寝室にて
オレ達3人が別荘兼、避難場──ここからは別荘とだけ言おう。そこへ戻ってから、出迎えたカルロに廃工場で起きた出来事を全て伝えた。
ただ内容を伝えたのはオレではなく、エルモの方からだ。
端的に言って部下に面倒な説明は任した、そう言うことである。
オレは慣れない状況と魂の入れ替わりがあったりと、疲れていた為に早々に部屋に行き──シャワーを浴びて血の臭いを落とし、ベッドに飛び込む。
部屋に向かう最中散々カルロから記憶について問われたが、一先ず寝て起きたら答えるとだけ告げておいた。
時刻はまだ昼を過ぎた辺り。あれだけの事が一気にありながら、たった数時間で片付いてしまった。それ故に余計に疲れたのかもしれない。
ベッドでは無意識の内に、枕の下に拳銃を置いていた。
チェルソの記憶が混合している為に身体が勝手にその動作をしたようだが、思わず苦笑いが浮かぶ。
「嫌な記憶だ。常に誰かに狙われながら生きるってのは、大変だな」
現在の己に向けての言葉なのか、チェルソ自身に向けての言葉なのか──そのどちらもあるだろうが、何にせよ身に付いた習慣はそう簡単には取れないようだ。
その証拠にオレは人を一人、無意識で殺した。
それもまだチェルソの記憶が戻る前であるが、身体が勝手に反応し動いた時──相手の首をナイフ斬り裂いていた。
手にはその時の感触がいまだに残る。
正直、皮膚を斬り裂く瞬間はとても気持ちよかったと思う。いっそうの事、この思考さえ切り裂いてしまいたい。
見つめた掌で布団を引き寄せる。
「駄目だ、とりあえず寝よう」
記憶を退けるように首を左右に振ると、布団に潜り眠りにつく。
どこまでも最悪な事に、夢の中でもチェルソ・プロベンツァーノの過去が混じった嫌な夢を見た。
夢の中のチェルソは今よりも更に若く、血でまみれる大量死体の海に立つ。手にはオートマチックの拳銃と機関銃が握られ、自身の身体も傷だらけの状態──その背後には一人の男が、チェルソに庇われるように呆然と立っていた。
眠りから覚める時、外の方で微かな気配を感じる。何かが部屋の中に
それと同時にカッと瞼が開ききり、手元の銃の先は目前の相手にカチャリと音を立て向ける。
部屋には一瞬の緊張。
だがそれを破るのは目前に居る、正確にはオレの身体の上に
「チャオ、ドン。あたしの愛しい人」
「……ロジータ……」
そこに居たのは金髪少女のロジータ・ベルテ。
相手が部下である事に僅かに安堵すると、ロジータの額に宛がった銃口の先を退ける。
多分……ではあるが、これがもしも全く知らない人間ならばトリガーに掛けられた指は押されていただろう。
危うく殺してしまうところだった。
「何をやってるんだ?」
「決まってるじゃない! 愛しいドンを襲い来たのよ。性的な意味で」
「……」
ベッドに寝ているオレの身体の上に、ロジータは遠慮無く跨がっているこの状況は一体何なのだろうか……
彼女は襲いに来たと言っているが、流石にそれは本気ではないだろう。しかし彼女の指でオレが着る服のボタンをひとつ、またひとつを外されていく。
楽しそうにボタンを外しながらも、ロジータは口を開く。
「
「昨日?」
「そうよ。もう一晩経って朝よ?」
「そうか……」
そんなに長く眠ってしまったかと驚く中、チェルソの記憶を探ると今のようにロジータが部屋に侵入してくる様子が脳内に浮かぶ。
どうやらチェルソが寝入る隙を襲うことは、普段からあったようだ。
全てボタンが外されると、腹部にある切り傷を指でそっと撫でられる。
擽ったい感覚が襲うなか紅潮していくロジータの頬を見つつも、脳は至ってこの状況にも冷静であり言葉を投げ掛ける。
「悪いがそこを退いてくれないか」
「きゃははっ、そんな優しい言葉じゃ駄目よ?」
退いてもらうどころか頬にロジータの手が触れ、更には顔が近付き互いの身体はより密着する。
「ドンの事は愛してるわ。でもね、やっぱり……あたしの事をいつでも殺せる……そんな目をしてるドンが一番興奮するし、好き。貴方は恐くなくちゃ駄目なの」
互いの視線も絡まると、頬に添える手で唇を撫でられる。益々紅潮していき、心なしか息遣いも荒くなるロジータのこめかみに銃口を宛がう。
「退け」
一言、ゆっくりと、ドスの効いた声で告げる。
すると目前のロジータは一瞬目をキョトンとさせたが、すぐに口元へ笑みを浮かべ密着していた身体を勢い良く起き上がらせた。
ベッドを降りたロジータは、その場で跳ねて何やらきゃあきゃあと喜び始める。
「……」
一体今、彼女の心に何が刺さったのかは不明だが、そんなロジータを無視して一先ずオレもベッドを降り、着替えるためにクローゼットへと向かう。
同じ物ばかりが揃う高級なスーツを一着取り出しベッドに放り投げ、既にボタンの外された服を脱いでいく。
ワイシャツに袖を通してる傍らで、不意に跳び跳ねる動きを止めたロジータから声が掛かる。
「忘れてた。カルロがドンに話があるとか言ってたの。多分もうすぐ来るわね」
そう言うと直後、狙ったかのように執務室の方からカルロの呼ぶ声が届いた。
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