162.事故


 アルデバラン19は被弾したが、A-10の非常に頑丈な構造と操作系のおかげで左翼先端がちぎれても何とか飛行していた。

 緊急性を重く見た飛行隊長はすぐさま基地への緊急着陸を指示した。


「アルデバランリーダー、ビックイーグル、アルデバラン19が被弾した!緊急着陸のためにセレンデンス基地に向かわせる」

「了解」


 事故の一報を指揮所で受けた俺とメリアやそこにいた全員に衝撃が走る、そして指揮所内の要員たちは慌てて事故対応のために各署に連絡や調節をし始めた。


 事故機着陸要請の入ったセレンデンス空軍基地側はすぐさま全滑走路を封鎖し着陸予定だった機体はすべて燃料がある限り上空待機とした。同時に地上では基地内に簡易的ではあるが設置していた自衛消防隊(召喚や調節が進んでいないのでポンプ車が一台のみ)を向かわせ、受け入れ態勢を整えていった。


「ビックイーグル、アルデバラン19、聞こえるか?」

「アルデバラン19、ビックイーグル、ああ、聞こえる、俺はもう帰れないかもしれない……」

「大丈夫だしっかりしろ!もう基地では多くの味方が待ってくれているんだ、気を保て!」

「ああ、でもよぉ、怖いよ、」

「アルタイルリーダー、アルデバラン19、大丈夫だ!君を空港にたどり着くときまでずっと隣にいてやるから」

「ありがとう……」


 アルデバラン19の隣には演習中早期管制機の護衛任務についていた第一航空団所属機4機が寄り添うようにして飛んでいた。


 事故発生から10分後、アルデバラン19は基地上空までたどり着いていた。

 途中左側のエンジンが停止し機体がさらに安定しない状況まで陥り急減速し失速手前まで言ってしまったが、降下姿勢をとりしばらくすると何とか機体の姿勢をたてなおすことができた。

 その後姿勢をそのままをキープし続けることができたので無事着陸ができた、

 こうやって、着陸できたのはA-10の頑丈さももちろんあるだろうが周りの対応の早さもあるだろう。

 着陸の瞬間地上で待ち受けていた隊員や管制塔で見守っていた管制官が沸き立った――――。


 事故原因となったアルデバラン20のパイロットは着陸後すぐに同じ飛行隊の隊員に連れられ、基地警務隊に引き渡されそのまま拘置所に連行されていった。


 そして事件後、アルデバラン20のパイロットを裁く為、軍法会議が開かれた。

 この事件は単なる事故であり故意ではなかったとし、さらにアルデバラン19のパイロットも怪我もなく無事に着陸できたので処分を軽くしてほしいと庇ったため、減俸処分で済むと思われていた。

 しかし、軍法会議の結果はアルデバラン20パイロットに対して不名誉除隊の上多額の賠償請求という非常に重いものとなってしまった。


 この処分を決めたクレイシー空軍総司令官は本件について乗員の怪我は無かったが、機体は激しく損傷してしまっていることが許せないようで、クレイシー曰く「陛下から賜ったものを故意ではないとしても壊してしまうのは、陛下に対する“侮辱”に近い、よって、本来であれば“死刑”にしたいぐらいだが、不名誉除隊で勘弁してやる」と相当お怒りのようだ。


 それを聞いた俺はさすがに処分が重すぎるし、せっかく訓練した貴重な兵がいなくなってしまうのはよくないと考えて、クレイシーに処分を軽くしてもらうことにした。

 そもそもこの事故の大元の原因は俺にあって、俺が空軍の配備を急ぎすぎたせいで訓練の時間をあまりとれなかったのが大きく、さらに運用方法も確立していない中でここまで事を進めてしまったと思ったので処分を一旦取り消し、減俸処分に変更するように“お願い”をした。

 それを聞いたクレイシーは「陛下のご命令とあらばと」なぜか思った以上に素直に聞いてくれた。


 こうして一時はどうなるかと思われた演習であったが、事故機が無事着陸ということで一旦は幕を閉じた。




 一方、地上に残っていたアルファ大隊は地上に設置していた標的への効果判定を行っていた。

 最初の爆撃地点だったところは爆撃の強烈さを物語るかのような状態で、その多くは隕石が衝突したのかと思うほどクレーターができていて、設置していた人型標的は皆全て跡形もなく消え去っていた、さらに評価試験用に地下5mの場所設置した地下シェルターも原型をとどめていなかった。

 次に近接支援射撃が行われたところは、ここもすべて人型標的はすべてハチの巣になっているか木っ端みじんにされているかで、その一部に竜騎兵が乗っている竜のうろこを貼り付け防弾性を検証したところこれも見事に貫通し破壊されていた。


 これを見た誰もがどんな敵にも勝てる、そう確信していた。



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