243章

ホワイトファルコン号はノピアによって空中へとほうり出された。


アンの体にはくずれていくストリング城にいたときよりも、さらに重力がのしかってきていた。


それでも、なんとかかじをとるアン。


「ノピア……えらそうなことを言っておいて死ぬなよ……」


ノピアによってなんとかストリング城から飛び出したアンは、彼が必ず生き残るようにねがった。


城内にはまだ、アンとノピアが乗ってきた航空機オスプレイが残っているはずだ。


それに乗ればきっと彼も――。


アンはそう考えると、ふたたびホワイトファルコン号のエンジンをかける。


だか、やはり飛行船ひこうせんが飛ぶことはなく、ただ落ちていく――地面へと落下らっかしていくだけだった。


「ダメなのか……? ホワイトファルコン……」


その身に地球ちきゅう引力いんりょくを感じながらアンは、舵をにぎりながらうつく。


せっかくクロエをたおすことができたのに――。


グレイ、ノピアのおかげで飛行船に乗り、ストリング城を脱出だっしゅつすることができたのに――。


このまま地面に激突げきとつして死ぬのか、と。


「世界が平和になったって……生きのこらないと意味がない……」


そして、何度も何度もエンジンをかけようとチャレンジしたが、やはり飛行船は動かない。


「くそっ!! みんながすくってくれたのに、こんな終わり方なのかッ!!!」


アンは、これまでの戦いで死んでいった仲間のことを考えた。


皆、自分のいのち犠牲ぎせいにして助けてくれた。


それなのに、救われた命をここでうしってしまうのか――。


アンは、考えれば考えるほど、むねめ付けられていた。


彼女は、ストリング帝国から逃亡とうぼうし、それからはなばなれになったグレイをさがすために旅をしていた。


そこで出会った仲間たちは、皆自分のせいで死んだようなものだ。


両親から始まり、同じ部隊の仲間たち――。


マナ、キャス、シックス、クロム――。


ルーザー、ルドベキア、ラスグリーン、クリア――。


ロンヘア、ニコ、ルー、そしてグレイ、ノピアも――。


アンは以前になやんでいた、自分は死神しにがみだということを思い出し、そのつみ意識いしきさいなまれてしまう。


うじうじと悩んでいる場合じゃないと頭ではわかっていても、心がそれをゆるしてくれない。


落下していくホワイトファルコン号の船内で、頭をかかえて呻くアン。


しばらくして、彼女はポツリとつぶやく。


「だが……その死神もようやく死ぬ……」


アンは、舵に寄りかかりながら自嘲じちょうした。


自分みたいな人間はもっと早く死ぬべきだった。


いや、自分は皆のため――仲間たちのために死ぬべきだったのだと、なみだを流しながら笑みをかべる。


「ローズ……ごめんな。姉さんはもうつかれたよ……」


飛行船内で気を失っている妹を見て、アンは流れる涙をなぐった。


笑うのがつらいのか、もうわけなさいっぱいにを食いしばる。


「お前との約束は守れそうにない……本当にごめん……」


ロミーにそう言ったとき――。


突然、声が聞こえてきた。


「アン……あきらめないで……」


まるで、冬の日に体をつつみ込む毛布もうふのようなやさしくおだやかな声。


アンはこの声が、誰であるがすぐに気がつく。


「ロンヘア……か……」


アンは力なく返事をした。


死んだはずのロンヘアの声を聞いた彼女は、天国から彼がむかえに来てくれたのかと思っていた。


アンは安堵あんど表情ひょうじょうを浮かべ、彼の声に耳をかたむける。


「アン……大丈夫、大丈夫だよ」


「ロンヘア……もういいんだ……。このまま死んで……私は……お前のもとへ……」


アンはロンヘアの声を聞いた影響えいきょうか、情緒不安定じょうちょふあんていだった心が落ち着いていくのを感じる。


そのときのアンの顔は、とても穏やかなものになっていた。


「これで一緒だな……」


無理矢理むりやりではない心からの笑み。


アンはロンヘアにそう言った。


だか、彼は――。


「アン……君は生きてくれ」


彼がそう言ったと同時に、船内が突然無重力状態むじゅうりょくじょうたいとなった。


そして、アンとロミーの体は天井てんじょうへとたたきつけられる。


アンはちゅうに浮いた状態から体を動かし、ロミーをつかまえるとその体をきしめた。


「こ、これは……一体……?」


それは、ホワイトファルコンが下から吹き上げてくる風によって、押し上げられていたからだった。

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