第4話

私がまだ高校生の時に、今はもう無いガソリンスタンドが当時あった。此処は当時、比較的新しいガソリンスタンドだった。そしてこれがある大通りの直ぐ裏の広い道を、私は高校へ通う時に毎日通った。        このガソリンスタンドには若い、二十代の青年がいつも四人働いていた。多分二十歳位だったから、私よりも二、三歳年上だったと思う。                 で、ある時から私はこの近くを通るのがとても嫌だし不安だった。(通らざるを得なかったのだが。)何故なら、この青年達の中に一人、ろくでもない子がいたからだ。そしてこれがこの中では威張っている存在だった。この子は私を見ると外人!といつも罵った。何度もしつこく、憎々しげに言う。他の三人が驚いてこちらを気にしながら見る。するとその中の一人に、同じ様に言えと言う。その相手は手下的な存在に見えた。するとその子もこちらを見ながら同じ様に叫ぶ。私は無視して通る、内心傷付きながら。       彼等が仕事をしている時は当然そんな事は無いが、暇な時で、自分達以外にいない時には必ずこの青年がこうして私に「外人」と憎々しく、しつこく叫ぶ。色の黒い、野性的な青年で、今で言うヤンキーだとかそうした類に見えた。そしてどうやら外国人、欧米人をとても嫌っている様だった。        この青年がここで働く前にはこうした事は確か無かった様に記憶している。だが時代がまだ七十年代で昔だし、今よりも欧米人には慣れていないだとか嫌いな人間もいたと思う。なので白人との混血の私は丁度良いターゲットになった。              それて何度めかの時に、この四人の内で一番まともそうで、賢そうな子がこの青年に止めろと注意した。すると彼は、「何おー!」と言って片腕を上げ、「何か文句あるのか、言ってみろ!?」と凄んた。凄い迫力だった。注意してくれた真面目そうな青年含め全員が驚き、恐がった。            私は早く通り越そうとしながら、注意してくれたこの彼を心配で見た。彼は仕方無く黙って横を向いたが、こちらをチラチラと気にしながら、私に悪そうな顔をした。私は助けてくれようとしたこの彼に内心感謝した。  それからも、このとんでもない礼儀知らずは、私が通ると待ち構えていた様にこの不快な行為を繰り返して、してやったりと言う風だった。そして他の三人は困った様な、私に同情的な感じに見えたが、皆黙っていた。 ある時、私は思い切って何か言い返した。うるさい、とかそうしたことを言った。四人は驚いた。でも三人はそれを当然だと思った様だった。だが、この悪質な青年は怒った!!「何〜?!」              彼は悔しそうにそう言うと他の三人に指図した。                  「オイ、連れて来い!」         私は驚き、どうしようかと思った!!三人も驚き、彼を見る。何を言ってるんだ、と言う様に。だが、この気違いは繰り返す。私を連れて来い、シメてやるからと、何度もそう言って凄い形相で睨みつけた。       だが流石に三人は何もしなかった。私の所に来て、引っ張って行かれずに済んだ。勿論そんな事をして何かされたら、もうそれは犯罪だ。只、十七歳位の制服の混血の女子高校生が近くを通ったからと、そんな事をされる必要は無い。               とにかく、私は怒り狂っているこの男と、そのバイト仲間のいるこのガソリンスタンドを急いで足早に通り過ぎた。        朝はこんな事は無いのだか、問題は下校時だった。幾ら毎日てなくても、こうした事はこの非常識な青年が働き始めて、此処を通る私の存在に気付いてからはよくあった。   だがある時、それは確か土日か何かで、私は母と二人で大通り側を歩いていた。時間は多分午後の三時半位だったかもしれない。二人で何処かへ出かけてその帰りにこのガソリンスタンドの前を通らなければならなかった。私は落ち着かなかった。母は何もこの事を知らないから、もしやられたらどうしよう。だが母が一緒にいながらそんな事をまさかしないだろう、そうも思い、ある種の安心感もあった。そんな事をされているのを親の前で見られたくなかったし、母が傷付くだろうとも思った。過去にもたまにこんなことが何度かあり、母が知っているのもあったから。  とにかく、どんどんとガソリンスタンドは近付いて来る。嫌だなぁ、と思いながらもそこの前に着き、そこの横をしばらく歩く事に。ガソリンスタンドは暇で、いつものメンバー四人がいた。例の悪質な色黒の若い男が途端に、ここぞとばかりに外人、外人と大きな声で、馬鹿にしながら嬉しそうに罵り始めた。母は私の斜め横を歩いていた。真横にはいなかった。私が早く通り過ぎたくてつい急いでしまい前に出たから。そしてこの嫌な奴は、母と私が一緒だと分からなかった様だ。私が来たので又いつもの嫌がらせをしたくて焦ったのかもしれないし、親子だと思わなくても、連れだとも思わなかったのだろう。  それで母はその様子をガッチリと見てしまった。そして大変に驚き、顔がみるみる怒り顔に!                 「何なの、あれ?!何やってんのよ!」  そう言うと、叫んだ。          「一寸あんた!何を人んちの娘にやってんのよ!」                 この若い男は仰天した。他の三人もだ。そして、何も言い返さない。