273.この国の闇の一端

 

 楽しく町を見終わり、その後は何事もなくゆったりとメリアと過ごし、夜を迎えていた。


 そしてメリアが寝静まったことを確認した俺は、こっそりと部屋を出て夜の町へと向かった。

 何故そんなことをしてまで、町に出かけようと思ったのか、それは単に夜の町(R18)に行きたかったからというのではなく(実は少しそんな気持ちもあったが)、どうしても気になっていたことがあったからだ。


 それは昼に町を歩いていた時、とある街角に女性が紐でつながれていたのをちらと見かけたからだ。

 その女性は売られている場所から恐らく奴隷として売られているのではないかと俺は考えた。

 しかし、調査ならメランオピス隊を本来使うべきなのだが、どうしてもその女性が気になってしまい、危険も承知の上誰にも言わずに一人で出て来た。


 もちろん、正体がばれないように頭から腰までを覆うボロ布で身を隠し、中にはさっき町に出たときと同じように防弾防刃チョッキを着こみ、武器は腰にVP9、ワンポイントスリングで吊ったMCXを隠し持っている。

 (まぁ、下心がないといえばうそになるけど……)


 城から誰にもばれずにこそこそと出て来た俺は、その場所までまっすぐ来ていた。その周辺はよく見れば花魁たちがいる大和遊郭(風俗街)の入口に位置していて、昼間ではわからなかったが、今では夜で位ことも手伝って非常に明るく華やかなところだ。


 しかし、昼間と違って店は暗く店先にはその女性がいない。

 よく見ればその店の地下から光が漏れてきている。

 俺は地下にその女性がいるのではないかと思い、意を決して降りることにした。


 地下に降りるとそこには夜であるというのに、多くの男たちでにぎわっていた。

 どうやらここで買った奴隷をそのまま遊郭に連れていき、あんなことやそんなことをすることが出来るようで、しかもこの奴隷を買った方が安く済むということもあってかなりの人気を誇っているようだ。

 そして今ちょうど俺が気になっていた、女奴隷が競りにかけられている。


 彼女はどうやら異国から連れてこられたようで、それを目玉として高い値段設定になっていた。


 その女奴隷は昼間でよく見えなかったが、今よく見ると、この国にはいるはずのないエルフ族だった。

 彼女はその特徴的な長い耳と絹のような白い肌そして金髪の長い髪そして大きく育った大きな胸と、男にとっては最高のプロポーションを誇っている。

 檻の中に入れられ足枷と手枷を付けられた彼女は、絶望と恐怖に打ちひしがれ、目はうつろでずっと夜空を見つめていた。


「さぁさぁ、今夜の目玉!異国から連れて来たエルフ女だよ~!さらに処女ときた!こんな上物はめったに入らないよ~!さぁ!まずは500両から!」


 そのエルフの女奴隷が入った檻の前に立った、いかにも下卑た目をした小太りの男が彼女の競りを始めた。


「510!」

「550!」

「600!」

「1000!」


 競りが開始されるとその場にいた、ある程度お金の余裕のありそうな武士や商人の男たちが競い合うように値段を言っていく。


「いや、2000!」

「2000両!誰か、他にいるかなぁ?」

「2010!」

「おっ!出ました!他には~」

「2500!」


 欲しいというよりも彼女を救ってあげたいという気持ちが強くなってきた俺はついに声を上げ、一気に金額を跳ね上げた。


「2600!」


 これならだれも出さないと甘い考えでいた俺だったが、そんな俺の言い値以上の金額をいえるやつがまだいた。


 声のする方向を見ると、そこにはかなり太った商人の身なりをした男がいた。

 その男の周りには首に鎖のようなものを付けられ半裸女性を数名侍らせている。

 恐らく彼女たちはここで同じように買われていったのであろう。


「2650!」

「2670!」

「2700!」

「ぐぬぬ、2800!」

「3200!」

「……」

「3200!これで決まりですか?いなかったらそこのボロ雑巾をかぶってる兄ちゃんがお買い上げで~す!」

「……(クソッ!)」


 俺が言った後誰も声を上げる人間がいなくなった、さすがにここまでの値段となると裕福な人たちとて簡単には手は出せないだろう。

 自分たちには買えないと悟った人たちはどんどんこの場から去っていく。


「誰もいませんね!では競りはこれにて終了!」

「……、貴様!それを俺に買わせると約束しただろ!」


 これで彼女を開放できると思った矢先、最後まで競りに参加していた太った商人が奴隷商に向けて怒りをぶつけていた。

 恐らく奴隷商と商人との間に密約があったようで、それがしっかり果たされなかったことに怒りを感じているようだ。


「何のことでしょう?おたくもご存じの通りこちらも商売なんで、高い金額で売れた方がいいでしょう?」


「貴様!この間の話を忘れたか!」


「……、おい」


「おい!何をする!離せ!」


 一向に怒りの収まらない様子の商人に、流石の奴隷商も困り果て、裏で待機していた用心棒を呼んでいた。

 呼ばれた用心棒たちはじたばたと暴れる商人の両手両足をつかみ裏へと引きずっていった。

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