285.温泉旅館ゆざわ屋



 この湯之沢の宿場町は、全国各地から湯治目当てに旅人がやってくるということもあり、かなり大きな規模の町になっている。


 さらに近くにある湯之沢山城の城下町と隣接している為、多くの地元住民もここへとやってきているよ

うだ。


 今回俺たちはまずこの宿場町にある多くの大名が訪れることでも有名な高級温泉旅館の“温泉宿ゆざわ屋”で温泉につかり、そこで食事をした後、安全も考慮して遠城帝の弟君である越之城範頼が城主を務める湯之沢山城に泊めてもらう予定だ。


 安全を考慮して……、といったが、最近はどこ行っても何しても襲われることが多いので、今回も襲われる気しかしない。


 俺はもしかしたら呪われているのではないかと感じ始めている。


(絶対自分のステータス見られるなら呪いの項目がありそうだ……)。


 温泉宿ゆざわ屋の玄関前に着くと、そこには宿の女将さんや仲居さんが総出で俺達を出迎えてくれていた。どうやら俺達のことを歓迎してくれているようだ。


 出迎えてくれた人たちをよく見てみると、その多くの人たちが猫種や兎種の獣人族で占められていて、女将さんと思われる中年の女性も猫種らしく特徴的な耳と尻尾がついている。

 これからこの温泉宿には泊まるわけではないが、一応安全上の観点から貸し切りにしてくれている。


「ようこそゆざわ屋へ!コンダート王国国王陛下並びに女王陛下、お待ちしておりました!お越しいただき光栄にございます」


「出迎えご苦労様、早速入らせてもらうよ」


「当館は本日貸し切りとなっておりますので、気兼ねなくお過ごしいただけますのでごゆっくりどうぞ」


「ありがとう」


「では、先に本日のお食事やお休みいただくお部屋にご案内させていただきます」


「ああ、よろしく頼む、メリア行こうか?」


「ええ、楽しみね!」


 俺はこの宿の出迎えてくれた女将たちに軽く挨拶した後、そのまま女将に一先ず食事や休憩を兼ねた部屋へと案内されることに。


 入る前に俺はメリアの腰を自分に引き寄せ、そのまま歩みを進めた。


 メリアの顔を覗くと、どうやら彼女も温泉を楽しみにしていたようで、嬉しさが表情だけでわかる。


 旅館の中に入ると、建物のつくりはこれまた元居た世界の日本に古くからあるような家と同じように全て木材で作られていて、とても趣がある。

 旅館の中をしばらく進んだところにある部屋に入ると、そこには見たことのある顔があった。


「陛下、長旅お疲れ様です、お待ちしておりました」

「お待たせヴィアラ、それにみんなも」


 そこには浴衣姿のヴィアラやエレザ、ミレイユがいた。

 実はこの3人は下見の為、ゆざわ屋に俺達より1日早く来ていたのだ。


 俺が部屋に入るとヴィアラは正座したままで向かえてくれ、一方エレザとミレイユに関しては心配そうな顔をしてこちらに歩み寄って来た。


「遅かったなワタ、何かあったのか?」


「いや、途中で山賊に襲われてしまってね」


「そうか、そいつは不運だったな、予定より遅いから心配したぞ」


「……、死なれたら困る」


「心配してくれてありがとう。そういえば4人はもう温泉には入ったのかい?」


「いいえ、陛下がいらっしゃるまで入らずに待っておりましたよ」


「そうか、待たせて悪かったね、じゃあ早速入ろうか?」


「「「「おおっ!」」」


 俺のその一声によって、皆で一斉に温泉へと向かう。

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