じっとこちらを見ている。                 母は急いでガソリンスタンドの店の中にズカズカと入って行った。中には、母と同じ位か少し年上の男性がいて、何かの紙を手に持って見ていた。母が話しかけた。      「ねー一寸、何なのよ、あんたんとこのあの男!?」                そのオジサンは顔を上げて母を見た。そしていきなりそんな事を言われて、驚きながらも頭に来た。               「エーッ?何なんだよ、あんた。」    「何なんだよって、今うちの子が前を通ったら、いきなり一人が外人ってワーワー言って、囃し立てたのよ!何にもしてない若い女の子に!」               そのオジサンは愕然となった。急に言葉が丁寧になった。私は母の少し後ろに立つていた。母はもっと詳しく説明した。四人の内で一番色が黒くて凄そうな男が、自分の娘が前を通った途端に、ハーフだから、外人外人と騒いで囃し立てて喜んでいると。そして私に、これは初めてじゃ無いでしょ、あんな事を普通できないから。凄く慣れた感じだったから前にもされたことはないか、と聞いた。私は、以前から通るとよくやられていたと言った。母は詰め寄った。         「あんたん所、一体どんな教育してるのよ。あんな事、従業員にやらせてていいの?!あんまりじゃないの!!」         そのオジサンは物凄く小さくなった感じだった。「すみません、すみません。申し訳ありませんでした。直ぐに注意します。」と、そうした事を何度も言うと、直ぐに外へ飛び出した。そして大声でその男の名前を呼んだ。側へ来い、と。             すると例の男は、丸で擦り寄る様に下手に出ながら、近付いて行く。オジサンが顔が真っ赤になりながら叱る。          だがこの悪党は知らないとほざく。自分は何もしていないし、あんな娘は知らないと。何度も訴えかける様に言う。無実の罪をなすりつけられた様に。            するとあの時の、注意してくれようとした優しい青年がいきなり、腹立たしそうに叫んだ。                  「オイ、お前いい加減にしろよ!何さっきから嘘ついてるんだよ?!」        オジサンが彼を見る。          「コイツ、嘘言ってますよ。」      「なんだと、テメー!」         「嘘ついてんだろ?!お前、いつもあの女の子が通ると、外人って言って虐めてただろう!」                 「そんな事してねー!お前こそ嘘つくんじゃねーぞ!」               大した嘘つきだ。            オジサンは黙って様子を見ている。    「じゃあお前、あの子の前で本当にそう言えるのかよ?どうなんだよ?!だったら、行ってそう言ってみろよ!」         この好青年は本当に怒っていた。もう一人の子も無言だが同じ様だ。この間、言われて一緒になって囃し立てた子は困った感じで黙って下を見ている。するとオジサンが好青年に聞いた。                「じゃ、こいつは本当にそんな事をしてたんだな?」                「はい、してました。」         「お前はどうだ?こいつはそんな事してたのか、どっちだ?」            「してました!」            最後に、下を向いていた子に聞いた。   「お前はどうだ?」           「…。」                 返事が無い。              「どうなんだよ。どっちだ?」     「…。」                「何で返事しないんだよ?どっちだ?!」「してました…。」            もうこの悪どい嘘付き男は物凄く困り顔だ。するとオジサンが彼を見た。そして言った。                「○○、皆そう言ってるぞ。お前が嘘付いてたんだな。だったら、そんな事をする奴は困るから、置いておけないからな。お前はクビだ!」                 「エッ?!そんな、困ります!」     「何が困るんだよ!だったら何でそんな事してたんだよ?!そんな奴がいたら、俺が困るんだよ!お前なんかそのまま雇ってたら、俺のクビが危なくなるんだよ、分かったか?!」                そして嫌がり、必死で謝るこの下衆な男にに、給料はいつ渡すだとかを言い、「さっさと今すぐに帰れ!」と怒鳴る。      下衆は仕方無く、渋々と出て行く。悪魔退散。喧嘩に負けて尻尾を巻いて出て行く負け犬か何かの様だった。          若いがふてぶてしい、私にとっては悪魔だった。だがこんなのが意外と家では良い、優しい息子だったりするのかもしれない。canned hunting をする連中が、恐らく家や仲間内では良い夫や父親、又は同僚や友人を演じている様に。           又は別に演じてなくても、物凄く恐ろしい悪魔も体内に住んでいるのかもしれない。  (完.)

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悪魔と人は紙一重 CannedHunting Cecile @3691007

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