215.登山?
「「「こんにちは!」」」
お店に入ると店員さんが、こちらに“挨拶”をしてくれた。
カフェの雰囲気は某シアトル発のカフェチェーンと瓜二つだ。
とりあえず俺は、シングルオリジンの豆を使ったドリップコーヒーを頼むことにした。
シングルオリジンというのは簡単に説明すると農場や生産者、品種、精製方法がなどの単位で一つの銘柄にしたもののことで、よく耳にするブレンドコーヒーとは違い、コーヒー豆そのものの良さを味わえる特徴がある。
反対にブレンドコーヒーは簡単に言うと、二つ以上の産地や種類のコーヒー豆を合わせたもので、こちらはバランスの取れた味わいも楽しめることが特徴でもある(本当はもっと細かく話したいがここでは割愛する)。
そして彼女たちは、カフェラテやロイヤルミルクティー等を頼んでいた。
俺は一足先に窓側の席に座り一息ついていた。
「お隣いいですか?」
声を掛けてきたのはレナだった。
「いいよ、おいで」
「ありがとうございます!」
「こういうところに来るのも久々だな?」
「そうですね!前世では学校の帰りによく友達と行ってましたよ!」
そのあと俺とレナは、しばらくの間元居た世界での話に夢中になっていた。
その間、うらやましそう(一部うらめしそうな)に見てくる目があったようだ。
そうこうしているうちにあっという間に昼を過ぎてしまっていたようだ。
しかし一向に迎えがやってくる気配が感じられない。
「ローザ、悪い、この近くに駐屯地があるよな?」
「えっと、そうね、確かにあるけど……なんで?」
「そこから、馬車をとってきてくれ」
「え?で……」
「流石に待ってられない、君だったら顔がきくだろう?頼むよ……」
「……ワタがそこまで言うなら分かったわ、行ってくる」
今日は待っても来ないと判断したワタは、ローザに頼んで駅のすぐ近くにある駐屯地から馬車やら警護兵を連れてきてもらうように頼んでいた。
ここでずっと待っていたっても何も始まらないし、王国で待たせてしまっている客人がいるから、この行程を遅らせるわけにはいかないからだ。
なので、ローザに馬車を用意してもらい、こちらから向かうことにした。
ローザが店を出てから10分後。
外には200人を超える騎馬隊とその中心には馬車が何台も連なっていた。
「お待たせ!ワタ!連れて来たよ~」
「いま行く!みんなも行くぞ!」
「「「はい!」」」
こうして俺たちはローザによって急遽用意してもらった馬車で、ベレカ城に移動することにした。
馬車に揺られながら町の景色を見ると、白のレンガで作られた建物が立ち並び、歩いている人々は俺の目には輝いて見えた、そしてそこには穏やかな時間が流れていたように感じられた。
こう感じてしまうのは、今、自分が戦争という人が人を殺しあう状況下日々置かれているからなのかもしれない。
それほど自分の心は気づかぬ間にすさんでいるからなのだろう。
自分が日を追うごとにここに来る前の自分ではなくなってしまいそうで怖い。
「ワタ?どうしたの?そんなに怖い顔して……」
隣に座っていたメリアは、俺の曇った表情をしていることに気付き、俺に寄り添うようにしてきた。
「いや、なんでもないよ?そんなに怖い顔してる?」
「うん、いつもと違うよ?……何かあったら何でも相談乗るからね?」
「ありがとう、メリア……」
馬車は自動車と違って、サスペンション(衝撃を和らげてくれるばねのこと)がないので、舗装されていない道路の凹凸に車輪がぶつかり、衝撃がダイレクトに伝わってくる。
乗車してからそう経たないうちに、俺のお尻は限界を迎えようとしていた。
苦痛に顔を歪め始めたころ、ようやくベレカ城に到着。
駅から城まで馬車でだいたい15分ぐらいかかった。
城門で警備していた兵は急に来た車列に驚いていたが、向かってくる兵を良く見ると自分たちと同じエンペリアの兵だったのが、状況の理解が出来ずにフリーズしていた。
どうやら警備の兵達は、俺たちが来ることを知らされていなかったようだ。
何でも警備兵に確認に行ってくれた兵曰く、コンダート王国王家御一行が来城するのは明日だと聞いていたようだ。
俺はそれを聞いて流石に情報の管理が杜撰ではないかと考えたが、すぐに考えを改めた。
よく考えれば、今までであればコンダート王国からエンペリア王国まで、早くても2ケ月はゆうにかかっていたのだから当然のことだろう。
念のため鉄道を使ってくると伝えてあったのだが、エンペリア側は鉄道であっても2日半ぐらいはかかるだろうと思っていたようで。
一日もかからずに来るのはさすがに想定外だったのだ。
それもそのはずで、エンペリア王国側が知っているのは蒸気機関車だけなので、それを基準に考えるとその想定は間違いではないだろう。
一先ずここにいてもしょうがないので、早速お城に入ることにした。
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