城下町に出てきた村医者が次期国王に見初められて宮廷医師になってしまった話

あおりんご

1:出会い

ここはアルキオネ王国城下町。


私、フローレンス·スタンリーは、ここから遠い村のミラから職を探しにやってきた。


ミラで育ち、未熟ではありますが、村医者として小さな子供から村長まで、沢山の村の人たちの病気を治してきました。


先日は私の18歳の誕生日で、村に残るか旅に出るかの選択を迫られ、医者としての腕を上げるために城下町にやってきたという訳です。


「ここが、憧れの城下町…!」


ぎっしりと並ぶ店とすれ違う人のお洒落な格好に、私の目は見るところがあちこちありすぎて回ってしまいそうです。


美味しそうなチョコレートのお店に、可愛いお洋服のお店。


全部見て行きたいけど、生憎そんな時間はない。


まずは病院など仕事のできるところ、あわよくば住み込みで医学の勉強をできるような所を探さなければ。


私はディスプレイを必死に見ないようにして、そそくさと歩き出した。


「階段…こんな所に?」


少し歩いた頃でした。


段々と住宅街の方へ入ってしまったようで、道に迷ってしまったみたいです。


「でも…聞ける人が居ない…どうして?」


周りに人がいないのです。


城下町とは先程いた所のように賑わいがあって、人のたくさん居る所なのではなかったのでしょうか?


少なくとも本で見た城下町はもっと活発でした。


そこで見つけた下へ続く階段。


ここならもしかしたら人がいるのかもしれない、と手すりに手をかけた瞬間、私の右手側からどたん、と大きな音が聞こえました。人が落ちたような音。


「助けないと…!」


音のした方向に走ろうとすると、その方向から誰かが走ってくるではありませんか。


「おまえ、何してるんだっ…!?」


全速力で駆けてきた金髪で緑眼の見目麗しい少年は、息を切らしながら私の肩を揺らしてそう言いました。


「何…って、この下何があるのかなって思って。ねえ、君この下何があるのか知ってるの?って、待って。何その怪我。治すからじっとして。」


彼の血だらけの足と手を見たら、この下のことなんてどうでも良くなってしまいますよね。早く処置をしなければ。持っていた医療用バッグから荷物を出そうとした時でした。


「今俺追われてんだ。少し身を隠せる場所がいいから、そこの橋の下でお願いしてもいいか?」


こんな若さで追われているなんて、何をしでかしたのでしょうか。とりあえず彼の希望を受け入れて橋の下で処置を始めました。


「お前が気になっていたあの階段の下だが、あの下はスラム街だぞ?」


「スラム街?初めて聞くわね…なに、その街は?」


「スラム街を知らないのか!?まあ、いいだろう。俺が教えてやるよ。ここのスラム街ってのはまあ、貧困層だったり犯罪者だけで構成された街だな。基本城下町に来れないようになっているんだ。ちなみにあの階段を下がったら門番がいて、通行許可証を持っていなければ即王宮行きだったんだぞ。」


「行ったら罪に問われるのかしら。でもそんなところ、医療が行き届いてる訳ないわね…。そこに行こうかな…」


「馬鹿なことはやめた方がいいぞ。特に今は厳重なんだ。感染症が流行っててな。さすがに城下町は多くの国や地域の人が集まるから、感染症なんか巻き散らされたら困るからな。」


「…早急に手を打たないといけないわね。ありがとう、有益な話だったわ!で、治療はおしまいね。こんな怪我もうしちゃダメだよ?」


「さっきからお前、俺の事ガキみたいに扱うが、19だぞ?」


「…えっ。」


金髪緑眼美少年は目が大きくて背も私くらいでいっても15だろうと、歳下だろうと、思っていたというのに、まさか歳上でしたとは。迂闊でした。


城下町、恐るべしですね。


「お前、どっかの村から来たのか?」


「そうですね、ミラという村なのですが、ご存知ですか?そこで村医者をしていたのですが、城下町で働きたいと思って出てきたところだったんです。」


「歳上とわかった途端に敬語になったな、お前。」


「まあ、歳上ですし敬意は払わなくちゃいけないですからね。タメ口でいいならいいんですけれども。」


「多分そんな歳も変わらないだろうし、身構えずに楽に話せ。」


「なら遠慮なく。それでね、職を探してるのよ、どっかいいところない?」


彼の一言を少し嬉しく思いました。この街に来てろくに人と喋っていなかったので、こうして話をすることができてとても楽しいというのに、ずっと敬語だと疲れてしまいそうで。


「おすすめの職場があるんだが、紹介してやろうか?」


「え、いいの??案内してくれる?」


「ああ勿論。多分俺だから許してくれると思うんだが。」


少し考えるような仕草をして王城の方を彼は見つめていました。


「ありがとう!名前、聞いてもいいかな?」


彼の視界に入ろうと、王城の方に回って、顔を覗き込むと、彼はぷいとそっぽを向いて


「リュドミール·アゼリア」


そうぼそっと呟きました。アゼリア。アゼリアってまさか。


彼は先程までの口調を取り戻し、こちらを向いて


「リュドミール·アゼリア。現国王アイザック·アゼリアの息子であり、この国の次期国王だ。」


先程のようにカッコつけてそう言いました。


町に来て初めて話した、記念すべき1人目はこの国の次期国王様だというなんとも言葉のでない展開に、頭が狂ってしまいそうです。


「人に名前を言わせておいて、自分が名乗らないとは何事か?俺はお前の名前も知りたい。」


「フローレンス·スタンリー…です。」


「フローレンスか、いい名前だな。あ、次期国王だとわかったからと言って、敬語で話すのは禁止な?」


「えっ!?な、なんでです…なんで?」


「今名前聞いただろ?もう友達じゃないか?」


彼の社交スキルは素晴らしいものだと思いました。友達と呼んでくれた事、来たばかりで勝手の知らない私にスラムに行かないように止めてくれたこと、たった数分しか経っていないけれど、彼の人柄をよく知れました。


初めての同年代のお友達が王子様で、まるで絵本の主人公になったみたいに、宝石みたいに、世界がきらめきはじめました。


「ありがとう、もうお友達だね。リュドミール!」


また私に顔を見せないよう前に立って、


「行くぞ」


と一言私に言い、左手を後ろに伸ばしてきました。


人混みではぐれないようにか、さすが気が利く王子様です。


「ありがとう」


さし伸ばされた左手に右手を重ね、軽く手を繋いで王宮へと足を向けた。

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