二分
フェルモが掌を広げると持ち上がっていた身体は落ち、男は何も抗うこと無く地面に崩れる。
また戦闘不能者が一人増えてしまった。
これにはこの場に居る残り九人のギャング達が一斉にどよめき始めるも、間の抜けた声がその場に通る。
「……あ。 何もするなって言われたのに、やっちまった」
ついうっかり──と言った感じで、反省の色など全く出さずしてフェルモは呟いた。
「逃げられるよりは良いが……。それにまぁ、聞きたい事があったからでもう別に──」
オレが言い終える前に二人の男──部下の身体は動き出す。
向かう先は、まだ何も出来ずにただ立ち塞がるギャング。
この者達の動きを封じる為に、二人の武器は発動する。
初めにフェルモは長身と図体に見合った、長く太い脚を振るう。
短い距離を駆け出し、右足に体重を掛けるとそこを軸にして左足が地面から浮き上がる。
するとその反動で勢いがついたフェルモの左足は、前のギャング二人の腹を目掛け巻き込んでいく。
たった一蹴り。
しかしその衝撃は凄まじいものだった。
二人のギャングは脚を腹でダイレクトに受け止めれば身体はくの字に曲がり、無意識で開かれた口からは胃液を吐いて受けた衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。
飛ばされた二人は工場の壁に背中から激突し、再び胃液を吐き散らしながら意識も同時に散っていく。
一瞬の出来事。
しかしその光景を、唖然と見ているだけにもいかない。
震える腕を無理に動かし仲間がまた二人、フェルモに銃口を向ける。
「うっ……動くんじゃねえ!」
「ひいっ」
だが撃たれる前に、そこへは大きな手が二つ伸ばされた。
二人の横顔。
耳から頭頂に掛けてそれぞれの右側と左側に手を添えれば、ふんっと鼻息を吐いて腕に僅かな力を内側に向かって入れる。
ゴンッ──
すると左右に並ぶ二つの頭は添えられた手から逃れ切る前に内側に引き寄せられ、互いの頭部同士が激突する。
互いに激突し合った──いや、させられた二人の男は足元をふらつかせた。
頭部にヒビまでは入らずとも、確実に目の前に星くらいは舞っていそうである。
そしてこれだけで終わらない。
フェルモは今しがた激突させ合った、男二人のとどめを刺しに手の押さえ位置を変えた。
「や……め、ろ……離せっ!」
次に大きな手で押さえた位置は顔面。
男二人の顔面に大きな手が被さり、抵抗した二人はフェルモの手首を掴み引き剥がそうとする。
だが抵抗はなんの意味も成さず、再度腕に力が加わって勢いを良く頭部を地面に向かって押し倒す。
それにより背後に向かい倒された二人の脚は浮き上がり、身体の支えを無くしたまま頭部は地面との強い衝突を余儀無くされる。
「ぐはっ……!」
「……っ」
切れた、或いは割れた頭部から溢れる血。
フェルモの手が顔面から退けられると、白目を剥き出し完全に気を失い動かなくなった男二人。
頬を軽く叩いても目を覚まさない事を確認し、フェルモは身体を起こしながら足元の二人を見る。
「これからは頭蓋骨も鍛えとけ。……鍛え方は知らんがな」
同時刻。
フェルモが脚を振るう頃、エルモは長刀を振るった。
エルモの前に立つ者へ長刀が上から振り払われ、致命傷は外しながらも肩から腹を斬り裂く。
飛び散る血を受けるがそれを無視して、身体を横にずらし二歩前に進むとまたすぐに長刀が上から振るわれる。
二人目の腹が裂かれた。
「ぎゃあああっ」
悲鳴が辺りに響き渡り、斬られた者はその場に倒れ伏す。
血が流れヒーヒーと浅い呼吸を繰り返し、斬られた敗者は歯を食い縛りエルモを睨む。
──睨むだけで何も出来ない弱者のクズ
心中で呟きエルモの興味無い冷めた視線が、睨んできた男に向けられる。
視線の絡まった男はみるみる顔が青ざめていく様子に、その顔を蹴り飛ばしたい欲求を一先ず抑えてエルモは左手に構える刀を一振りし、粘り付く血を払い落とす。
パン──
渇いた銃声音が一発、辺りを包む。
弾丸の矛先はエルモの頭部。
三メートルも離れていない至近距離とも言える場所から放たれた弾丸──余程撃ち込んだ相手が下手で無い限り、常人ならば弾を避ける事など出来ない筈。
しかし放たれた弾丸は頭部を掠れる事すらせず、いとも簡単にかわして見せたエルモ。
足先で地面を蹴る。
向かう先はエルモに弾丸を撃ち込んだ男の背後。
男は腕に自信があったのか弾を避けられた事に心底戸惑いを露にするが、エルモが自分に向かって来た事には瞬時に反応し再び銃を構える。
「遅いよ」
けれども一歩先に背後に回り込んだエルモは、刀を身体の横──自身の右側に地面と水平になる形で構えて持ち、男が振り向くよりも先に背後から脇腹を目掛けて一突き。
「ぐああっ!?」
刀が背から脇腹に突き刺さる。
そこへまた一人、横から男がエルモに銃口を向けた。
「お前っ……武器を捨てて、両手を上げろ! さっきのは避けられたみたいだが、俺は外さない……頭撃ち抜くぞ!」
「もう……面倒だなぁ。じっとしててくださいよ」
何一つ焦りは見せず、その事を予期していたかのように冷静を保つエルモは、突き刺した刀から手を離す。
銃口を向ける男の言うことを聞いたのかと思いきや、そうではない。
次は右手が、背中に残す長刀を鞘から引き抜いた。
「武器は捨てろって……」
「煩い」
言葉を発した直後、右手に構えた刀は向けられた銃を垂直に切り落とし真っ二つ。
同時に銃を握る男の指も一緒に、あっさりと切断してしまう。
「ああああっ!? おっおお……俺の指がっああ
!?」
真っ二つに別れた銃──だったモノと、男の指が落ちる。
エルモはすぐに刀で男にとどめを刺そうとしたが、指が無くなったとぎゃあぎゃあと泣き喚く背後に大きな影が覗く。
「指が無くなったくらいで泣くな」
「……っ!?」
指を無くした男は背後から伝わる恐怖に声が詰まり、ゆっくりと後ろに振り向く。
そこに居たのは、自分を見下ろしてくるでかい男。
首だけを後ろに向けたままの硬直した状態に、背後に立ったフェルモの拳が容赦無く顔面に向け放たれる。
首がもげるかと思わせる威力。
確実に鼻と頬骨は折れただろう。
顔面に拳を食らった男は吹き飛ばされ、鼻血や唾液、抜けた歯も撒き散らしながら地面にも叩き付けられて意識が遠退く。
これは顔面破壊とも呼べる酷さだ。
「俺の方が人数多くやったぜ」
「競った覚えは無いんですけど」
エルモは溜め息を吐き、呆れながら突き刺したままになっていた刀を抜き取る。
抜くと栓が外れた箇所からは血がどばっと溢れるが、全く気にする素振りは無く刀から血を振り落とす。
両手に握られた刀が、まだこの場に残るギャング一人に向く。
「じゃあ、アレはぼくがやるので、フェルモさんは手出さないで下さい」
二人が動き出してからここまでにまだ二分──て、ところだろうか。
早い。たったそれだけの時間で八人の動きを封じてしまった。
そして残すは一人。
呆然と立ち尽くす男に、エルモが歩みを向ける。
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