第十一話~爆裂娘に憧れた件~
「エクスプローーーーーーーーーーージョンッ」
サクレが突然叫んだかと思えば、なぜか遠くに立っているサクレの石像が大爆発を起こした。それと同時にサクレの石像はバラバラになり、破片がそこらかしこに飛び散る。
ズシンと来る振動と、肌を撫でる風を感じながら、俺はサクレにジト目を向けた。
サクレは、なんかやり切った表情をしながら、その場に倒れこむ。そして、俺の方に視線を向けた。
「どうっ! 似てた?」
何がだよ……。
だけどツッコミを入れるとめんどくさそうなことになりそうだったので、俺は「似てる似てる」と適当に返事をして、椅子に座って本を読み始めた。
本っていいよね、楽しい時間を過ごせるから。
「ねえ、なんでそんな適当に返すのよ。ダーリン、私はアレに似ていたかしら」
「アレってなんだよ」
「め
自主規制が邪魔でよく分からなかったけど、エクスプロージョンと倒れるという言葉でなんとなく察した。
あいつは、あの有名なライトノベルの頭のおかしい子のものまねをしたと言いたいのだろう。
しかしなぜ、突然すぎないか。
そう思ったが、すぐに原因が分かった。
サクレの足元には、ブルーレイディスクが置いてあったのだ。
こいつ、俺の目を盗んで一人で楽しんで、そしてハマったな。
よく見れば、ブルーレイだけじゃなく、原作、さらには漫画まで置いてあった。
どんだけハマっているんだよ。
「わっはっは、我が最強の爆裂魔法を、シャキーン」
影響されやすい子ってこういうのを言うのだろうか。なんだか自分が恥ずかしくなってくる。
サクレは突然マントを呼び出し、羽織った。どこからともなく現れる杖を掲げ、俺の目の前で仁王立ちする。
「我が名はサクレっ。迷える魂を転生するもの。そしてダーリンの奥さんっ、えへ」
「そんな宣言しなくてもいいから。あっちで一人遊んでおいで。俺はここで料理本見てるから」
「なんでよっ。もっとかまってよ、遊んでよ。なんでダーリンはいつも一人で遊んでいるのよ。私という奥さんがいるのよ。もうちょっと甘やかしてもいいと思うんだけどっ」
「いや、俺はお前のこと結構甘やかしていると思うぞ」
ほら、料理とか料理とかデザートとか料理とか。
サクレって料理とか出来なそうだから、俺がいないと、リンゴとかいちごとかそのまま食べれそうなものばっかり食べてそうだし。
ちゃんとした料理を作ってやっているのだから、それで勘弁してほしい。
「それは私も思ってるわよ。おいしいごはんを作ってもらってるし、なんだかんだで私とお話してくれるし、でもそれだけじゃ物足りないのよ。二人の想いでが欲しいの。だから一緒に遊んでっ」
「だが断るっ」
カードゲームぐらいならいいけど、さすがにごっこ遊びは嫌だ。それだけは勘弁してほしいと思う。
俺たちが無駄な言い争いをしていると、コツン、コツンとヒールで歩いたような音が聞こえて来た。
視線を移すと、そこには、眼帯をしている黒髪短髪、右手には包帯、首に眺めのマフラーを巻いた、14歳ぐらいの女の子が立っていた。しかもセーラー服で、左手には穴あけ手袋をしている。
すごく、すごく中二病感がすげぇ。
「我はこのライトノベルをこよなく愛するもの。だが油断は出来ない。右手に封印されている左目がうずくのだ」
語彙力がひでぇ。何だよ、右手に封印されている左目がうずくって。混ざってねぇか。
「ねえ、言葉がなんか混ざっている気がするんだけど、わざとなの、本当にわざとなの。もしかして……間違えちゃった? うわぁ、恥ずかしい……っぷ」
「………………あうぅ」
やめてやれよ。
なんかその女の子、顔を真っ赤にして俯いちゃってるんだけど、「ぷぎゃぁ、だっさ」とか言っちゃダメだって。
仕方ないと思った俺は、椅子から立ち、サクレを手招きする。
遊んでもらえるのかと思ったのか、目をきらきらさせてサクレが近寄ってきた。
「なになにダーリン、私と遊んでくれる気にーー」
「お前は人をおちょくるなっ」
俺のげんこつがサクレの頭に炸裂する。サクレは頭を押さえて涙目になり、上目遣いでこちらを見つめた。
「なんでぶつのダーリン。すっごく痛いんだけど」
「だったら真面目に仕事しろ」
「仕事したら遊んでくれる?」
