37.ハミルトン城

 

 今窮地に立たされているハミルトン城は、首都ガンダートより北方に位置し、古来より王国を守るための“壁”となってきた城である、そして今は帝国との最前線に位置する。


 このハミルトン城は町を丸ごと城壁で囲む城塞都市で、領内の住民約3分の1が住んでいる。この城壁内には大きな練兵場や大きな食料貯蔵庫や国内の者が一挙に集まる巨大市場などもあり、王都に引けを取らないほどの規模を誇る。



 今このハミルトン地方一帯を治めているのは、陸軍大臣でもあるハミルトン・エレシアだ。


 彼女の家は王国建国以来、長らく国王に仕えてきた公爵家で、王国貴族四天王に名を連ねている。領土も他の貴族領よりもはるかに広く、予算も規模も巨大な貴族である。しかしそれには理由があり、このハミルトン領の多くを帝国の国境と接しており、常に帝国の侵攻に警戒しなくてはならない土地でもあるので、王都からの支援がなくても単独で対抗できるよう特別に現地王国駐屯軍の緊急指令権、私設軍の保有権、防衛施設建設権など、本来であれば国王に許可をもらってではないと行使できない権利を行使できる立場にあるからだ。


 ただ、今現在このハミルトン領はハミルトン城周辺でさえその権利を行使してでも対処できない状態にまで陥ってしまった。


 何故かというと、当初は帝国が侵攻して来ていても本来の役目を十二分に発揮できていたが、途中で予期せぬ事態になってしまった、それは帝国の“多方面侵攻作戦”である。


 過去何度も帝国の侵攻や挑発があったが“恒例”のようにハミルトン領に対して行うことが多かった、今回もいつも通りの事と思っていたところ、完全に不意を突かれた状態となってしまった。


 今回の帝国が起こした侵攻は、王国が想定していた北部からの侵攻ではなく西部の都市ビルクスから侵攻が始まった。侵攻されても何とか抵抗してはいたが、その最中に今度は東部や南部への侵攻も始まり王都からの支援が分散してしまい効果的な援軍も送れなくなってしまった。


 最初は何処も頑強に抵抗していたが、帝国の数の暴力に耐えきれず、ついには領土内まで侵攻されてしまい各方面を守る四天王も城に籠城せざるを得ない状態になった。そのおかげで比較的余裕のある北部の支援はなくなり、支援が受けられなくなった北部もほかの方面と同じく籠城する事になってしまった。


「くそっ!!我がハミルトン家ももはやここまでか!いっそのこと単身で突撃してひと花咲かせてみようか……」


「お気を確かにエレシア様!たった今王都から援軍がやってきております!」


「到着するまで、ここはもたないかもしれないのだぞ!」


 焦るエレシアを落ち着かせようと必死に声をかけ続けるのは、ハミルトン家に長く仕えてきているガレア家当主で北部方面軍司令を務める、ガレア・アナスタシア。


 彼女の家も建国当時から存在する名門貴族で、北東部の要塞都市ガレアをハミルトン家から管理を委託されている。


 この二人は幼い時から仲が良く、他の貴族から姉妹と間違われるほどだった。

 エレシアは蒼髪の肩まで伸びたセミロングで出るところは程よく出ていて全体的に整った感じである、対するアナスタシアは黒髪のポニーテイルで、胸はエレシアより大きく、服は今にもはちきれんばかりである。


「まぁいい、今の状況は?」


「はっ!今この城にいる総戦力はざっと1万、対する帝国兵は先遣隊だけでも約4万、後ろに控えている本隊も合わせるとしたら、おそらく10万は軽く超えるものかと……」


「援軍はどのぐらい来る予定だ?」

「約3万かと思われます」


「それでは、やっと帝国の先遣隊の兵数と同等になるだけではないか! ディア砦やガレア城の奴らはどうなっている?」


「ガレアには私の部下が守将として残るのみで援軍は厳しいかと……ディア砦はあちらも籠城するのがやっとのようで、それ以上の動きはないかと」


「ギルドは動かせないのか?」


「一応、商人ギルドを通じて現地防衛隊を編成中ではありますが最大でも2千が限界かと思います。冒険者ギルドは王国中心部でのモンスター討伐に向かってしまい手薄になってしまっています」


「ノアでもそれ以上は動けないか、しかもこんな時にモンスター討伐ときた」


 ノアはエレシアの従妹に当たるハミルシア・ノアのことで商人ギルドのハミルトン支部長をしている。


「このままでは、ハミルトン城自体も消滅しかねないな……」


「情報によると、メリア女王陛下は異世界からとある人物を召喚したとのことです。しかも今回援軍として一緒に行動しているようです」


「陛下には悪いがそんな奴が来たってこの状況は変わらないさ」



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