190.東部戦線終息へ


 カルロゼでの戦闘は、結果的に近衛第三師団による空挺降下作戦が功を奏しこれにより一気に敵部隊を一掃することができた。

 帝国軍に一時的にとらえられていた住民は陸軍特殊部隊第一師団によって全員無事に保護された。

 今回の戦闘で帝国側は空中戦での死者行方不明者を含めるとおおよそ8万人に上り、捕虜は3千人と壊滅的な被害を受けていた。


 対する王国側の軍人にでた被害は、死者8,147名(内近衛軍所属兵4名)、重軽傷者39名(内近衛軍所属兵12名)、民間人の死傷者563名に上り、懸命に戦ってくれた防衛隊の死者が圧倒的に多かった。

 ここまで死者数が増えた一番の原因は帝国最新兵器の魔術式マスケット銃で、これを知らない守備隊はいつものように白兵戦を仕掛けようとしたところ、まんまと銃によって撃たれてしまったからだ。

 そして、この情報を事前に得ていたカルロゼ救援部隊は全員に防弾チョッキと抗弾ヘルメットを支給していたので、撃たれたもののそのほとんどが防弾チョッキに守られている胴体に当たったため大きな被害にはならなかったが、それに守られてなかった部分に当たってしまった兵は残念ながら亡くなってしまった。


 この時出た捕虜から得た情報をもとに今回の帝国側の作戦を簡単に説明すると。


 レヴァイスから南東に位置するシャルレッテンの町に帝国陸軍中部方面軍第3軍団と第21軍団の歩兵約5万を集結させ、これを空軍の飛空艇部隊によって前線に直接ピストン輸送。

 ウルス城の陸軍が動くのを待たず、単独で王国軍に攻撃を仕掛けることになっている。


 これには以前から秘密裏に計画・準備していた“カルロゼ侵攻作戦”を実行する。この作戦は王国領のカルロゼから10㎞の位置にあるヤーニヒベルグ基地にハルト・ジェスタ陸軍少将率いる南部方面軍第25軍団第2師団の約2万と陸軍魔術化軍団第128大隊の計2万2千を主力とする部隊を集結させているので、これをヤーニヒベルグとカルロゼの間のメリアル山脈のアザゼン山(9750m)を登っていくのではなく、今回同行している陸軍魔術化軍団第128大隊に土属性魔法で“トンネル”を掘らせ(最短距離で掘った場合でも2㎞弱)、これで強引に山を突破し敵の不意を突き一挙にカルロゼを占拠してしまおうというものだ。


 この作戦がうまくいけば、再び帝国が王国北部地域を攻めるための足掛かりにもなれば、ウルス城で籠城している部隊に対して援軍や物資補給を簡単に行うことができるということだった。

 しかし、本作戦の肝であったトンネル掘削が予想以上に時間がかかったことによる遅れや王国軍による予想外の攻撃(空挺降下と全航空部隊による迎撃)、ウルス城が陥落したことによりそこに充てていた王国兵がこちらに向かってきたことなど、帝国側のもくろみが完全に崩れ、最悪なことに作戦に参加したほとんどすべての兵が王国軍によって撃破されるに至った。


 本作戦で最新兵器の魔術式マスケット銃を投入したことにより、今まで一方的にやられるようなことはないかと考えられていたが、実際運用してみると貫通力不足や命中率の悪さ・経験の少なさ等々、悪い部分が目立ってしまっていた。

 これを知った王国側は、すぐにこれに対する対抗策として上述した防弾チョッキ等の支給や衛生兵の増員などによってかなり被害を防ぐことができたし、こちらはすでに命中率・速射性・貫通力と比べ物にならないほどの高性能の銃を持っているので戦い方ひとつ変えるだけで十二分に対応できる。


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