38.帝国軍の襲来



 ハミルトンからさらに北、王国と帝国との国境付近、帝国軍本隊が陣を張っていた。

 その中心に位置するテントの中にとある二人の女性がいた。


「敵の状況は?」


「はっ!斥候によりますと敵約1万は城に立て籠もり徹底抗戦の構えをとっています」


「ふっ、いい気味だ!このままここをつぶし、首都への侵攻を開始しようか……なぁ、リレイよ」


「御意」


「頼むぞ、リレイ、貴様の昇進もかかっているからな……、そうだ、ここを攻め落とした暁にはこの城を貴様にくれてやろう、どうだ?良い案だろう?」


「ありがたきお言葉」

「失礼します!」


 すると、伝令が一人走りこんできた、彼は返り血を浴びたのかどこかを怪我しているのか、全身が血まみれになっている。


「何事だ!」


「はっ!恐れながら申し上げます!先ほど敵の首都から北部への増援とみられる軍勢を発見いたしました!おそらく本隊は2日後には到着するとみられます!」


「貴様のほかの斥候隊はどうした!」


「それが残念なことに、突然音がしたかと思うと皆体から血を出しながら倒れてしまい、私以外全滅してしまいました」


「まぁ、良い、ほかには何かあるか?」


「敵の司令官は恐らく、リメリア中将かと思われます」


「ご苦労、再度斥候隊を編成し偵察に当れ」


伝令は深く礼をした後早々とテントから出ていく。


「リレイよ、どうやら王国側に不思議な能力を持つものがいるらしい……見つけ次第そいつを生け捕りにして来い、そうすれば我が帝国も安泰だ」


「何故そのようなものが存在するのでしょうか?」

「いずれ解る」


 リレイも伝令と同じく礼をして、その場を離れていく。





 場所は戻ってハミルトン城、現在籠城に向けて兵士たちは城門前や城下町のいたるところに塹壕や柵を設置して陣地を構築中である、また兵士数を少しでも補うため住民から募集もしている。

 城の執務室ではエレシアはノアとともに食料に頭を悩ませていた。


「こうも膠着状態が続いて王都からの補給が少なくなると食料が持たんかもなぁ」


「こっちも裏ルートを使って何とか食料を調達しようと試みてはいるんだけどなかなかうまくいかなくて……」


「このご時世だ、皆生きていくのに精一杯なのさ、それでもまだ貯蔵庫には食料が残っているから当面はしのげるしな」


「ところでシア姉、今回の援軍誰が指揮してるの?」


「おそらく、リメリアの奴だろう他の指揮官は出払っているしな、力量的に彼女しかいないだろう、メリアのこともあるし、それに…」


ドドドドッ


 遠くの方から馬蹄の音が聞こえてくる


「敵襲!城門を閉じろー!」


 下の方からは城への敵襲に備えて、現場で指揮を執っていた防衛隊長の声が聞こえる。


「義勇兵を非常呼集!全員武器をとれ!」

「弓兵は射撃準備急げ!」


 各部署からの指示が飛び交い、城は緊迫した空気に包まれる。


「ついに攻めて来ましたね」


「何とか援軍が間に合えばよいのだがな、それまで本当に持ちこたえられるか解らないな」


「最期まで我々は姉さまについていきます、ですから最後の最後まで待ってみましょう」


 敵は1時間もしないうちに城の目の前に到達し、陣形を整えるような行動をとったと思いきやすぐに門前まで行軍を再び開始し始めた。


 城からは敵が矢の射程圏内に入るとすぐに矢を飛ばし始めた、この攻撃である程度の帝国兵たちは斃れたり傷ついたりしていくが、進撃の勢いは止まらない

帝国兵は城の塹壕まで到着し、敵の弓兵たちは射撃を始め、ある帝国兵たちは破城槌を使おうと城門までゆっくり進んでゆく。


 時間がたつにつれ、最初こそ有利だった王国の弓兵たちは戦線離脱をし始め、城壁からの攻撃が少なくなると、本格的に城門が壊され始めてきた。


「あと、もう少しだてめぇら!後で中のものはお前らの好きにさせてやる!」


「おおおっ!」


 帝国兵は目の前の餌を目当てに一目散に城門へと集まってゆく。

 その力に押されたのかついに城門が壊され城門で白兵戦が展開される。


 数に劣る守備兵や、寄せ集めの義勇兵では、数の多い帝国兵に徐々に徐々に押され始め、すぐに守備兵たちは後退を始める。


「撤退!城に逃げ込め!ここは俺が時間を稼ぐ、早く行け!」


「小隊長一人おいていけません、ここは私も残ります!」


「うるさい!お前は家族がいるだろ!早く行け!俺はもう愛する人は誰もいないんだ!」


「そ、そんな、隊ちょ…」


ドドドドドドッ


 何処からともなく耳をつんざくような音が聞こえたと思うと、目の前にいた帝国兵たちが次々に倒れていった。


 あるものは腕が飛び、あるものは肩から上がなくなり、またあるものは足が吹っ飛ばされ、さっきまで猛威を振るっていた兵たちは一瞬にして混乱に陥った。


 音がやむと、そこは“地獄”だった。

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