勘違い

 授業中。

 チョークが黒板を打つ音が教室に響く。

「カタカタカタ……」

 しかし、それとは別にカタカタと謎の音が聞こえてくる。

「……? なんだこの音は」

 疑問に思ったのかごっつぁんが、音の出所を探ろうと目線を動かす。

「カタカタカタカタカタカタ……」

「お、おお……」

 ごっつぁんがある一点で、目線を固定すると、それを追うようにみんなも視線を移動させた。

「カタカタカタカタカタカタ……」

 みんなの視線の先には、いつもの無表情で、尋常じゃない貧乏揺すりをする乙宮の姿があった。

「ああ、乙宮……何かあったのか?」

「……? どうしてですか?」

 不思議そうに首を傾げる乙宮に、ごっつぁんは渋々授業を再開した。

「ガタガタガタガタガタガタガタガタ……」

「…………」

「ガタガタガタガタガタガタァ」

「…………」

「ガタガタガタガタガタガタァァァッ!」

「気になって授業にならんぞ!」



「なんか今日はやけに疲れたな……」

 軽く肩を回して、体の疲れを確かめる。

 それにしても、昼からの乙宮は様子がおかしかったけどなんだったんだろう。具合でも悪かったのだろうか。

「おーい旭」

 そこに純と真人とつかちゃんがやってくる。

「小町ちゃんからの告白はどうな……」

「フンッ!」

 余計なことを口走ろうとした純を拳で黙らせる。

 危ない危ない。あと少しで、十字架行きだったよ。

「……それでどうしたんだ? OKしたのか?」

「したに決まってるだろ。旭が告白されるなんて、たとえ嘘でも、もう一生ないぞ」

 決めつけたように言ってくる真人に俺は冷静に反論する。

「失礼な。俺だって告白くらいされるよ……って少し強がりすぎだよな……。ははっ、俺ってやつは」

 まだ教室に残っていた男子の視線が一瞬で厳しくなったので、すぐに訂正する。

 なぜか乙宮の視線が一番厳しくなった気がするが、その意図は分からない。

「で、どうなのよ」

 そこに部活前で急いでいるはずの由乃まで告白の返事を聞いてきたので、俺は危険を承知で渋々答えた。

「からかわれただけだったよ……。俺が何か言う前に笑いながら教室から出ていった」

 俺がそういうと、つかちゃんが大きくため息を吐いた。

「……ったく」

 つかちゃんは「ちょっと用事思い出した」と教室を出ていった。

 ……ったく、って何だよ、気になるな。

「ところで、小町ちゃんは旭のことを先輩先輩と呼んでいるが、部活の先輩か何かだったのか?」

「ん? ああ、ドジっ子あざとかわ美形部の後輩だよ」

「何その部活……」

 由乃は呆れた様子だが、真人はこんなところで意味のない察しの良さをみせた。

「まぁ、大体、予想はつくがな。ドジっ子は塚原、あざとかわは例の後輩。……しかし、美形は誰だ」

「たしかに、言われてみれば当てはまるな。美形は中学の時の級友か誰かだろうか?」

「ヒント、部活メンバーは三人」

 そのヒントを聞いた由乃が大声で叫んだ。

「塚原は美形も兼任!」

 由乃の見当はずれな答えに真人と純は納得したようにと頷いている。

 はぁ……目の前の美形を忘れてるよ。

「正解は俺!」

胸を張って、

「さぁ部活部活」

「真人、寄り道をしたいんだが……一緒に行かないか」

「仕方ない。今日だけは付き合ってやる」

「おい!」

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