「っち、しょうがねぇな」
「ねぇ、今舌打ちしなかった。したよね。どうしてダーリンはいつも冷たいのよ。もっと遊んで、私を甘やかして、そして私を幸せにしてよ」
今も十分幸せそうだと思うぞと、あえて口には出さない。
俺は「はいはい」とサクレの言葉を流して、今回の迷える魂に向き直る。
「あの、そろそろ話をしてもいいか。我の右手が限界なんだ」
「その右手、怪我でもしているのか」
俺がそう聞くと、彼女はにやりと笑った。
「ふっふっふ、我が右腕には神話の化け物、シャクナペトラが封印されているのだ。この包帯は、実はただの包帯ではなく、一万と四千五百年前に聖人ラクトスが作ったといわれる聖具なのだ。この聖具の名はエクスチェーンサー、あらゆるものをつなぎとめる力を持っている。だけど、我の右腕に封印されてからかなりの歳月がたった。この封印もそろそろ限界だ……。ああ、右腕が、暴走する。っく、なんて力なんだ……」
「という設定をつけて遊んでいるのよ、彼女は。最近私もそういう一人遊びを覚えたわ」
サクレがぼそりと言うと、イキイキと語ってくれた彼女が突然俯いた。「ぐすん」という声が聞こえてくるので、泣いているのではないかと思ったが、「泣いてないもん」なんて言われてしまったので、黙ることにした。これ以上何かすると彼女をさらに傷つけてしまうことになるだろう。
「さて、そろそろ真面目に仕事しますか」
サクレがやっとやる気を出したようで、彼女の目の前に立った。さっきまでの振る舞いが嘘のようで、すごくきれいに見えた。
だけど「まじめに仕事するか」と言ったとたんに膨らむあの胸が、ちょっとだけ気になる。
え、何、今更見栄を張っているの。しかもそこっ。
だけどあえてスルーさせてもらう。そこら辺は割とデリケートな問題だからしょうがない。
「貴方は残念ながら死んでしまったのです」
「……この我が、漆黒のブラッディクロスと呼ばれたこの我が……死んだと」
「はい、あれは悲惨な死に方でした」
「そ、そうですか。我……その……私、自分が死んでしまった時のことをよく覚えていないの。よかったら教えてください」
「あれは不幸な事故だったのです。あなたの上から花瓶が落ちてきて……」
「もしかして、上から落ちて来た花瓶に頭を打って死亡した、とか?」
「いえ、違いますよ。あなたは自分の近くに落ちて来た花瓶を、自分が当たったものだと勘違いして気絶。心配停止に陥ってそのまま死亡しました。皆さんとても残念そうでしたよ。こいつ、ビビり過ぎだろ。当たってねぇのに死ぬなよとか言っちゃってましたし、両親に限っては腹を抱えて爆笑しておりました。ねぇ、どんな気持ち?」
「…………もうお外に出られにゃい」
からかうなよ。ねえどんな気持ちって、信じたくないですっていう答えしか出ねぇだろ。
あとで説教だな。
「それで、どんな世界に行きたいの?」
「うう、我はこの作品のファンなり。もしこの作品のような世界があるのなら、そこに転生することを望むぞ」
「ちょっと違うけど、あるわよ。魔法とかあるし、ろくでもない設定はあるけど、中身がバグりすぎて、いろいろと大変なことになっているわ」
「おいサクレ、何がどう変なのか言わないとだめだろう」
「そうね、ダーリンの言う通りね。いい、よく聞きなさい」
「は、はぁ、わかりました女神様?」
「その世界は、ファンタジー感あふれる夢の国。剣と魔法で生きていける壮大な世界。魔王は結構前に倒されて、今や大ハンター時代。あなたもハンターになってモンスターを討伐、いい素材を集めて武器を作ろう……という世界なんです。ちなみに、魚が植物のように生えていて、野菜が魚のように大海原を泳いでいる世界だわ」
「え、えっと……よく分からないんですけど、この世界に爆裂魔法はありますか」
「あるよ」
「じゃあそこにしますっ」
彼女はすぐに決めてしまうと、サクレの力によって転生されてしまった。
彼女は去り際に「今度こそ、中二道を歩んでいきます」と言っていたが、あれは何だったのだろうか。
まあ、気にしても仕方がない。
これからサクレのお説教をするのだから。
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