第6話:遭遇−3
修正バージョンです。
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_第一上陸部隊 旗艦ビガス・ルナ級原子力航空母艦 CDC(空母版CIC)
CDCで勤務する要員らは、今固唾を飲んで正面にデカデカと置かれた液晶版を見つめていた。
「上陸地予定地点付近の写真……来ます!」
要員の一人がそう叫んだ瞬間、液晶版に大きな写真が映し出される。
「おお!」
それは、一言で言うなら『大』がつく程巨大な、ビーチだった。
海岸線には細々としたヤシの木が所々に点在し、時折海面から反射される『赤い月』の放つ光はほんのりとビーチを照らす。
その風景は『赤い月』の放つ光を無視すれば、南国の島々にありそうな夜のビーチの風景だった。
「まるで南国に観光しに来たみたいだな……」
幹部の一人が、冗談交じりにつぶやく。
「それで問題は……人らしきものを確認したかどうか、だ。その点についてはどうなんだ?」
作戦司令官からの問いに、CDC要員は素早く
「解析してみます」
と答え、液晶版を操作する。
やがて解析を終えた要員は、顔を上げると作戦司令官に対して告げた。
「人型の物体を……1つ。それと、木造建築物……おそらく丸太小屋ですね。それ以外には全く何も」
要員は落ち着いた口調でそう言うと、再び液晶版を操作する。
「そうか……」
自分の放った言葉で全てが変わる。上陸するか、否か。
この選択にしばらく悩んだ様子を見せた作戦司令官は、やがて覚悟を決めたような顔で口を開く。
「全部隊に対して上陸準備を通達。上陸予定地点3キロ地点まで接近したのち上陸部隊第一波を出撃させてくれ。もちろん、その間もUAVを用いた陸地の調査は絶やすなよ」
「了解」
作戦司令官からの一言を持って、ついにピオネロに対する上陸準備が開始された。
_一方その頃、ムベガンド王立軍総司令部では
各方面からの魔導電信文が集結するムベガンド王立軍総司令部。大小様々な魔導電信機がひしめくそこでは、何やら不穏な空気が漂っていた。
「司令官!南東部第五即興防御陣地より連絡!急電です!」
「何ッ!?内容は?」
「『神の乗る浮舟に遭遇。現在防御陣地周辺空域を飛行中』とのことです!」
「何ィッ!?神の乗る浮舟だとォ!?」
司令官は思わずど肝を抜かれたかのような声を出す。
軍上層部から『うちの哨戒騎が未確認飛行物体みたいなの見つけたらしいから注意してね』とは言われていたが何かの冗談だと思っていた。いや、冗談でなければ間違いなく、この国にとって危機となる。『あの神話』にある話を完全無視した行動に出られるなど……あってはならないことだ。
いやいやいくらなんでも、と思った司令官は念のため通信員に確認させる。
「それは本当か?間違い無いんだな?」
司令官は慌てて、机の上にポツンと置かれた資料を手に取る。それら資料には『未確認飛行物体』の情報及び、想定される姿などが事細かに記されていた。
現在開発中の映像送信機能付き魔導電信機が完成・配備されていたらなぁ、と内心思う。もし配備されていたら、それが本当かどうか確認できるのだが。
「……はい、本当に、『神の乗る浮舟』が飛んでいるとのことです」
司令官は誰にもわからない音で舌打ちする。いくらなんでも、『神の乗る浮舟が突然やって来ました』なんて報告、軍上層部にしたら即刻クビだ。
緊張した空気が漂う中、ある一人の通信員が口を開く。
「……我々の神は我々を手駒にし、遊ばれているようですね」
確かリベリア教に入信したと聞いていたが……まさか本当だったとは。
リベリア教。かつて我々の住む星に住み、我々__いや、この星に住む全ての生物を生み出したと言われる古代リベリア人を神とする宗教である。その規模は未だかつて無いほど巨大で、噂では亜人などを含めるとこの世界の総人口の6割を占めると言う。
その一方古代リベリア人を崇めない他宗教に対する行動は目立つものがあり、影では『頭のおかしい宗教』だとか『絶対入っちゃダメな宗教』だとか言われている。
当然それだけの入信者がいるとなれば、軍部にも一人や二人は混じっているわけで、通信要員も典型的なその一人だった。
「まぁこいつのことは置いておいて……もしかすると新手の竜種かもしれんな。ダーダネルス帝国海軍かもしれん。念のため海軍の哨戒船を向かわせろ。確か近場に哨戒中の哨戒船が数隻いたはずだ」
「了解しました」
司令官からの指令を受け取った通信員はそれだけ答えると、付近を哨戒中の哨戒船に連絡を取る。
「第15哨戒船。応答せよ」
『こちら第15哨戒船。どうされましたか?』
「現在南東部第五即興防御陣地上空で自称『神の乗る浮舟』が飛び交っているとの連絡があった。ダーダネルス帝国海軍が飛ばした新型竜種である可能性もあるのですぐに周辺海域に向かって欲しい」
『了解しました』
「よし、その調子で他の騎も向かわせてくれ」
司令官は通信員にそう伝えると、部屋の後ろにある机の上目一杯に海図を広げる。
「そうだな……あり得るのは、この辺りか?」
司令官がそう呟き、南東海岸から60キロ南東にある海域を指差す。
噂ではダーダネルス帝国海軍竜母艦の放つ海兵竜騎たちの限界飛翔距離は約130キロらしい。ならばこの辺りだろう、と目星をつけたのがそこであった。
「了解しました。すぐにその海域へ向かわせます」
「頼んだぞ」
司令官は内心、ダーダネルス帝国海軍でないことを願うのだった。
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