あの日みた夢

岡本一樹

あの日のはなし

気が付くと教室にいる。なぜだか違和感を覚えてきょろきょろと辺りを見渡した。

「落ち着きがないね」

と親友が隣でくすくす笑ったので、私はえへへ、と返す。

朝礼には副担任がきた。あわあわと皆が席に着くのを確認した先生は、担任でもないくせに突然月一回恒例の席替えをすると言い出した。両隣の男子が私を挟んで喋るのに耐えられなかったので、私は内心ガッツポーズ。

男女で列が決まっているわけでもないので、親友が私を振り返って「今度は隣同士になりたいね」って目配せしてきた。

席替えのルールはくじ引き。席替え担当の委員が予め用意していたらしいくじを先生が受け取った。我先にとクラスメイトがくじを引いていく。私はいつもならいの一番に引きに行くのだけど、今日は気が乗らず最後に立ち上がった。

「残りものには福があるさ」

にやっと先生が笑うので、私もにやっと返す。

先生の合図で移動が始まった。幸運にも私の隣は親友だ。

「やったあ! 今月はとなりだね」

移動した瞬間私は飛び上がって喜んだが、親友は困ったような顔をしている。

「橘、後ろ後ろ」

先生に言われるまま振り向けば、重そうな荷物を抱えた男子が呆れた顔で私を見ていた。

「うっそ、ごめんっ」

ぼわっと沸騰した頬が熱い。クラスが笑いに包まれる中立ち上がり、「私は目が悪いんですよ」と言い訳するようにくじと黒板を確認すると、一つ隣の席だった。


昼休み、いつものお弁当仲間が私の周りに来襲した。

「朝はひどかったね」

「笑った。 あれは笑ったわ」

「……うるさい」

食べ終わってもなお機嫌が悪い私をみかねたのか、仲間の一人が鬼ごっこをしようなんて言い出した。

ばたばたと足音を立て、文字にならない奇声を発しながら廊下を疾走する。体力、脚力共に学校のワースト五本指に入ってしまう私は当然鬼のターゲットだ。こないでと全力で叫びながら駆ける。鬼を撒こうと角を曲がると、誰かがこっちだと手招きした。

跳び込むと普段は使っていない教室で、電気も点いていない。上がりきった息を整えながらお礼を言おうと顔を上げた。あれ、この子、制服違うような……

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