少年は最強の魔法使いを目指す。

朱鳥 水

第1話 魔法使い産まれる

 ただっぴろい屋敷の一室。その外で一人の男が落ち着きなくうろうろしている。男の周りには四人の子供達がいた。


「大丈夫だろうか......」


 心配そうな顔でかれこれ一時間ほど動き回っている。周りの子供達はそれにつられてか同じように心配そうな顔をしていた。

 そして突然ガチャリと音がして扉が開いた。

 一人の子供が大声で言う。


「メイド長!どうなったの?」


 メイド長と呼ばれた女は笑顔で答えた。


「無事産まれましたよ。元気な男の子です!」


 その言葉を聞いた子供達は安心したようだが、男はまだ落ち着いてなどなかった。メイド長の肩をがっしと掴んでとても慌てたように聞く。


「本当か! シルは、子供は元気なのか!?」

「旦那様、少しは落ち着いてください。奥様もお子様もお元気ですから!今はもう落ち着いた様ですよ」


 メイド長は男を落ち着かせるため優しい声で言った。


「そうか。良かった、良かった......」


 旦那様と呼ばれた男は笑顔で涙を流している。よほど心配していたのだろうな。


「旦那様もみなさまもどうぞ中へ」


 メイド長はそう言うと五人をを部屋の中へ通した。


「あら、あなた。こんなめでたいときにまで泣いているの?ほら、こっちに来て。この子を抱いてあげて?」

「あ...あぁ」


 男は服の袖で涙を拭い、ベッドまで駆け寄っていく。そしてそっと赤ちゃんを抱き抱えた。

 その小さな命を傷付けてしまわないようにそっと。


「可愛いなぁ、可愛いなぁ」


 今、赤ちゃんは自分の指を咥えて小さな寝息を立てている。

 その姿、暖かな体温。男はその全てを愛おしく思っているようだった。


「あなた、私にも抱かしてほしいですわぁ」

「あぁ、すまない」


 そう言ってそっとベッドに腰掛ける女性に赤ちゃんを預ける。


「ほら、みんなもいらっしゃい。貴方達の弟ですよ」


 その言葉に誘われて子供達は二人に駆け寄っていく。


「母様、次は私に抱かしてください」

「えぇ、もちろん。こちらへおいで」


 小さな女の子は赤ちゃんを優しく受け取った。


「本当に可愛い......」

「今日からみんな、お兄ちゃんお姉ちゃんになるのよ? 弟には優しく、ね?」


 その言葉に一人の男の子が答えた。


「もちろん! こんな可愛い弟をいじめるわけないじゃないか。みんなもそうだろ?」

「「「もちろん!」」」


 子供達みんなが声を揃えて言った。


「頼もしいお兄ちゃん達だこと。ねぇ、あなた。名前はどうしましょうか」


 クスリと微笑みながら女は言う。


「そうだな...... ヴィーリオ、ヴィーリオ・バレンウッドというのはどうだろう」


 男は少し悩むような仕草をしてからたずねた。

 それに女は太陽のように輝かしい笑顔で答えた。


「 ヴィーリオ...... いい名前ね! 私とあなたと名前からとったのかしらぁ?」


 男は少しいたずらっぽく笑いがら「バレたか」と呟く。


「ヴィーリオ。あなたはヴィーリオです。元気な優しい子に育ちますように」


 そう言って赤ちゃんの額に優しくキスをする。

 その場にいた誰もが幸福な気持ちに浸っていた。

 その日、この屋敷は小さな命の誕生を盛大に祝ったのだった。

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