第二十話~ビューティフル・シャイン~

「煌めく太陽が、今日も私を輝かせる。ビューティフル・シャイン、ただいま惨状っ。今日も視聴者の人たちにサービス、サービスっ!」


 サクレがそんなたわごとを言いながら、スカートの裾を持って、下着が見えるか見えないかというぎりぎりのラインにたくし上げ、ちらちらと見せつけて来た。


「はしたないからやめろ」


 いったいどういった教育を受けたらこんな破廉恥なことをするのだろうか。

 それに、サクレが手に持っている、すげぇダサい杖? のようなものは何なのだろうか。

 まるで、キッズアニメに登場するキャラが持っていそうだ。

 もしかしたら、サクレが持っている奴はどこぞかのおもちゃ売り場で売っていたものなのかもしれない。


「ほら、ダーリンも一緒に、サービス、サービスっ」


「だから、はしたないからやめろって言ってんだよ。聞いてねぇのかよ」


「やん、ダーリン。怒らないでよ。ちょっとしたごっご遊びじゃない。ダーリンも知ってるでしょ、ビューティフル・シャイン。最近じゃ、ちっちゃい女の子から大きな男の子、または残念なおじさんまで大人気のキッズアニメよ」


「…………しらねぇ」


 俺、そもそもアニメ見ないもん。

 テレビもあまり興味ないしなー。

 俺はどちらかと言うと、漫画とラノベ、あとゲームが好きで、アニメはあまり興味ない。

 たまに、新作アニメの第一話だけ見て、その後すぐに原作を買い、全て読み終わった後に、そういえばアニメがやってたんだっけ、と思い出す。

 そのころになるとアニメを見る気がなくなっていて、そのまま見ないで次の作品を読み漁る傾向があった。

 という訳で、残念ながら俺はアニメをあまり見ていない。古いのは結構見ていたがな。というか、知っている作品をプライムビデオとかで見返すぐらいしかアニメは見ない。


「え、マジ、知らないの。今時みんな知ってるんだよ、っぷ。ダーリンってば、チョー時代に乗り遅れてるんですけどっ。ねぇねぇダーリン、いつの時代の人?」


「てめぇ、言っていいことと悪いことっていうのがあるんだよ」


「あだだだだ、アイアンクローだけはやめて~」


 変におちょくってきたので、イラっとした。当然、俺はサクレにアイアンクローをきめる。

 いつも通り、サクレは頭を押さえて泣き叫んだ。

 言ったらどうなるかわかるんだから、やめろよな。


「うう、でもでも、ビューティフル・シャインを知らないのってとってももったいないよ。だってすごく面白いんだよ」


「今までそんな素振り一度も見せてこなかったのになんで急に」


「さっき、劇場版見て来た。小さな子供たちと一緒にステッキ振り回してきたわ」


 サクレって見た目子供……ぽいけど、せいぜい中学生か高校生には見えるぞ。

 作品タイトル的に、小学校低学年向けのアニメなんだと思っているんだが、小さな子供たちと一緒にステッキを振り回す高校生って……ないわー。


「それがすっごく面白かったんだから。ねぇ、ダーリンもちゃんと見るべきだよ」


「いや、俺が見るもんじゃねぇだろう」


「こんなところにブルーレイディスクがあります」


「用意がいいな、おい。絶対に俺に見せる気だったろう」


「そうともいう。という訳で、一緒に見ましょう。あ、ポップコーン食べる? キャラメルとストロベリーがあるけどどっちがいい?」


「しお味がいい」


「あと飲み物はどうする、コーラとペプシ、どっちがいい?」


「同じじゃねぇか」


「わかったわ、今準備するね」


「ねぇ、俺答えてないよね。一体何を準備するのっ」


 サクレはどこかに走り去っていったかと思いきや、すぐに大きな荷物を抱えて戻ってきた。


「ダーリンお待たせー。はい、トムヤンクン味のポップコーンとルートビア」


「どうしてそうなったっ。聞かれた時にその選択肢なかったよねっ」


「まあいいじゃない。気にしたら負けよ。それに、結構いけるわよ」


 サクレは持ってきたポップコーンを口に含み、ぱりぽりと噛み始めた。そして、ルートビアをグビッと飲む。

 すげぇうまそうな顔をしていたので、俺は思わず唾を飲んだ。

 つられてポップコーンに手を伸ばす。

 口に含み、それをルートビアで流し込んだ。

 コレ、うまいな。


「ほらダーリン、始まるよ」


 サクレに言われるがまま、俺はソファーに誘導され、いつもの60インチに映し出されたアニメを見始める。


『私は姫柊ひめらぎ 御姫おひめ。どこにでもいる小学五年生』


 名前からしてどこにでもいる小学生じゃなかった。御姫って何さ。制作陣、名前を適当にし過ぎじゃねぇ。


