11.救助


 俺の中でこれまで経験してきた最大の戦闘を終え、ちょっとした満足感に浸りながら小一時間その場にとどまっていると、比較的近い場所から剣がぶつかり合う音や悲鳴交じりの声が聞こえてきた。

 新しいマガジンに交換し、興味半分、怖いもの見たさ半分の気持ちでその方向に向かっていく。


 近くまで行くと戦闘音はすでに静まり、代わりに誰かのすすり泣く声がきこえてくるだけになっていた。

 危機感を察した俺はすぐさま背中に回してあったSIG716を構え直しその場まで速足気味に向かって行く。


 木々をかき分け少し開けた場所にたどり着くと、そこには数人の人間が力なく横たわっていた。

 辺りには彼らが流した血によって血の川が出来ていた。

 大量の出血をしていることから、素人の俺から見てもその人たちはもう助からないだろうという事がわかる。

 その人達の近くに剣を構えたまますすり泣く女性がいた。

 


 さらに彼女の視線の先には、深緑色をした小学生ぐらいの大きさをしたナイフやこん棒のようなもので武装した生物が10体ぐらいが囲んでいた。


(これは所謂ゴブリンというやつだな、そして助けを求める女性……助けなくては)


 頭の中では楽観的に考えているが、肌で感じる空気は非常にピリピリとしたものが伝わってくる。


 俺が現れた瞬間、両方とも異形の姿をしたものを見て固まっていたが、すぐさま敵と判断したのかゴブリンたちはギャーギャーと鳥肌の立つような不気味な鳴き声で威嚇してきた。

 どう考えても不利な状況に置かれている俺は、すぐさま近くにいたゴブリンの頭頂部に照準を合わせ迷わず引き金を引いた。


 ダンッ!


 10mも離れていない至近距離であったため撃ったと思ったと同時に弾が着弾し当たった部分が赤いものをまき散らしながら吹き飛ぶ。 

 その状況についてこれていないゴブリンたちをよそに俺は次々に頭を吹き飛ばしてゆく。

 かなり至近距離で撃ったので、泣いていた彼女はその大きな連続する射撃音に驚き、剣を捨て両手で耳を塞ぐ。


 気づいた時には大した抵抗もなくゴブリンは全滅していた。

 動くものが周りにいないことを確認して、耳を塞いだまま固まって動かなくなっている女性に近づく。


 最初は知らない人間が知らないものをもって近づいてきたので警戒していたが、少しでも警戒心を緩めてもらうために俺は彼女の目の前で膝をつきヘルメットを取って、同時に銃を地面に置き敵意がないことを示す。


 すると助けに来てくれたと思ってくれたのか、彼女も少しづつ態度を軟化してくれた。

 よく見ればかなりの美形で鎧をまとっているため体型まではわからないがよくいる美少女といったところだろう。


「大丈夫ですか?怪我はないですか?」

「だ、大丈夫です。あ、あなたは?」

「しがない冒険者ってところです。ちょうどあなたの悲鳴が聞こえたので助けに来ました」

「し、しがない冒険者?こんなにうるさい攻撃は初めて見ましたよ、あなたは一体……。それより、ありがとうございます、でも……」


 彼女は今まで生きて戦っていたはずの戦友たちを一瞥してからまた静まり返ってしまった。

 彼女のことを身を挺して守ってくれた仲間たちとの突然の別れに対してなのか、また泣きはじめてしまった。

 それを見た俺はこういったことに慣れていなかったため一瞬思考が止まってしまい、しばらくの間彼女のことを慰めることも出来ずそのまま見つめていることしかできなかった。


 周辺に倒れている人たちをそのままにしておいては不味いと感じた俺は、一先ずそういった人たちを入れる事が出来る袋を召喚し、その袋に収容していった。

 本当はこの人達を町に送り届けた方がよいのだろうが、それは俺一人だけでは到底不可能なので致し方なくここに置いてゆくことにした。

 全員を収容し終えた俺は一先ず同じ場所に集めて置き、その袋の上にこの後に誰かが通りかかった時用に張り紙を張っておいた。


 (一応LiSMを見ながら書いてみたけどこれでわかってくれるかな……)



 収容し終えた俺は周囲を警戒しつつ彼女の元へと戻る。

 相当なショックを受けたからだろうか、いまだに泣き続けて名前もいまだ知らない彼女に対して何かしてあげられないかと思い、彼女の肩を自然な形で自分に寄せ寄り添うことにした。

 そうしていると少し経つと泣き止んだ。


「……っ、ありがとうございます」


 彼女は俺のほうを向きようやく嗚咽も止まってきたので感謝の言葉を伝えてきたが、まだ目には涙を浮かべ、そしてまたしばらく泣いていた。

 完全に落ち着く様子がなかったので、彼女にはとりあえずこの場を去ることを提案して町へ送ることにした。


 森を脱出しようとしたとき、彼女は腰を抜かしてしまっているのか立ち上がれなくなっていたので、俺は背中に彼女のことを乗せそのまま森を出ることにした。


 背に乗せた彼女とともに森を出てセレデアについたころにはもうすでに日が沈んでいた。

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