セルジョの目的
彼は語った。己の目的を──
自身の犯した罪への罪悪感など、一切の欠片も感じさせず。
愉快に、満足気に、そしてこれから待ち受ける待望に満ちて語った。
セルジョから告げられたのは、三つ。
まずひとつは、資金集めに人を拐い襲う事。
これはカルロからも伝えられている事と、事実は同じだった。
被害者は弱い女性か、大半が大金を所持する者に狙いをつけ、一人になった所を襲う。
そこから脅しに脅して、場合によってはその者のの身内にも脅しを掛け大金を巻き上げる。
搾り取れるだけ金を出させた後は、拐って証拠隠滅に口封じ。
永遠の眠りが待っている。
集めた金の使い道に二通り。
仲間と分け合い、娯楽に注ぐ金が七割。
残りの三割は、ギャングのリーダーを務めるセルジョの身体強化──闇医者に向かい、筋肉細胞に特殊な薬を投与して無理矢理に己の筋肉を強化させたのだ。
『俺はスマート体型だが、こう見えて筋力も素早さも格違いさ』
そんな訳のわからない事を告げながら、セルジョは自慢気に笑う。
ふたつ目に告げられたのは、段ボール箱に詰められた切断死体の事。
セルジョ
これまた頭のネジが外れた発言をしてくれたが、更にその動く口は止まらない。
『あれは見せしめさ! 金を出さなきゃお前もこうなるぞ! って教えてやる為の。 まぁ、いくら大金出そうが結局は殺すんだけどな? それとあれだ……俺の趣味かな』
なんともふざけた悪趣味を持ってやがる。
人間が殺されていく瞬間を見て楽しむとは。
セルジョは言う──生きた状態で手足を切断していく時に上げる、人の口から発せられる悲鳴を聞く瞬間が、何よりも最高の快楽が味わえると。
特に女性の叫び声はそそる。
どんなに被害者が泣き叫ぼうが、許しを乞おうが、媚を売ってこようが、暴れようが同情の欠片も渡さない。
寧ろ、この男の狂いようにこっちは同情したくなる。
しかし、心に感じる違和感が再びオレを襲う。
本来ならば、絶対に思う事のなかった感情──『悲鳴を聞く瞬間が、何よりも最高の快楽』──その言葉が、嫌と言うほど心に馴染んでしまう。
認めたくなどない、信じたくもない。
それでも、それを否定出来ないだけの要素が、沢山出来てしまった。
どんどん自分の心が支配されていく。
不安を抱きつつ、セルジョの語りに耳を向ける。
殺された人達はその後、燃やされ骨となり目の前の海に捨てているそうだ。
ここへ来る切っ掛けとなった、ロジータが見た白骨はこれから海に捨てる予定のものだったのだろうか。
何故燃やすのか問えば──
『腐っていくのを
セルジョは肩を竦め、虚空を見上げながら天に──正確には工場の屋根だが──人差し指を向ける。
表情はこの後に告げられる言葉とは裏腹に、心暖かい笑顔を見せた。
『人はいずれ死んで骨になる。その成り行きが、少しばかり普通とは違っただけさ。 それにどのみち骨になればバラバラなんだ、初めからバラバラだって問題ないだろう』
どこまでも、どこまでも狂った奴だ、
そしてセルジョが最も求めた、最大の目的。
三つ目に語られたのがそれだ。
「俺が何故、闇医者にまで行って身体強化をする事にしたのか……勿論強さが欲しかったから。それはある。けどそれとは別に、あんたに、プロベンツァーノの旦那に惚れたからさ!」
「……は?」
セルジョの口から出される言葉の音量が徐々に増していき、彼が語ると共に興奮していく様子が感じ取れた。
だが最後に付け加えられた内容を一瞬飲み込めずに、脳に浮かんだ疑問符をこれ以上に無い最短語で発する。
オレの反応に勘違いされたと焦ったようで、セルジョは慌てて首を左右に振る。
「おおっと、勘違いしないでくれ! 俺はあんたから感じた強さと、溢れ出る恐怖のオーラに惚れたんだよ。それでもって憧れた」
セルジョは両腕を左右に広げ、手にする刃物を心許ない弱い電球の下で照らす。
光が反射する刃物は、より鋭さを増して見せる。
ここで更に声を反響させ、セルジョは今後の期待に溢れた。
「今のあんたから恐怖が感じないのは寂しいが、俺の目的は変わらない。プロベンツァーノの旦那の下で働きたい……俺をあんたの
「……っ、なん……だっ、て?」
自分の耳を疑いたかったが、生憎相手の声はハッキリと聞き取れてしまった。
溢れる期待にこちらの心が刺さる訳もなく、オレの瞼はピクピクと震え頬が引きつる。
目の前の部下に関しては、何が可笑しいのか肩を小刻みに震わせ笑いを堪える始末。
さて……どうしたものか。
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