187.カルロゼ防衛作戦2


 それから数十分後、おそらくエンザの言葉に怒りを覚えたであろう敵の司令官らしき人物が何やら大声で 罵声を上げたかと思えば、表と裏の兵が同時に進軍を始めた。

 そのまま門や石垣付近に到達した帝国軍はまず初めに爆発系魔術を使って石垣と門を壊し始めた。

 それに対して、防衛側は成す術もなくただただ門や石垣が壊れていくのを眺めているしかなかった。

 石垣と門がある程度壊れたのが確認された後、次々に騎兵隊や最新兵器の魔術式マスケット銃を装備した歩兵が町になだれ込んでいった。

 敵のマスケット銃の威力はそこそこだが、恐ろしいことに火薬を使って弾を発射させないので弾が発射されてもほぼ無音に近いので、これに撃たれた人間は何をされたかもわからないまま激痛を味わうことになる。


 この攻撃に対して防衛側は地の利を生かして、敵を路地に誘い込んだり、屋根の上から矢を放つなどゲリラ戦法を駆使して賢明に抵抗し多くの死者を出しながらもギリギリ持ちこたえていた。

 とはいえ、エンザ隊長の率いる兵は1000人を少し超える程度しか残っていないため、さらに激しくなってきた敵の攻撃に耐えられなくなってきた。


「隊長!大聖堂まで引いて兵を集結させて防衛線を厚くしましょう!」

「そうだな……クソッ!援軍はまだか!!」


 じりじりと帝国兵に追い詰められたエンザたちは、ついに耐え切れず最終防衛ラインである住民が避難している町の大聖堂の周辺まで後退した。

 引いてきた兵を見て住民たちの最期を悟ったのか、そこにいるほとんどの住民が各々武器を持ち戦闘に参加し始めた。

 防衛線を厚くしたことと兵を集結したこと、それに加えて住民が参戦してくれたことによって体制を整えることができた。

 それでもなおも帝国の攻撃の勢いが止まることはなかった。


  戦闘開始から数時間、これまでは防戦一方だったカルロゼ防衛隊だが、ある時を境に帝国の攻撃が急激に弱まるどころか何やら帝国兵の落ち着きがなくなってきていた。


 

 キャリキャリキャリ!


 ドドドドドドドドドッ!

 タタタタタッ!

 ドン!


「な、なんだ?新手か?騒がしいぞ?」

「わかりません!またもや帝国の新兵器でしょうか?」

「いや、そうでもないみたいだぞ!援軍だ!!」


  この音の正体は、ベルが率いる近衛軍団第四師団隷下第41装甲化歩兵連隊と第42装甲化歩兵連隊のM2ブラッドレー歩兵戦闘車と89式装甲戦闘車隊の機関砲の一斉射撃の音と、歩兵が降車して戦闘を始めた音だった。


 ダダダダダダッ!

 タタタタタッ!

 パンッ!パパパパッ!


  機関砲やライフルから放たれる大量の弾丸が帝国兵を次々に襲い、撃たれた兵は見るも無残な姿に変わり果てていった。


  そんな中味方が次々にやられているところを見ていられず、建物の影や弾丸の貫通しない遮蔽物に隠れていた帝国兵たちは魔術式マスケット銃を使えばあの黒い武器を持っている敵にも対抗できると思い、狙いを定め撃っていた。


(パシュ!)

(パシュ!)

(パシュ!)


  音をほぼ立てずに飛んで行った鉛玉は、見事に第41装甲化歩兵連隊所属兵の胴体に当たり後ろに倒れた。

  さらに飛んできた鉛玉は、王国兵の頭に当たっていた。


「大丈夫か!?衛生兵!!衛生兵!!」

「味方が撃たれたぞ!衛生兵はどこだ?」

「おい!しっかりしろ!」


 頭撃たれ倒れこむ王国兵だったが、当たった場所が運よくヘルメットだった為、貫通せず衝撃による軽い脳震盪を起こしただけだった。


「だ、大丈夫だ……」

「待ってろ、今助けてやるからな!」


 しばらくすると、衛生兵が担架をもって走ってきた。


「どこを撃たれた?今運んでやるからもう少し辛抱しろよ!」


  走ってきた衛生兵はもうすでにどこかで他の兵を救助したのか手や腕には血が付着していた。


「おい!衛生兵!こっちもだ!」

「了解!今他のを向かわせる!」


  他の場所でもけが人が続出し始め、まさにそこは戦場になっていた。


  第41装甲化歩兵連隊と第42装甲化歩兵連隊の兵達にも被害が出始めていたが、負傷した兵が出ても衛生兵が応急処置を施し後方へ搬送し、すぐに師団隷下の野戦病院で現代医療によって処置が行われるので、混乱することもなく戦闘に専念できていた。


  包囲された防衛隊を救おうと必死でこちら側に向かってきてくれている味方の雄姿を見て、エンザや防衛隊、そして住民たちは勇気が湧き、雄叫びを上げながら突撃を始めた。


「見ろ!あれが我々を救いにきた兵たちの雄姿だ!皆も続け!!!」

「「「おおおおっっ!!」」」




「撃ち方止め!!着剣用意!」

「着剣!!」

「突撃にぃぃ、前へ!!」

「突撃!!」


  一番前線にいた第41装甲化歩兵連隊は味方を誤射しないようにと着剣して白兵戦に移った。

 防衛側の逆襲によって、今までこちらに猛威を振るってきた帝国側はついに崩壊し数分後には殲滅された。



  これに続いて、トラックによって運ばれてきた師団隷下第401歩兵連隊は到着後、帝国軍本隊に向けて縦列を組み一斉に進撃を開始。


  帝国軍本隊はこちらに勝機がないとみると反転、裏側にいる味方と合流を図ろうとし始めた。

 本来であれば、これを空挺部隊が攻撃するのであるが、どういうことか到着が遅れていた。

  それをこちらがただ黙ってみているわけもなく、機転を利かせた第401歩兵連隊連隊長は上空警戒中の第3航空団に爆撃を要請した。

 しかし、第3航空団はそれにこたえてくれなかった。


  なぜなら上空でも帝国との戦いが行われているからだった。


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