カルロ・ロンターニ

このページはカルロ視点になります。




 

 私は、ファミリーのドンを務める『チェルソ・プロベンツァーノ』の右腕と称されたカルロ・ロンターニ。



 あの日はドンのプライベート外出の帰りでした。

 車に乗る直前、いきなりの銃声音。それも立て続けに二発。


 その二発は見事にドンの腹を撃ち抜いた。



 何故、見抜けなかったのか。

 何故、早くに予期出来なかったのか。

 何故、阻止出来なかったのか。


 ドンは常に言っていたではありませんか。

 全ての人間を疑え。

 ファミリーの人間も、友人も、それこそ赤子でさえも。

 全てが敵と思え。


 そう、ドンは言っていました。


 赤子が何を出来ると言うのでしょうか。

 私はドンに聞いた事がある。

 するとあなたはこう返した。


『赤子は将来を見据えて危険と思え。敵であれば、そいつが物心つかぬ内から教え込まれた事は、いずれ育った際には躊躇無く必ず遂行しに来る』



 では、あなたは何を信じるのか。

 聞くもあなたは、明確なその答えをくれなかった。


 しかし、自分は一々後ろを振り返りながら歩くのは面倒だ。これは自分が選んで歩む道。

 堂々と前を行く。

 だから、お前達は全員自分の背中を護れ。

 例え背中をファミリーの者に攻撃されよう、が文句は言わないでおいてやる。

 ただし、ファミリー以外の別の者が攻撃し、それを阻止出来ない場合は我々を許さないと。



 なんて勇ましい方だ。

 なんて身勝手な方だ。


 ああ……ですが、どうして気付けなかったのでしょうか。

 まさか僅か十歳にも満たない少女が、ドンの腹に弾を撃ち込むとは。

 それも、正確に。確実に。狙いを定めて。



 全ての人間を疑え、赤子でさえも。

 この言葉を真実として、強く恐ろしいと感じたのはこの時が初めてでした。

 確かに少女は躊躇無く任務を遂行した。

 そして、躊躇無く少女は自害した。


 ドンはこうなるであろう未来も、見えていたのでしょうか。

 そうであったとしても、まさか記憶を無くされてしまうとまでは考えてはいなかった筈。


 撃たれた後は正直、もう目を覚ますことはないのではと考えてしまいました。

 ですが、あなたは目を開けた。

 そしてそこに居たのは、いつもと違うあなたでした。

 何が違うか、初めの内はわからなかった。


 しかし、また意識が途絶え再び目を開けた時、私は確信する。

 今のあなたはいつもの『チェルソ・プロベンツァーノ』とは明らかに違う存在だと。


 表情、口調、態度、仕草。

 その全てがドンのものと違和感を感じさせた。


 いいや、寧ろ懐かしさ・・・・すら感じた。

 それでも私の目の前に居るのは、撃たれて瀕死状態にあったドンに間違いはない。



 私の事を知らない様子。自分自身の事をわかっていない様子。

 その事をダニロから聞かされた私は、より確信に結び付ける事が出来ました。

 なによりドン自ら自身が何者なのか尋ねた事が、最大の事実でしょう。


 今のドンには記憶が無い。

 これには困りました。

 だからと言って、あなたはもう必要無い──と、投げ捨てはしない。

 今あるプロベンツァーノファミリーのドンは、チェルソ……あなたでなくては、ならないのだから。


 あなたでなくては意味が無い。

 私は一生、あなたに就いていくと決めたんです。

 その道がどんなものであろうと。


 この名を交換・・したその日から──或いは、この名をあなたが奪った・・・その日から。

 私はドンを護ると決めた。


 だと言うのに、よりにもよってインクロッチ側の人間に傷を付けられてしまった。

 


 記憶が無いと知ってから気付けば一週間が経ちますが、ドンが組織に関して何かを思い出す様子は見られない。


 ラバス医師に頼み様々な検査を、特に脳を中心にも行いましたが異常は無し。

 一時的なものなら早く記憶が戻ってほしいところです……

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