アフターテイルズEP1:墜落シンデレラ

羽野ゆず

墜落シンデレラ

プレイバック№1

 あ、これ、見たことある。


 ロビーの天井には煌々こうこうと灯るシャンデリア。

 赤絨毯が敷きつめられた中央階段。手すりの素材は白大理石で、細部に彫刻が施されている。


 童話『シンデレラ』の1ページを切り取ったかのような光景だった。

 ほら。今にも午前0時を知らせる鐘が鳴って、シンデレラが駆け下りて…… 

 

「なんてことだ」


 こなかった。

 侍従じじゅうのセバスチャンは呆然と立ちつくしている。

 彼の反応も無理ない。

 階段の中ほどに横たわっている華奢なシルエットは、ガラスの靴の片方だった。数段降りたところに、もう片方。

 さらに視線を下げると、靴の主が私の足元に倒れている。


 雪の妖精を想わせる、はかなげな淡いブルーのドレス。鳶色とびいろの豊かな髪はアップヘアにされ、華奢な首筋がのぞいている。

 うつ伏せに倒れている彼女の横顔は、膝をついてしゃがめば、拝むことができる。

 まだ年端としはもいかぬ少女だった。白い額から血が流れている。血液は肌を伝い、絨毯を暗い朱に染めていく。


 “シンデレラ”は墜落していた。


「どうしたら……」


 王子様コスプレをした亜蘭あらん君が困ったように振り返る。

 どうしたら、っていわれましても。

 『私』こと、パジャマ姿の暮森くれもり公子きみこは途方に暮れたのだった。 


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