『日課の路線に石をしかけるをやっていると、サングラスにマスクをかけた怪しいおじさんに胸を刺されちゃったっ』


 キッズアニメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。

 違う、それキッズにしちゃいけない奴っ。

 制作陣、マジで何してるのっ。


『気が付くと、魔法の国、うきうきマスコットランドにいたの。


「きゃはは、見ない人間がいるなぁ。ここがうきうきマスコットランドだと知ってここにいるんだよな。だったら何されても文句は言えねぇなぁ」


 親切なマスコットさんたちが、私を助けてくれたおかげで知らない場所で平和に暮らすことが出来たの』


 ちょっと待って、セリフと流れている絵が全然違うんですけど。ほのぼのしてないし。何御姫ちゃん、間接技……デンプシーロールだとっ!


『平和な世界に忍び寄る影。マスコットお汚したいが私たちの前に立ちふさがる。


「キャーハー、マスコットは汚物にするに限るぜぇ」


 大変、皆が大ピンチ。私はマスコットの秘宝、キラキララブリーロッドを使って大変身。


「煌めく太陽が、今日も私を輝かせるっ。ビューティフル・シャイン、今日も可憐に見参っ。視聴者の皆さんにサービス、サービス」


 私は戦う力を手に入れた。それを使って、マスコット達を守り抜く』


 物理っ、魔法使ってそうなシーンなのに、敵を物理で倒しているんだけどっ。

 ツッコミどころが多いな、このアニメっ。


『え、マー君? レンコンにからしを詰めて一体何をするつもりなのっ』


 話飛んだよ。さっきまでのバトル的展開はいったい何だったの。あとマー君って誰さ。そしてマー君が作っているのはからしレンコンだよっ。

 ツッコミが追い付かねぇ。


「あー面白かった。ダーリンも面白かったでしょう」


「え、これで終わり」


「うん、そうだけど」


「いやいやいや、なんかバトル始まったかと思えばからしレンコン作ってるし、このアニメが何を目指しているのか全然分からねぇんだけど」


「その分からなさが大人気の秘訣らしいよ」


「誰に訊いたんだよ」


「本人よ、私の隣にいるわ」


 サクレの言っている意味が最初は理解できなかった。

 でも、サクレの隣にいる人物を認識して、初めて言っている意味が分かった。


「煌めく太陽が、今日も私を輝かせる、ビューティフル・シャイン、ここに見参。あなたにだけ、サービスサービスっ」


「スカートを自分でめくるなよっ。慎みを持てっ」


 思わず突っ込んでしまったが、まさかあのバカキャラっぽい、姫柊御姫がここにいるとは思わなかった。


「今回の転生対象なんだけど、アニメのブルーレイもらったし、好きなところに行かせてあげる」


「はいっ! だったらマスコットがいない世界がいい」


 この言葉を聞いて、ああ、マスコットを嫌いになったんだなと、察した。

 あのアニメ見てたら、マスコット怖いと感じてしまうことだろう。


「えっと、あるわよ。一軒だけ。からしレンコンもないけど」


「…………っく」


 御姫ちゃんは、すごく悔しそうな顔をしていた。どんだけからしレンコンが好きなんだよ。


「あのツンッと来るからさがご飯を進めさせてくれる、からしレンコンがない世界があるなんて…………私はいったいどうしたらいい」


 御姫ちゃんは凄く悔しそうな顔をしていた。

 サクレは、なかなか決めてくれない御姫ちゃんにイライラし始める。

 このままでは、サクレのお怒りランダム転生がさく裂してしまう。

 そうなってしまったら……俺がほかの神様のところに行って謝りに行かないといけないじゃんっ。


 俺はそっと、御姫ちゃんに近づいて、耳元でささやいた。


「からしレンコン、作ればいいじゃん」


 俺の言葉に御姫ちゃんはハッとした表情を浮かべる。


「そうだよ、作ればいいんだ。人間不可能はないっ。という訳で女神様、マスコットのいない世界でお願いします」


「本当に、本当にいいの?」


「はいっ、私はマスコットのいない世界でからしレンコンを広めます」


「…………わかったわ」


 サクレがいつもと違う表情をしながら、転生の儀を行った。

 御姫ちゃんは聖なる光に包まれて、消えていった。

 最後の姿は、厄介な者からようやく解放されたような表情だった。

 それにしても、ここってアニメキャラまで来るんだ。本当に何でもありだな。


「あの世界、レンコンないんだけど、本当に作れるのかな」


 サクレが最後に呟いた言葉、俺はそれを聞かなかったことにした。

 多分、それが正しい選択だ。

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