言葉しか出てこない。「雨音」と名前を悲しそうな声色で呼ぶことしか出来ない······。
「やっぱり最終的には咲斗に嫌われるっていう方法を選んだ方がいいのかな」
本当に困っているのか雨音の顔は憂いで埋め尽くされている。
「いや、嫌われる必要はない」
だからこそ出たのがこんな言葉。そして、
「雨音が咲斗を諦めさせればいいんだよ」
と、真剣な表情をして俺は言った。それに対して雨音がはっとした表情になっている。
俺の真剣さに驚いているのか、俺は今の雨音の心情は分からない。だけど、意思は伝わってくる。
「だけど咲斗は諦めることを強く否定してた。そんな状況で咲斗に諦めさせることなんて······」
「――出来る!」
俺は弱々しい雨音の言葉とは対照的に力強く言った。
「咲斗を避ければいい。そしたら自然と咲斗の愛情は薄れていくはずだ」
「······そうかな」
雨音はまだ心配しているらしい。
実際にそれほど大きな愛を咲斗に告げられたのだろう。
咲斗の奴、俺の可愛い妹をそんなに好きになりやがって······。
気持ちは分からないことはないが、個人的に雨音は付き合って欲しくない。俺と付き合って欲しい。
まあ、それなら日本の法律を変えないと実現しないけどな。
「······明日咲斗に喋りかけられたらどう反応しよう······」
雨音は尻込みをしながらそう言った。どう反応しよう? そんなの無視でいいんだよ! 無視して無視して無視しまくれば咲斗は嫌ってくれるはずだ。
しかし、雨音にそんなことが言えるわけがない。
あくまで雨音はどう反応しようと、訊いてきたのだ。だから反応の仕方を答えなければならない。
そんな時、俺の脳裏に急に一つのやり方が過ぎった。
「軽く反応して、『うん』とか『それな!』とかを多用して早く会話を終わらせればいい」
そう、会話早く終わらせよう作戦だ。
咲斗が話し掛けてきても「うん」とか言えば、当然ながら咲斗は返答に困るはず。
それを利用してけば、何だよあいつ、会話弾まないし、面白くない。他の人好きになろ、という考えが咲斗にも浮かぶだろう。
俺天才。こんな考え出せるとか天才。
しかし、雨音の表情を見てみるとあまりいい表情はしていない。
「この考えでもちょっとダメか?」
困ったように俺が訊くと、雨音の顔に懸かっていた雲が少しずつ消えていき、最終的には全て消えた。
「いや、大丈夫。実践してみるね」
そして軽く俺に微笑んできた。
俺はこの時、期待した。
ひょっとしたら雨音の好感度は少しずつ上がっているのではないか、と。
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