94.男のロマン!

 

 ヴィアラに案内され、司令部から歩いてすぐの艦艇が係留してある地区に来ていた。


 そこには激しい戦闘だったのか、ボロボロになった数隻の船がまるで弱り切った子犬のように、身を寄せ合うように泊まっていた。しかしその船に乗っている海兵たちは、俺の方を見て目を輝かせて手を振ってきてくれている。


 そうしてくれているのは、最近の陸軍でハミルトン城救援作戦や女王・王女誘拐事件を召喚された兵器によって作戦を成功させている事を聞いているうえに、今回海軍にも軍艦が召喚されると聞き、軍艦を召喚しにきた俺が来たことによって今までは絶望的な未来しかなかった海兵たちが、希望の光ともいえる存在が現れたと感じ、安堵し喜んでいるのだろう。また、召喚されるものに対する好奇心からもくる行動であろう。


 ヴィアラはそんなことも気にせず、そのさらに進んだ先にある船が縦に連ならせてでも入港できるように用意された、3㎞はあろうかと思われる長大な埠頭に歩みを進めていた。


 なぜ、こんなにも長い埠頭があるのかといえば、以前までここには100隻を超える艦艇が使っていた巨大港だったからである。しかし、今やここに残っている船は両手で数えられるほどまでに減ってしまっているので、もはやこの長さの埠頭は無用の長物となってしまっている。


 その埠頭の長さに少し驚いていた俺だが、埠頭の入り口付近に着くとそこには先ほどまで一緒に執務室にいたはずのミサ中将と、その隣にはヴィアラを少しだけ小さくしただけでそれ以外そっくりの女性がいた、そしてその後ろには全員が女性の海兵たちが整列していた。


 このミサ中将の隣にいるのは、キーレ港所属の第一戦隊司令ガンダルシア・エミリア大佐で、ヴィアラの3つ下の妹だそうだ。エミリアは姉と同じように海軍士官学校へと入ったが、姉のように頭がいいわけでもなく普通に卒業し、新任士官から叩き上げで上がってきた一般的な海軍士官だ、しかし、姉が出来すぎているおかげで、期待されすぎた妹のエミリアはできそこないのレッテルを貼られ、屈辱的な学校生活を送り一時期姉に対して猛烈な嫌悪感を覚えていたようだ。


 姉が卒業するまでの支援や本来であれば遠い配属先になるところを自分の目の届くキーレ港に配属させるようにしてもらったのがわかると徐々に改心し、姉に対して純粋な気持ちで従うようになったようだ。


 エミリアの容姿は姉であるヴィアラに似て、薄い水色の髪は肩までまっすぐ伸ばしていて二つ編みのハーフアップにされている、身長は姉より頭一つ分低く、胸は控えめな大きさだ。


 そんなエミリア大佐の後ろに並ぶ海兵は、現在エミリアの直率で最終決戦の為に集結させた総勢6000名もの精鋭たちだ。


 先ほどの海兵たちは男のみであったが、今目の前にいる精鋭と呼ばれる兵はすべてが女性によって構成されていた、これも先の帝国との戦いによって男性の多くが亡くなっていってしまったのが大きな要因だろう、男性不足は陸軍どころかここも例外ではなかったようだ。

 しかし、海軍では以前よりこの人員不足対策として女性兵の積極採用がなされていたので、陸軍より多くの幹部や兵たちが女性によって占められているおかげか人員不足状態は幾分かましなようだ。


 ヴィアラは久々に妹の顔をみてうれしいのか、凛々しく見える顔が少しほころんでいるように見える。

 俺達が近くに来ると、ミサ中将やエミリア大佐達は素早く敬礼し出迎えてくれた。


「陛下!閣下!招集が完了しました。ご指示を!」

「ご苦労、エミリアしばらくだな、元気にしていたか?」


「ハッ、おかげさまで元気にやっております!」

「ハハッ、エミリア大佐硬いぞ」

「中将お戯れを」


 エミリア自身久々に見た姉の顔をみて内心すごく嬉しいのだが、実際のところ身分が邪魔をして素直に言葉を返せない。

 それを知ってか知らずかエミリアをミサ中将は半笑いでいじっていた。


「まぁ良い、陛下、この兵たちが今回の召喚によって訓練を受け、初の実戦をする部隊になります。そしてこの埠頭であれば陛下の召喚なさる軍艦も辛うじてでしょうが収まるのではないのでしょうか」


「埠頭の長さは問題ないだろう、しかしよくこんな急に人を集められたもんだ……それは兎も角、帝国が攻撃を仕掛けてくるまで時間の猶予もないようだから、すぐにでも召喚してしまおうか」


 召喚するためLiSMを起動し、大和型戦艦の項目をタッチする。


 俺は表向きでは急いで訓練してもらいたいという理由で召喚しているのだが、実際のところ早く実物の戦艦大和が見たくてしょうがない。


(だって男のロマンですものねぇ?)


 タッチするとすぐに埠頭の両脇に淡い光とともに、今や旧帝国海軍の象徴で、世界最大最強の“戦艦大和”と“戦艦武蔵”が目の前にその姿を現した。

 この召喚を見たヴィアラやミサ中将、エミリア大佐もその兵たちも皆一様に驚き、同時に興味津々であるようだ。


 その時、俺もみんなと同じように船の大きさに驚いていたが、そんなことより今自分の目の前にあの大和だけではなく武蔵まで召喚できたため、興奮しまくりである。


 しばらく皆は大和と武蔵を眺めていたが、エミリアが動き出したのを境に我に返った。


「気を付け!これより陛下より賜ったこの軍艦に乗艦し訓練を開始する!皆心して掛かれ!敬礼!!」

「「「「了解!」」」」

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